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家入レオ「言葉は目に見えないファッション」vol.22 緊張との付き合い方

  • 2021.2.19
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クォーター・ライフ・クライシス。それは、人生の4分の1を過ぎた20代後半〜30代前半のころに訪れがちな、幸福の低迷期を表す言葉だ。25歳の家入レオさんもそれを実感し、揺らいでいる。「自分をごまかさないで、正直に生きたい」家入さん自身が今感じる心の内面を丁寧にすくった連載エッセイ。前回は vol.21 断捨離

vol.22 緊張との付き合い方

2月15日にデビュー10年目に入りました。

どんな気持ちか尋ねられる機会がここ最近続いていたのですが、正直、自分に対してのあたたかい感慨はほとんどなく。

代わりに、歌を歌う道すがらでの出来事や出会い、頂いた言葉に耳を澄ませたり。

無知が故の行いを思い、もう同じ過ちは繰り返すまいと、手を合わせたりしていました。

そして、当たり前にまだまだ道のりは遠く険しそう。

思わず、うーんと唸りながら深く腕組みする自分と、悪戯を企む子供のような気持ちの自分がいて、兎に角やれることをやろう、と。

一見華やかに見える世界も、蓋を開けてみると、思った以上に地味な所で。

終わりなどないし、黙々と自分と向き合い作品を作っていく、孤独な場所だなと。

ある時、同じく音楽を生業にしている友達に、自己評価と他者評価って常に一致している?と尋ねられたことがあって。

私は、少し考えた後で首を横に振り、ノーと答えた。

例えば、全国ツアーをしている時。

ライブを終え、今日良かったなと、反省会に行くと、意外と意見が合致しなかったり…

逆に、今日はあまり自分の力が出せなかったかもと思っていると、すごく良かったですね!と言われたりする。

ちゃんと、良いライブだった!と気持ちが重なることもあるからこそ、そのすれ違いの誤差をできるだけなくしたい。

分析するに、伝わる歌だった、と言われるライブ前、私は緊張しているのだ。

歌いたい、と、緊張してる、を心が行き来している開演までの間。

ご飯を食べたり、メイクをしたり、普段通りのことをしながら、内側で、自分を律すること。

周りと打ち解けながら、緊張を維持するってとても気力のいることだ。

だけど、その心を守りきってステージに上がると堰き止められていた感情が一気に放出されて、凄まじい集中に繋がる。

反対に、そういうことをすっ飛ばして、ステージに上がると、余計な自我を歌にプラスする余裕があるものだから、自分では気持ちが良いけど、それが果たして伝わる歌、であるのかは分からない。

10年の中で、色んな実験をした。

どんな精神状況で、どんなものを食べて、どんなトレーニングをした時が、パフォーマンスが上がるのか。

緊張しない方が良いのでは?と、自宅のキッチンで歌っているのと同じ心でライブをしたこともある。

でも、あぁ、お金を払ってもらって歌うってこういうことかぁと思った。

緊張は確かに、不自由だ。

だけど、決して悪いものじゃない。普段の自分からは想像もできないようなパワーをくれる。

跳び箱を飛ぶ前の、ジャンプ台、ロイター板のような。非日常の景色を私にプレゼントしてくれる。

本人が楽しんでいるからお客さんも楽しむことができる、という言葉を耳にするけれど、全ては心地良い緊張感の中で、行われるべきことであって。

そのバランス感覚を操るのが上手な方をプロ、と言うのだと思う。

背中合わせの張り詰めたものを感じながら、目の前の瞬発力に身を任せる、非日常が、大好きで、大好きで、大嫌いだ。

私は、今年、どれだけ緊張を飼い慣らしながら、自分の欲を満たす為じゃなく、響く歌を歌えるだろうか。

あー早くライブしたい。

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