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カフェが生む“おもしろ”。人とカルチャーが交わる奥三茶の文化センター「マンモスビル」

  • 2021.3.22
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今注目の奥三茶エリアにある「マンモスビル」は、コーヒーを通してさまざまなカルチャーと人が交わる、いわば実験と発見の場。その個性的なルックスに惹きつけられ、多くの人々が集まってくる。コーヒーが好きで通う人、近所に住む老若男女、そしてマンモスビルの世界観にシンパシーを感じたり“おもしろ”を嗅ぎつけたりして立ち寄る人々……。オープンなスタンスだからこそ、ここではさまざまな人やカルチャーがリミックスされていく。何か楽しいことが生まれる無限の可能性を秘めた注目スポットだ。

三軒茶屋駅から下北沢に向かって茶沢通りを10分も歩けば、駅前の賑わいはすっかり落ち着く。繁華街と居住地の境目となるこのエリアは「奥三茶」と呼ばれ、飲食店やアパレルショップ、レコード店など個性的なショップが点在し、密かに盛り上がりを見せている。そんな奥三茶の突き当りとでも言おうか、休日の歩行者天国の終着地にあたる道の脇に、2020年10月にオープンしたのが「マンモスビル」だ。

1階には自家焙煎コーヒースタンド「HAPPY END BEANS COFFEE STAND」。通りに面して設けられた開放的なカウンターは、通りすがりでも会話できてしまうほど距離感が近く、実に親しみやすい。また煌々と光る「コーヒーと器具」の看板が目を惹く。

街のコーヒースタンドかなと、ふと足を止め店内をじっくり眺めてみる。コンパクトなハコの中には、オフィス街のモダンなコーヒーショップではまず目にすることがない、カセットテープや古いレコード、ZINE、個性的なアパレルグッズに、何やら見慣れない機械であふれていた。ここは一体何の店……?

ルーツはヒップホップ。だからこそ全部を「リミックス」する

「イメージは、屋台スタイルの“文化センター”です」と話すのは、マンモスビルのオーナー・岡崎絶太郎氏。自身が所属するバンド「MAMMOTH(マンモス)」にちなんで「マンモスビル」と名付けたというこのビルは、1階が妻の裕子さんが手がけるコーヒースタンドと絶太郎氏がセレクトしたアイテムを販売するショップ。夜は立ち飲み屋「幸福スタンド」となり、2階は事務所兼創作スペース(その名も「MAMMOTH GYM」)という構造だ。

「MAMMOTHは、エレクトロニカやノイズ、ヒップホップなどのバンドなのですが、活動する中で出逢ったおもしろい音源や多ジャンルのクリエイターの作品、知人や自分が作ったものを扱っています。同じような価値観を持つ仲間の作品を紹介しながら、そんな仲間が集まれる秘密基地みたいな場所を作りたいと思ったのが、この店を始めたきっかけです」

販売するアイテムを選ぶ明確な基準はなく、すべて絶太郎氏自身が長年培ってきた“独自のエモさ”にハマったものだという。扱うアイテムはもちろん、そのディスプレイの細部にまで彼なりの遊び心が現れていて、なかなか斬新に見える。

たとえば、コーヒースタンド脇の壁に穴を開けてモジュールシンセサイザーを埋め込んでいたり(もちろん販売している)、かつて小学校の理科室で使われていたという味のある古いガラス戸棚の中に、カセットテープでスクラッチができる改造ラジカセなど見たことのない機械が並んでいたり。自由な発想に富んでいる。

「基準はないけど、根底にヒップホップの思想みたいなものはあります。いろんなものを実験的に組み合わせることを繰り返すことで新しいものが生まれて、楽しいことが起きる。そんなヒップホップの発明的思想に基づくリミックス遊び、とでもいうか。これまでは、音楽やアート作品でそういうものづくりをしてきたのですが、気がつくとビルが建っていました。秘密基地といいながらかなりオープンな路面店ですし」

だがこのオープンなスタンスこそ、マンモスビルのおもしろさだ。考えてみればディープなカルチャーと呼ばれるものは、地下のライブハウスだったり路地裏の小さなショップだったり、限定的なアンダーグラウンドの世界に収まりがちだ。日常的に歩いていてふと出逢うことは少ない。

キーはカフェ。共通の“美味しいコーヒー”が人を集める

「同じ感覚が共有できる人だけが仲間内で集まる場所という考えは毛頭なくて、シンプルにおもしろくて楽しい場所を作りたいというスタンスだから、めちゃくちゃオープンです。入り口にあった重厚な扉もあえて引っ剥がしましたし、カウンターはできるだけ前に持ってきてライトに立ち寄れる場所にしました」と、絶太郎氏。

その大きなつなぎ役となっているのが、HAPPY END BEANSの存在だ。特別に「コーヒーを通じて人を集めよう」と意図したわけではなく、これまでイベント出店中心のコーヒー店として活動し、店舗を持つことを目標にしてきた裕子さんの夢を現実にするために備えたのだという。だが結果的に、誰もがアクセスしやすいコーヒースタンドがひとつあることで、マンモスビルは近所の住民たちが気軽に立ち寄っていく場所になった。取材中にも、ラフな格好をした年配の男性がふらりと訪れ、「いつもの」と、コーヒーを1杯飲んでいく姿が。

「不思議ですよね。見慣れないものがたくさんある店なのに、近所のおばあちゃんやおじいちゃんが毎朝コーヒーを買いに来てくれたり、子連れの家族が寄ってくれたりするんです。それがときには、カセットテープ収集家やモジュールシンセを目的に来たお客様と同じ空間にいることがある。そう考えると、特に音楽やアートに興味がないお客様にも、なんとなくの感覚的なものでもこの場所を『おもしろい』と感じてもらえているのかなと思っています」

HAPPY END BEANSでも、店のキャラクターを人気イラストレーターの徳永明子氏が手がけるほか、高円寺のカレー店「妄想インドカレーネグラ」とのコラボメニューを展開。クリエイターたちのとのさまざまな化学反応を楽しんでいる。

三軒茶屋という密なコミュニティを持つ繁華街から遠からず近からず、適度な距離感にあるこのエリアは、住民、クリエイター、そして独自のカルチャーを愛する人々にとっても心地良いのだろう。それぞれが好きなことをしてゆったりと過ごしながら、ほどよく人とのつながりが感じられるのは、奥三茶の魅力のひとつ。

おまけにここは、ちょうど歩行者天国の折り返し地点。駅に戻る前にちょっと立ち止まってマンモスビルをのぞいてみれば、おもしろいものや人に出逢えるはずだ。カルチャーだけでなく、これまで交わらなかった人も自然とミックスしてしまうマンモスビル。ここから何か新しいものが生まれる日は、そう遠くないだろう。

取材・文 : RIN

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