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「ちむどんどん」まで1年、黒島結菜の国民的ヒロインへの“助走”を楽しもう!

  • 2021.3.28
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黒島結菜さん(2015年8月、時事通信フォト)
黒島結菜さん(2015年8月、時事通信フォト)

来年度前期のNHK連続テレビ小説「ちむどんどん」のヒロインに黒島結菜さんが決まりました。このニュースは史上初めて、生放送で発表されることに。3月3日の「あさイチ」(NHK総合)で、沖縄の青い海をバックに彼女自身が登場して、「いつか自分もできたらいいなっていう気持ちが心のどこかにあったのも本当なので、すごくうれしい気持ちでいっぱいです」とあいさつしました。

ちなみに「ちむどんどん」は「心がワクワクドキドキする」という意味の沖縄の言葉。ドラマの舞台も沖縄で、彼女も沖縄の出身です。また、黒島さんにとって、これが3度目の朝ドラになります。最初は「マッサン」(2014年度後期)でヒロインの娘の友人、次は「スカーレット」(2019年度後期)でヒロインの夫の弟子を演じ、ちょっと変わった三角関係が注目されました。

役の重要度でも出番の量でも、三段跳びのようなホップ、ステップ、ジャンプを果たしたと言えます。

朝ドラに必要な「時をかける」才能

その三段跳びでは、助走からの踏み切りのタイミングも重要です。「ちむどんどん」は沖縄の本土復帰50年に合わせた作品。沖縄を舞台にした朝ドラでは、かつて、国仲涼子さんが主演した「ちゅらさん」(2001年前期)がヒットしたように、その方言の難しさなどから、沖縄出身の女優の方がハマりやすい傾向があります。

それゆえ、これが10年前ならやはり、沖縄出身の新垣結衣さんあたりに白羽の矢が立っていたかもしれません。その点、黒島さんは今回、年齢的にもドンピシャなところにいたわけです。

そんな彼女について、筆者は「時をかける女優」と呼んだことがあります。「年齢や時代を超えて、その設定に溶け込むことに優れた、そんな女優」という意味です。「清原果耶、時をかける女優は時代劇シチュエーションでますます輝く!」(「オトナンサー」2019年8月)という記事でのことでした。

その記事の中で、清原さんと彼女を「時をかける女優」と呼んだわけですが、清原さんは今年度後期の朝ドラ「おかえりモネ」のヒロインです。こちらも3度目の朝ドラになります。実はこのタイプの女優は朝ドラ向きなのです。というのも、朝ドラはその大半が現代劇ではありません。「年齢や時代を超えて、その設定に溶け込む」という「時をかける」才能が必要です。

そして、黒島さんはこれまでにも、この才能を発揮してきました。前出の朝ドラ2本はもとより、映画デビュー作の「ひまわり~沖縄は忘れない あの日の空を~」(2013年)や「戦後70年 一番電車が走った」(NHK総合)といった戦争モノ、大河ドラマ「花燃ゆ」(同)や「いだてん~東京オリムピック噺~」、タイムリープものである「時をかける少女」(日本テレビ系)や「アシガール」(NHK総合)、サイレント時代の女優を演じた映画「カツベン!」(2019年)などなど。

このうち、「アシガール」「いだてん」では持ち前の運動神経の良さが存分に生かされています。走る姿がこれほど魅力的な女優は他にいないでしょう。そのアクティブな躍動感が「時をかける」ことのリアリティーにもつながっているのです。

それともう一つ、彼女は精神的な反射神経にも恵まれています。すなわち、「切り替えの早さ」です。おととし12月に放送された「A-Studio」(TBS系)では、大学中退やきれい好きゆえの断捨離といった思い切りの良さを示すエピソードが紹介されました。中でも、オーディションを巡るスタンスが興味深かったものです。

というのも、本人いわく、「やる気がないように見える」タイプだからか落ちることが多かったそうです。そのため、事務所からは「役を勝ち取るつもりでやらないと」と怒られたと言いますが、彼女は「やる気を出しても私じゃないし」「歌えます! 踊れます!みたいなの本当にダメで」と自分らしさを崩さず、「合わなかったら合わないじゃないですか」というスタンスでやってきたようです。

朝ドラヒロインに必要な引き出し?

おそらく、そんなスタンスゆえでしょう。彼女はハマり役に巡り合う確率が高く、その傾向は最近、特に強まっている気がします。昨年11月、ゲストヒロインとして登場した「閻魔堂沙羅の推理奇譚」(NHK総合)では、バドミントンの天才選手で死後の世界から生還する役を演じ、実際に中学時代、沖縄県でベスト8まで進んだバドミントンの実力をのぞかせました。

また、今年3月22日に放送された「流れ星」(NHKBSプレミアム)での役は魔法使いのマリー。夫に先立たれたヒロインと共に約半世紀前にタイムリープして、夫の愛が本物だったことを証明します。

なお、この2作は動的な芝居が魅力でしたが、最新の主演ドラマ「ハルカの光」(NHK・Eテレ)ではいつになく静的な芝居でもアピールしました。震災やセクハラで負った心の傷を照明の美しさに触れることで癒やし、他の人の癒やしも手伝おうとする女性の物語です。

また、「ちむどんどん」のストーリーは食いしん坊の女の子が沖縄料理に夢をかけるというもの。彼女は昨年4月期のドラマ「行列の女神~らーめん才遊記~」(テレビ東京系)でラーメンが大好きな職人を演じました。この経験も大いに生かせそうです。

なにせ、朝ドラは半年間かけて、長い歳月を描いていきますから、そのヒロインにはさまざまな引き出しが必要です。最近の作品群からは、黒島さんが十分にそれを持ち合わせていることが伝わってきます。

まさに国民的ヒロインへの“助走”を私たちは目の当たりにしているのです。とはいえ、「ちむどんどん」のスタートは来年春。それまでにも、さらにさまざまな作品で彼女に出会えるはずです。まだ1年もあることですし、その助走を「ちむどんどん(ワクワクドキドキ)」しながら楽しむとしましょう。

作家・芸能評論家 宝泉薫

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