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中国の大都市住民はなぜ、「持ち家」にこだわるのか

  • 2021.3.21
北京の住宅街(2020年12月、EPA=時事)
北京の住宅街(2020年12月、EPA=時事)

年度末になり、日本は引っ越しシーズンを迎えています。住宅といえば大きく、「持ち家」か「賃貸」かに分けられますが、中国の大都市では、大多数の人が「持ち家」にこだわるとされています。その理由は何でしょうか。

大都市住民で持ち家率96%

日本人の持ち家率は総務省統計局の「住宅・土地統計調査」(2018年)によると、61%ですが、中国の大都市住民は96%です(2019年、中国人民銀行調査)。調査年と調査対象・方法が異なるので単純比較はできませんが、中国では持ち家比率が日本よりもかなり高いといえそうです。

日本でも中国でも、持ち家があることのメリットとしては、自分の資産になること、住宅ローン完済後の住居費を抑えられることなどがあります。しかし、日本では持ち家に対して、「資産」というよりも「マイホーム」という認識を持つ人の方が多いのではないでしょうか。日本では持ち家を2軒以上持っている人は少数だと思います。

しかし、中国では「家」に対する意識がかなり違います。「持ち家=資産」という意識が強く、「自分や家族が住むため」というだけでなく、「財テクの道具」として認識しています。家を1軒購入してもそれだけでは満足せず、経済的に少しでも余裕があれば、2軒目、3軒目を購入し、それを転売することで財産を増やしていこうとする人が多いのです。

そうなった背景には中国特有の歴史があります。中国では1978年の改革開放以前、住宅分配制度が実施されており、住宅は日本のように自由に買えるものではありませんでした。

都市部に住む人々は勤務先から定められた住宅に、非常に低い家賃で住んでいました。そして、1980年代に入って住宅制度改革が始まり、初めて、分譲住宅が販売されるようになりました。それまで、勤務先から借りていた住宅をかなり安い価格で払い下げされて、それを手に入れることができたのですが、一定期間たてば、それを転売することができるようになりました。

経済成長とともに、それらの住宅はぐんぐん値上がりし、高く転売できるようになりました。そのお金を元手にして、2軒目、3軒目の持ち家を購入し、財産を増やしていった人が多いといわれています。そのような経緯があるので、日本人のように、住宅を購入したら、そこに安住するという考え方の人は少ないのです。

「賃貸でもいい」と意識に変化

もう一つ、彼らが住宅にこだわる理由があります。それは結婚する際、それまで、家族と一緒に住んでいた家を出て、新しい家を買うという習慣です。

前述したような歴史があったので、中国にはそもそも、賃貸物件はあまり存在しませんでした。また、「生活力がある」ことを女性にアピールするという意味もあり、結婚する際は男性側が不動産を買い、結婚と同時に家を持つというのが、1990年代以降の中国人の新しいライフスタイルになりました。

冒頭で挙げた住宅・土地統計調査によると、日本人が住宅を購入するのは20代6.4%、30代35.7%、40代57.6%で、20代で購入する人は少ない傾向があります。しかし、中国では結婚する際に家を買わなければならないという意識が強いため、具体的な統計はありませんが、20代で家を購入する人が少なくありません。

本人に経済力がない場合は親が頭金を出したり、親が住宅ローンをすべて負担したりすることもあります。あるいは2~3軒、不動産を持っている親はそのうちの1軒を子どもに与えることもあります。もちろん、日本でも、親が子どもに家を買ってあげるということはあるでしょうが、中国人のように、結婚と同時に家を買うという習慣や考え方は日本人にはありません。

そうしたことがあり、中国では「結婚=不動産を買うとき」という認識が強く、これまでは持ち家にこだわる人が多かったのですが、最近はそうした意識に少し変化が起きており、「賃貸でもいい」と考える若者が増えつつあります。

背景には、不動産価格が高騰し過ぎてしまったことや地方出身者の場合は都市部で不動産を購入しづらい(不動産購入の条件が都市部出身者よりも厳しい)ことなどがあります。ここ数年、中国人の考え方は急速に変化していますが、それでもまだ、彼らは日本人よりも持ち家にこだわり、それを転売したいという気持ちが強いと思います。

ジャーナリスト 中島恵

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