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アメリカで「手が冷たくないハーゲンダッツ」登場、日本でも始まる容器を捨てないすごい仕組み

  • 2021.3.9
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欧米で多くのメーカーが参加している食品容器などの再利用システム「Loop」。洗剤やシャンプーのボトル、食品の容器を回収、洗浄して再利用するしくみだ。この3月、日本でも本格展開する。その中身とは――。

ハーゲンダッツ
※写真はイメージです
まだまだ認知度が低いSDGs

突然ですが、皆さんは日々の生活の中で、「SDGs」を意識していますか?

2015年秋、国連がミレニアム開発目標に関するサミットで「SDGs(Sustainable Development Goals)」、すなわち「持続可能な開発目標」を打ち出してから、5年超。日本でも一部のメーカーが、商品の成分やパッケージを、SDGsの全17の目標(ゴール)に沿ったものへと切り替え始めています。

とはいえ、現状の認知度は必ずしも高くないようです。

先日発表された調査結果を見ると、SDGsについて「詳しい内容まで知っている」と答えた事業所(調査対象:約1000カ所)は、わずか5%弱。「ある程度まで知っている」を合わせても、約3割に留まります(21年 アスクル調べ)。まだ予想以上に少ない印象です。

容器の再利用システムが日本上陸

そんななか、21年春、日本でも食品容器などの再利用システム「Loop(以下・ループ)」の展開に乗り出すのが、「ループ・ジャパン」。母体は、アメリカ発のスタートアップ企業、テラサイクルです。

理念は、「捨てるという概念を捨てよう」。世界21カ国200社以上の企業と手を組み、すでにアメリカやフランス、イギリスなどで新たなリサイクルやリユースシステムの構築に取り組んでいるのですが……、果たして日本での勝算は、どのぐらいあるのでしょうか。

「日本企業の多くは、平均的な米国企業より、はるかに環境意識が高い」と話すのは、同アジア太平洋統括責任者のエリック・カワバタさん。

「江戸時代、日本は人の排泄物も肥料として再利用するなど、ゴミゼロに近い社会を実現していたと言われます。鎖国中、島国で資源が限られていたこともあり、『もったいない』精神が根づいたのではないでしょうか」

生活パターンを変えずに環境に配慮できる

一方で、SDGsへの問題意識はあっても、身近なものとして捉えなければ、つい「まだいいや」と先送りしてしまう。環境に配慮した商品を買いたくても、「わざわざ遠くまで買いに行かなきゃ」となれば、尻込みする人も多いでしょう。

こうした中、「日本の皆さんの従来の生活パターンを変えずに、サステナブルな選択肢を増やしたい」とカワバタさん。

21年春、日本でもループシステムの試験運用が開始されますが、専用サイトでの販売(当初は、東京都内を中心とした約5000世帯対象)のほか、一部イオンの店頭に販売コーナーが設置され、消費者は一般の商品を買うときと同じように購入できるとのこと。

牛乳瓶の要領で、容器を返却

ループの仕組みは、“あの”ビジネスに似ています。そう、戸別宅配の「牛乳配達」です。

参加するメーカーは、商品を「牛乳瓶」ならぬ再利用可能な容器に入れ、先のイオンやネット上の専用サイトなどで販売します。消費者は使い終わったあと、容器を返却。すると契約施設で洗浄された容器がメーカーへと運ばれ、そこでメーカーが中身を充填し、再び販売ルートに送り出される……という流れです。

【図表1】Loopの仕組み

この循環により、使い捨てのプラ容器は不要となり、プラごみの削減につながります。肝となる「専用容器」は参加メーカー各社が、洗って繰り返し使える(しかも強度がある)容器を、独自に開発するシステムです。

実はこの部分にこそ、ループがビジネスモデルとして成立し得る“秘密”が、隠されているのです。

メーカーにとってもコストダウンになる

その秘密とは、メーカーが容器に「ループならでは」の付加価値を付けられること。

これまで多くの消費財メーカーは、市場での競争力を高める(低価格化ほか)ため、容器の製造コストをできるだけ安く抑えようとしてきました。

ですが、その視点では「ガラスよりアルミ、アルミよりプラスチックと、どうしても使い捨ての方向に向かってしまう」とカワバタさん。

ところが、これを「再利用可能な容器に切り替える」と発想するとどうでしょう。これまで10円で作ってきた使い捨て容器を、50円かけて30回使い回せる容器に切り替えるほうが、コスト面でも抑えられる計算になりますよね。

「意識高い系」以外の層にも浸透するしかけ

容器にコストを掛けられるとなれば、メーカーも凝ったデザインや素材を採用できます。

実は、ここもポイントの一つ。冒頭で、「日本はまだSDGsへの関心が高いとは言えない」と書きましたが、環境意識が高い一部の層(アーリーアダプター)からじわじわと時間をかけて広めていく方法では、社会全体の熱量がなかなか高まりにくい。

ロッテのキシリトールガムの容器。(写真提供=ループ・ジャパン)
ロッテのキシリトールガムの容器。(写真提供=ループ・ジャパン)

ですがループの仕組みによって、デザイン性が高い容器がどんどん世に出てくれば、いわゆる「意識高い系」の層だけでなく、私のような一般の消費者も「飾っておくだけでオシャレ」「ループに切り替えたい」と手を伸ばすようになるでしょう。

すると、不参加だったメーカーも「十分、売れる」「採算が合う」と、経済合理性の側面からも参加表明するようになり、スピーディに循環システムが広がると考えられます。

味の素の調味料の容器。(写真提供=ループ・ジャパン)
味の素の調味料の容器。(写真提供=ループ・ジャパン)

気になる販売価格は、例えばアメリカで展開するループ(オンライン販売)の場合、オシャレなアルミ製のボトルに入った「Pantene(パンテーン)」(P&G)のシャンプー(12.6オンス/約320ml)が、$5.50と600円弱(デポジット別途)。

日本で同ブランドのシャンプー(プラ容器入り)が、多少成分は違うものの500mlで800~1000円程度で売られているようです(21年2月末現在)。比較しても、「ちょっとだけ高額かな」ぐらいの印象ですよね。

素手で持っても冷たすぎないハーゲンダッツ

容器にコストをかけられると、「見た目」とは別の価値を付加できる可能性もあります。一例が、アメリカでループのシステムに参加する、ハーゲンダッツ。

カワバタさんによると、「同社が二重構造のスタイリッシュなステンレス容器を開発したことで、『中身(アイス)が溶けにくい』『素手で持っても冷たすぎない』という機能性を高めることにも成功しました」とのこと。

ただ一方で、ループが提案する循環システム自体を「本当に必要なの?」と懐疑的にみる人も、いるかもしれません。

かくいう私も、数年前まではその一人でした。ゴミを捨てる際には毎回、ペットボトルや食品トレーを意識的に分別しているし、統計上でも「日本は廃プラの85%を、再利用している」との数字がある(20年 プラスチック循環利用協会調べ)。

日本はプラスチックの多くをリサイクルしていて、わざわざループのようなシステムを構築しなくても、廃プラ問題は解決できると思っていたのです。

世界第2位の「廃プラ大国」の実態

ところが18年以降、風向きが変わり始めます。

前年の17年末、中国が廃プラの輸入を禁止。その後、東南アジアや台湾も次々に輸入規制を導入するようになり、「日本の廃プラが行き場を失っている」と、広く報道されるようになったのです。

恥ずかしながら、私はこのとき初めて知りました。日本が人口1人あたり換算で、アメリカに次ぐ世界第2位の「廃プラ大国」であることを(18年 UNEP(国連環境計画)の報告による)。

ちなみに、日本における「廃プラのリサイクル(85%)」には、おもに3つの方法があります。それが、以下の通り(20年 プラスチック循環利用協会調べ)。

1、「マテリアル(リサイクル)」(22%)=モノ→モノへ
2、「ケミカル(リサイクル)」(3%)=廃プラ→分子→プラスチック素材へ
3、「サーマル(リサイクル)」(60%)=燃やす→熱→エネルギーへ

このうち、約4分の1(22%)を占めるのが「1」です。モノからモノへ、すなわちペットボトルごみが再びペットボトルに生まれ変わるなど、一般的なリサイクルのイメージに近いのですが……、日本はこの「マテリアル(リサイクル)」に関わる廃プラの半数以上を、中国に輸出していた(現地でリサイクルしているとの前提)と言われます。だからこそ、これまでなんとか乗り切ってこられたのです。

すでに24社が参加を表明

ですが既にその方法も破綻しつつあり、新たなシステムの構築が喫緊の課題になっている。

そんな時代の流れを受け、この春から日本でも展開が始まる、ループ。ブランドパートナーとして、すでに味の素や資生堂、P&Gなど24社が名乗りを上げていますが(21年2月末現在)、興味深いのは「江崎グリコ」と「ロッテ」など、一般に競合と呼ばれる企業も、共に名を連ねていること。

「賞味期限があまりに短い商材は難しいですが、基本的にはわれわれの主旨に共感してくださる企業とは、前向きにご一緒したい」とカワバタさん。

メーカー側も、ループの活動に参加することで「サステナブル意識が高い企業」とのブランドイメージを抱いてもらえるほか、「リピーター」を獲得しやすくなり、カスタマーエクスペリエンス(CX)の向上にもつながるでしょう。

ループ・ジャパンの強みと課題

マーケティングや営業の世界で、よく用いられるフレームワークに「FABE(ファブ)分析」があります。

FABEはFeature、Advantage、Benefit、Evidenceの頭文字をとったもの。ビジネスの特徴を社内外にプレゼンする際、この4つを抑えておくと分かりやすいと言われます。

【図表2】FABE分析

ループ・ジャパンには「捨てるという概念を捨てる」という明確な特徴(F)があり、日本ではまだブルーオーシャン市場ゆえに優位性(A)も高い。

さらに、一顧客にはオシャレで機能性の高い容器を提供しやすいほか、参加するメーカーにもブランドイメージやCXの向上などのメリット(B)を与え得るはずです。

強いて課題を言えば、「E」のEvidence(証拠)でしょう。

先の通り、ループは計算上、一定回数の循環によって「元が取れる」システム。ただし今後、東京から地方へと対象地域を拡大した場合、どうしても物流や容器回収の際に効率が落ちるため、計算通りのEvidenceを示せるかどうかは未知数です。

そのカギを握るのは、たぶん私たち自身でもあります。すなわち、消費者一人ひとりが「廃プラをなくす」との強い意識を持つことで初めて、「捨てるという概念を捨てる」社会の実現に近づけるのではないでしょうか。

牛窪 恵(うしくぼ・めぐみ)
マーケティングライター
マーケティング会社インフィニティ代表取締役。修士(経営管理学/MBA)。2020年4月より、立教大学大学院・客員教授。同志社大学・ビッグデータ解析研究会メンバー。財務省・財政制度等審議会専門委員、内閣府・経済財政諮問会議 政策コメンテーター。著書に『男が知らない「おひとりさま」マーケット』『独身王子に聞け!』(ともに日本経済新聞出版社)、『草食系男子「お嬢マン」が日本を変える』(講談社)、『恋愛しない若者たち』(ディスカヴァー21)ほか、著書を機に流行語を広める。テレビ番組のコメンテーターとしても活躍中。

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