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理性か本能かーーこってりラーメン愛好者が「ベジタリアンブーム」到来で思うこと

  • 2021.2.12
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健康・環境意識などの高まりから近年、動物由来の成分を使わない植物性食品がブームとなっています。そんななか、ラーメンやカレーなどを愛するフードライターの小野員裕さんがブームについて持論を展開します。

「家飲み」対策としてのラーメン

コロナ渦で「家飲み」が増えています。店と違って家飲みは際限ないため、二日酔いになりがちです。そんなとき、私(小野員裕、フードライター)が食べるのは「蒙古タンメン中本」の各種激辛ラーメンです。特に「味噌(みそ)卵麺」を食べると胃袋が元気になり、汗だくになって体調が徐々に回復します。

「デリー上野店」(文京区湯島)のカシミールカレーも同様です。毒をもって毒を制すではありませんが、二日酔いの体にレッドペッパーの辛味やガーリックの刺激をぶつけています。

某大手劇団にいた知り合いは、練習の合間に「天下一品」を毎日のように食べていたそうです。しかし、劇の本番が終わるとその欲求がまったくなくなったと言います。「劇団にいた頃は練習が激しくて、天下一品のラーメンを食べるとめちゃめちゃ元気になったんだよ。不思議だったな」

天下一品のラーメンはドロっとしているため、脂質がかなり高い印象です。彼は激しい練習で酷使した体を回復させる何らかの要素が、天下一品のラーメンにあると本能的に感じていたのかもしれません。

同様にスタミナがつきそうなラーメンと言えば、「ラーメン二郎」「鬼金棒(きかんぼう)」「卍力(まんりき)」などが思い浮かびます。どこも人気店で、いかにもエネルギーを補充できそうなインパクトのあるラーメンを出してくれます。

こってりラーメンのイメージ(画像:写真AC)

そのほかには果物、ポークソテー、しょうが焼き、焼き肉、牛丼、牛ステーキなど、糖分、脂質、ビタミンを多く含んだ食事がしっくりくるのではないでしょうか。これらの食べ物を受け付けない人のなかには、サプリで補う人もいます。

肉しか受け付けなかった昭和の小説家

かつて、「山窩(さんか)」(少数集団で山あいを漂泊して暮らした民)を題材にした小説で知られた三角寛(みすみかん、1903~1971年)という作家がいました。三角は野菜を一切受け付けない体質で、八百屋の前を通るだけで吐き気がこみ上げてくるほどだったそうです。

三角寛『山窩は生きている』(画像:河出書房新社)

当時(大正~昭和初頭)の日本は肉をさほど食べられる環境ではなかったこともあり、「肉を思いのまま食べられるところはどこだろう」と思いついたのがモンゴルでした。友人から「仁丹(口中清涼剤)を持っていけ」と助言され、大量の仁丹をリュックサックに詰めて旅立ったと言います。

昭和初頭のモンゴルには薬が普及していなかったため、体の弱った人に仁丹をなめさせたところ、たちまち元気になり、各地域のゲル(モンゴルの遊牧民が使用する移動式住居)で神様のような待遇を受けたそうです。

三角はそこで羊肉を存分に堪能していましたが、ある日、欧米人の旅人に仁丹をすべて奪われてしまい、仕方なく帰国したのでした。

東京にあるベジタリアン対応レストラン

さて、三角寛とは逆の、野菜しか受け付けない体質、もしくは宗教や信条で、ベジタリアンを志向する人がいます。真っ先に思いつくのがインドの人たちです。

ベジタリアンと言ってもそのカテゴリーは広く、乳製品や卵は食べる人もいれば、野菜や果物、穀物以外はまったく口にしないビーガンと呼ばれる人たちもいます。

インド料理屋「ゴヴィンダス」(江戸川区船堀)の店主から聞いた話ですが、同じベジタリアンでも、少数のインド人は土に埋まっているものは食べないそうです。つまり玉ネギやニンニク、ジャガイモすら食べないという厳格さです。

江戸川区船堀にあるインド料理屋「ゴヴィンダス」(画像:(C)Google)

インド料理は玉ネギやニンニクを主材料にカレーを作りますが、そんな彼らは主に豆カレーを主食にしているようです。かつて私がヒンズー教の聖地・北インドのベナレス(バラナシ)を訪れたとき、ほとんどの食堂は野菜系カレーばかりで苦労したのを思い出しました。

「ナタラジ銀座店」(中央区銀座)ではインド伝承医学のアーユルヴェーダに基づいたカレーを提供しています。大豆ミートカレーの先駆けの店として知られています。

また近年話題の大豆ミートで言えば、カフェチェーン「ドトール」に全粒粉入りパンに大豆ミートハンバーグはさんだ「全粒粉サンド 大豆ミート ~和風トマトのソース~」があります。

地球環境か己の欲望か

先日、ニュースサイト「GIGAZINE」に掲載された「ベジタリアンをやめて分かった『4つの教訓』とは?」という記事を読みました。内容は、畜産業が発する温室効果ガスによる気候変動に疑問を抱いたアメリカの作家、アンバー・カールソン氏が3年間にわたって菜食主義を貫いた経験と、肉食への転向で得られた話です。

マイケル・ポーラン『雑食動物のジレンマ』(画像:東洋経済新報社)

学生の頃、マイケル・ポーラン著の『雑食動物のジレンマ』を読んだカールソン氏は、肉を食べることに耐えられなくなり、3年間ほど菜食主義を貫いたそうです。しかし偏った食生活にから、体調不良に陥ったと述懐しています。

「ベジタリアンやビーガンとしてバランスのとれた食生活を送ることは本当に難しいことでした。生きるのに必要な栄養素を植物だけでまかなうのは、不可能ではないにせよ信じられないほど困難です」

同著ではさらに、鉄分を「植物から摂取するのが難しい栄養」の代表格として挙げています。鉄分は葉物野菜や豆類などにも比較的豊富に含まれています。しかし、植物性食品の鉄分は動物性食品に含まれる「ヘム鉄」と呼ばれる鉄分に比べると吸収率が非常に低いため、十分な量を摂取するのが難しいとのこと。

このような栄養不足から体を壊してしまったカールソン氏は、悩んだ末に肉を口にしました。そうしたところ体調が良くなり、「まるで、何年も欠落していた栄養を、かけがえのない形で受け取っているような気さえしました。肉を食べるのは決して簡単な決断ではありませんでしたが、100%正しい判断でした」と書いています。

肉を体が受け付けない人は別として、個人的には何でも好きなものを食べるのがベターなような気がします。つまり体の根源的な欲求に従うのが人間本来の姿で、その欲求に従うのが望ましいのではないでしょうか。

環境に優しい食べ物と言えば、昨今注目されているのが昆虫食です。イナゴやハチの子、ざざ虫などは日本でも伝統的に食べられてきましたが、インパクトのあるそのルックスに戸惑う人も少なくありません。雑食を自認する私ですが、もし世の中に昆虫食しか存在しなくなったら、真っ先にベジタリアンになるかもしれません。

小野員裕(フードライター、カレー研究家)

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