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エレーヌ・ロジェ=ヴィオレが撮影した遠くの国、遠くの時代。

  • 2021.3.7

エレーヌ・ロジェ=ヴィオレといわれてもピンとこないだろうが、Roger Viollet(ロジェ=ヴィオレ)といったらパリのフォトエージェンシーとして世界的に知られた名前である。その創設者がエレーヌなのだ。1938年にセーヌ通りの6番地に開業。かつてそこにはローラン・オリヴィエ写真店があり、エレーヌは夫とともにそのストックごと店を買い取って、写真の著作権を売るという新しいビジネスモデルによるフォトエージェンシーを始めたのである。

ギャラリーを設け、一般人も出入りできるようになったセーヌ通りのフォトエージェンシー、ロジェ=ヴィオレ。photo:Mariko Omura

彼女が結婚したのは、ジャーナリストを目指して学んでいる時に知り合ったジャン・フィッシェ。エージェンシーを軌道に乗せた夫妻は、1950〜70年代、ストックに足りない写真を求めるということを口実に、ローライフレックス片手に世界を旅するのだ。1936年にアンドール地方を自転車で旅していた時に、夫妻がスペイン国境の近くでスペイン戦争勃発時の人々の動きに触れたことがきっかけだそうだ。ストックにはヨーロッパの写真は多数あったので、行き先はアジア、アフリカ、アメリカ。彼らの撮影旅行によって、エージェンシーのストックはより充実したものとなった。

左:ギャラリー内。右:ぎっしりと棚に並ぶテーマ別に分けられた写真のストック。photos:Mariko Omura

昨年末、ロジェ=ヴィオレのエージェンシー内に100㎡のギャラリースペースが設けられた。600万点という膨大なストックからテーマを選んで写真展を開催する場である。2月12日に始まったオープン記念の写真展は『Les Voyages d’Hélène (エレーヌの旅)』。これまで公開されたことがなかったエレーヌ・ロジェ=ヴィオレが撮影した写真を展示販売している。独学とはいえ、アマチュア写真家の父からフレーミングのセンスを受け継いだ彼女の写真は、単なるフォトストック用の記録写真を超えた美しさを湛えている。1960年代のインドでは熊使いやポンディシェリーの港湾地区の光景、ハイチでは民俗舞踏を踊るダンサーたち……というように、テーマを決めずに行き先の日常を撮影。展示されている写真の中に、ジャーナリストを志したエレーヌの視線を感じることができる。

エレーヌ・ロジェ=ヴィオレは1961年、インドのウッター・パラデッシュで熊使いを撮影。© Hélène Roger-Viollet / Roger-Viollet

1961年、インドのポンディシェリーの港にて。© Hélène Roger-Viollet / Roger-Viollet

1966年、ヨハネスブルグの街に現れたコカコーラの看板。© Hélène Roger-Viollet / Roger-Viollet

ストックに残された写真には夫妻のどちらにより撮影されたかが記録されていない。事を面倒にするのは、夫も彼女もローライフレックスを使用していたことだ。では、今回の写真展開催にあたって、彼女の撮影による写真はどのように特定されたのだろうか。幸いにも彼らが旅先で毎晩記録を綴っていた手帳が残されていたので、それによって特定が可能になった写真がある。また夫に比べると彼女はかなり小柄だったことから、被写体とレンズの位置との関係でどちらが撮影したかがわかり、また写真をおさめた封筒の中に、エレーヌのイニシャルHが記されているものもあり……まるでミステリーの謎解きのように作業が行われたのである。

1985年、84歳の時にエレーヌは夫に殺されてしまう。2〜3年前から夫妻の間には諍いがあったとか。夫は裁判を待たずに投獄先で自殺……。それ以来、パリ市がロジェ=ヴィオレのストック写真のオーナーである。ギャラリーのオープンに伴い、展示の写真のプリントを購入することもできるようになった。サイズは30×30cm(230ユーロ)と42×42cm(320ユーロ)。プリントには年月の経過で黄ばむことのない厚手の紙を使用している。またロジェ=ヴィオレのコレクションの中から希望のテーマや時代で選んだ写真のプリントもオーダーできる。

展示より。1959年、ハバナにて。カストロの解放軍の兵士に囲まれたエレーヌ(上)を夫のジャンが撮影し、ジャン(下)をエレーヌが撮影。photo:Mariko Omura

展覧会において、これら1962年撮影の日本や台湾の写真のように、エレーヌか夫か撮影者が判別不可能な写真にはふたりの名をクレジットしている。photo:Mariko Omura

『Les Voyages d'Hélène、Une vie à documenter le monde』展開催中〜4月30日Galerie Roger-Viollet6, rue de Seine 75006 Paristel:01 55 42 89 00開)14時〜19時休)日・月roger-viollet.fr

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