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上司にタメ口!? 職場で「大人の発達障害」の人とうまく仕事を進めるコツ

  • 2015.6.9
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【女性からのご相談】

20代です。就職超氷河期の2010年代初頭に大学を卒業し、アルバイトを転々としてきましたが、この春、やっと中小の製造企業に正社員として就職することができました。希望に満ちた毎日ですが、一つ悩みがあります。 最初の半年間は製造現場での実習があり、今その真っ最中なのですが、工場の作業員さんたちの中に“大人の発達障害”の人が何人かいて、コミュニケーションに苦労しています。彼氏は、「中小企業の工場とかが受け皿にならないと、そういう人たちの仕事がないだろうし、仕方ないよ」と言います。でも、ホントに大変で、突然激しく叱責されるし、場を和ませようと言った冗談は完全にスルーされます。うまく付き合う方法があるならぜひ教えてください。

●A. うまく付き合おうとせずに、その人たちの人間性を認めてあげてください。

こんにちは。エッセイストでソーシャルヘルス・コラムニストの鈴木かつよしです。ご相談ありがとうございます。

ご相談者様がおっしゃる、「“大人の発達障害”の人」というのは、おそらくASD(自閉症スペクトラム)の特徴が比較的強く見られる人たちのことかと思います(スペクトラムとは“連続体”の意味です)。2013年頃までは、“アスペルガー症候群”という診断名で呼ばれていました。

男性に多く、“空気が読めない”ことや、“他人の気持ちがわからない”といった特徴がある一方で、“細部によく気がつく”“ルールにこだわり、律儀である”といった仕事に活かしやすい特徴も併せ持った人たちです。さまざまな分析がありますが、厚生労働省は国民の100人に1人から2人がこのASDの特徴を強く持っているとしています。

こういった特徴を持つ人たちと職場で一緒にやっていくには、“うまく付き合おう”とせずに、その人たちの人間性を認めてあげることが重要です。以下の記述は都内で精神科クリニックを開業する医師の話を参考にしながら、進めさせていただきます。

●大人の発達障害と向き合う際、“診断名”にこだわるのはあまり意味がありません

“大人の発達障害”と表現された方々は、おそらく、職場全体で残業をしないと納期に間に合わないようなときでも、平気で、「帰ります」と言って帰ってしまうような、空気が読めない人たちのことだろうと思います。

また、「失礼しました」と言えば、「本当に失礼ですね」と返すなど、思ったことを何でも口に出して言ってしまったり、突然怒り出して食ってかかったり、かなり年上の人や上司にもタメ口で話しかけたりといったところがある人たちなのではないでしょうか。

『そのような人たちは、おそらくASD(自閉症スペクトラム)であろうと思われます。しかし、お話を聞いただけでそういった“診断名”にこだわることは、精神科医師の立場で言うとあまり意味がありません。なぜなら、ASDやADHD(注意欠如多動性障害)、学習障害などの症状は多くの場合併合しており、またそういう診断名は専門家によって定義がまちまちでクリニックによっても変わるからです。

この分野の医学領域においては、一人の患者さんを私と別の精神科医で診察したとき、それぞれ診断名が違うということが珍しくありません。大切なことは、そういった個性のある人たちに、職業を通して社会参加してもらい、納税して社会貢献してもらうことです。社交性を期待することさえしなければ、工場の製造工程のルーティンワークなどは非常によくできる、という人がけっこう多いのです』(50代女性/都内精神科クリニック院長・医師)

●発達障害の人は生まれつき脳の一部に機能障害があり、治ることはありません。ポテンシャルと考え、周囲がその特性を理解してあげましょう

『大人の発達障害の人たちと職場で円滑に仕事を進める方法として、ご相談者様が担当の営業部門と、彼らが担当の製造ライン部門とが重なる領域(納期とか品質など)を、できるだけ事前に伝え、マニュアル化してあげることが挙げられます。人間関係の円滑化などといったことは、一切考えないでください。例えとして適切かどうかは分かりませんが、いわゆるマイルドヤンキーの人たちが“至上の価値”と位置づけている“コミュニケーション力”は、発達障害の人たちにとっては“無用の長物”以外の何物でもないのです。

発達障害は、生まれつき脳の一部に機能障害があることに起因する特性です。精神科的な治療で症状を緩和させることはできますが、治ることはありません。ましてや“根性”や“気合”で改善することなどは絶対にありません。発達障害をポテンシャル(潜在的な能力)と捉えて理解し、それを実社会の中で活かしてもらうことを考えるべきなのです。以前は、わが国にも中小零細規模の製造業の工場がたくさんあり、発達障害を持った大人たちの職業的な受け皿になっていました。“寅さん映画”に登場する“タコ社長”の印刷工場のようなイメージですね。今、そういった工場の多くは、グローバルな社会的分業化に伴って、相当数がアジアやアフリカ、中南米の国々にその拠点を移してしまいました。それだけに、これからの課題は今の時代の成長産業分野で彼らの特性を活かすことだと思います』(50代女性/前出・精神科医師)

●発達障害の人たちには、実はいろいろな“適職”がある

いかがでしたでしょうか。

ご相談者様は真面目で、どんな人とでもいい人間関係を築きたいという気持ちが強いのだと思います。しかし、“大人の発達障害”の人たちには、それこそ“ありのまま”にその特性を発揮していただくことを考えた方が、本人にとっても周囲にとってもいいようですね。

最近の傾向としては、IT関連企業などで大人の発達障害の人たちを積極的に雇用する動きが広まりつつあるようです。

『私の患者さんでASDの特徴が見られる30代の男性は、“空気が読めない”ことを強みにして、IT企業の総務部に、エンジニアたちのスケジュール管理担当として就職することができました。けっして空気を読まず、いついかなるときでも、「今の進捗状況はどうですか?」と確認することができるため、向いているのです』(50代女性/前出・精神科医師)

逆説的な見方かもわかりませんが、以前、ある医療福祉系の大学で職員として勤務していたころ、「ASDの特徴を持っている人は、営業職に向いているのではないか」と思ったことがあります。

「良い」と信ずる自分の会社の商品や企画を、押しの強さで上手に説得するからです。しかも、2度や3度契約を断られたくらいでは何とも思いません。へっちゃらです。

これまで、発達障害の人たちの適職は、工場での作業の他に、イラストを描いたり、動物の世話をしたり、といった仕事だと言われてきました。しかし、こうして考えると、実はいろいろな“適職”があるような気がしてなりません。

工場での研修で出会った、「コミュニケーションを取るのが大変」な人たちと、ご相談者様が、これから天職とされる営業の分野で力を発揮し合うというのも、素晴らしいことなのではないでしょうか。

●ライター/鈴木かつよし(エッセイスト)

慶大在学中の1982年に雑誌『朝日ジャーナル』に書き下ろした、エッセイ『卒業』でデビュー。政府系政策銀行勤務、医療福祉大学職員、健康食品販売会社経営を経て、2011年頃よりエッセイ執筆を活動の中心に据える。WHO憲章によれば、「健康」は単に病気が存在しないことではなく、完全な肉体的・精神的・社会的福祉の状態であると定義されています。そういった「真に健康な」状態をいかにして保ちながら働き、生活していくかを自身の人生経験を踏まえながらお話ししてまいります。2014年1月『親父へ』で、「つたえたい心の手紙」エッセイ賞受賞。

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