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チューバと元カノ【彼氏の顔が覚えられません 第31話】

  • 2015.6.11
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「へぇ、先輩、チューバ辞めちゃったんですのね…でも、まだ音楽関係の部活されてて、ちょっと安心しましたわ」

一カ月振りに会うのに何も言えない、元カノの私。そして、1年以上経っての再会なのに、すごい親しげに話す元後輩のコモリとカズヤ。なんだろうこのアウェイ感。関係も、再会までの期間も、圧倒的に私の方が近いのに。

いや、逆なのか。近すぎるからこそ何も話せないのか。そう思いながら、カズヤが離れていくまで、ただじぃっと待っていた。

二人の話は、身内話がほとんどで大して耳に入らなかった。いちおう記憶したのは、高校時代のコモリとカズヤは吹奏楽部で、同じバスパートというのに所属していたという話だけだ。チューバもユーフォ(※正しくはユーフォニアム)も楽器の名前らしい。

で、一通り会話を終えたあとで、結局カズヤは私に話を戻すことなく去っていってしまった。コモリにチケットを2枚渡して。

「ヤマナシ先輩って、タニムラ先輩の彼女だったんですのね。それならそうと言ってくれたらタナカ先輩との誤解もございませんでしたのに…」

「いや、“元”ね」

「えっ。今でも付き合ってるみたいにおっしゃってましたけど…あぁ、けんか中なんですのね。はい、じゃあこれ、きっと仲直りの印ですわ」

チケットを1枚差し出すコモリ。いらない、といって突っ返すのは簡単だったけど、なんだかコモリに対して八つ当たりしてるみたいでイヤだった。怒りは、カズヤに対して直接ぶつけるべきだ。

そう思って、コモリから渋々チケットを受け取ったのである。

――そして、ライヴ当日。いよいよカズヤの出番だ。

出てきたのは、二人のフォークギタリスト。背の低いややぽっちゃり系の女性と、もうひとりはピンク色のウサギ。

そう、ウサギだ。頭にでかいウサギの着ぐるみをかぶったやつが現れた。首から下は、Tシャツとジーパンという格好。さすがに、体にまで着ぐるみにすると楽器が持てないからだろうが、すごくシュールなものに仕上がってる。

「えぇ…みなさん、こんばんはー。初めて舞台に立たせていただきましたー。"178(イナバ)ライダー"でーす」

しゃべったのは、ぽっちゃり系の女子。声でマナミだとわかった。“ずっとギター友達だよ”。いつかのカズヤのセリフがよみがえってきた。あの言葉、本当だったのだろうか?

ウサギの方は…たぶんあれがカズヤなんだろうけど、何にも言わない。「ご紹介しまーす。私の相方の…というか、マスコットキャラクターの、178(イナバ)ちゃんですー。そして私が、キユーピー・マナミでーす。よっろしっくねー」ぜんぶ、マナミがしゃべってる。

どうしよう。178ちゃんはともかく、キューピー・マナミって。そのセンスどうなの。間柄はともかく、自分の知り合いが舞台の上で醜態さらしてるのって、恥ずかしくてどうしようもない。いますぐ帰りたい。

「へぇ、シノザキ先輩とユニット組まれたんですのね…」

と、コモリ。シノザキって…あぁ、思い出した。マナミの苗字…。

てか、あいつも付属かよ。

(つづく)

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(平原 学)

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