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豆苗を植えて育て、豆にして……もはや大河ロマン! 日常の「食」の“ふしぎ”を追った『育ちすぎたタケノコでメンマを作ってみた。』

  • 2021.2.10
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時短、カンタン、ヘルシー、がっつり……世のレシピ本もいろいろ。今注目したい食の本を、フードライター白央篤司が毎月1冊選んで、料理を実践しつつご紹介!

今月の1冊:『育ちすぎたタケノコでメンマを作ってみた。』玉置標本 著

豆苗を植えて育て、豆にして……もはや大河ロマン! 日常の「食」のふしぎを追った『育ちすぎたタケノコでメンマを作ってみた。』の画像1
家の光協会 1500円(税別)2020年4月20日発行 A5判 撮影:白央篤司

あったかくて、楽しくて。

読んでいる間、ずっと心地よかった。お気に入りのラジオ番組を流しているときのような、あるいはごひいきの落語家の録音をかけているときのような、ゆるりホガラカな愉しさが、この本にはずっと流れている。

副題に「実はよく知らない植物を育てる・採る・食べる」とあるとおり、ゴマ、ザーサイ、カンピョウ、コンニャクなどを筆者が育てて食べてみる。あるいは河原に生えてるカラシナの種やドングリから粒マスタードや麺を作る、その記録的エッセイ。

著者の玉置標本さんは1976年生まれ、「釣りや料理が好きなフリーライター」で、趣味は「自然の中や家庭菜園からの食材調達全般」だが、あくまでもそれらは趣味。本著も「素人目線の体験レポート」とまえがきで最初に書かれる。

ゴマやコンニャクがもともと植物であることは、多くの人が知っている。けれどどんな姿で生えているのか、どのように実るかを知っている人はごくまれだろう。コンニャクなど収穫できるまでには何年もかかる。ほかに効率のよい作物がいくらでもあるのに、なぜずっと作り続けられているのか。そこで玉置さんは畑で実際に育ててみたくなる。

「すると単純においしいからだけではない、自分なりに納得できる答えを見つけることができたのだ。これが最高に気持ちいい」
「知識として知ることだけが目的なら、ネットで調べれば一瞬で答えにたどり着けるかもしれない。それでも種や芋を植えるといった解決方法を選び、ゆっくりと順を追って確認したいのである」

子どもの頃は自由研究のテーマなんて全然浮かんでこなかったのに、大人になったら試行錯誤をいとわず調べたいことがたくさん出てきた、と続く。なんて書くと、すごーく硬い研究本と思われそうだが、いやいやとんでもない。

豆苗を植えて育て……もはや大河ロマン

豆苗を植えて育て、豆にして……もはや大河ロマン! 日常の「食」のふしぎを追った『育ちすぎたタケノコでメンマを作ってみた。』の画像2
撮影:白央篤司

小さい頃、NHK教育(現在のEテレ)の番組を見るの、好きじゃなかっただろうか。植物がグングンと生長したり、種の中でどんな変化があって発芽に至るのかが見られたり。さほど高くない熱で休んだときなど、布団に入りながらぼんやりそれらの番組を見るのが私は楽しかった。その楽しさと、本書の楽しさは似ている。日常世界に転がっているたくさんの“ふしぎとひみつ”をわかりやすく示して、見せてくれる面白さ。

観察内容と同時に、玉置さんの語り口が大きな魅力だ。そう、筆致というよりは語り口。先にもラジオとか落語にたとえたが(上質な落語のマクラっぽいんだ)、すごく面白い独り言を聞かせてもらってるような感じ。淡々、軽妙、落ち着いたユーモア。そしてほどほどにクール。例を挙げたいのだが、一部を抜粋したところでこの面白さは伝わらない。

食に興味のある人ならきっと楽しめると思う。個人的に好きだったのは未熟のクルミを使っての果実酒づくりの回(イタリアにそういうものがあるのだそう)。そして食べた豆苗を植えて育て、生ったサヤエンドウを食べ、実った豆でみつ豆を作り(寒天と蜜も自作)、その豆をまた育てて豆苗を再収穫するという回。もはや大河ロマンであり、一大プロジェクトと呼んでもいいだろう。読んでいるとき、中島みゆきの「地上の星」がなぜか心に流れてきた。

白央篤司(はくおう・あつし)
フードライター。郷土料理やローカルフードを取材しつつ、 料理に苦手意識を持っている人やがんばりすぎる人に向けて、 より気軽に身近に楽しめるレシピや料理法を紹介。著書に『 自炊力』『にっぽんのおにぎり』『ジャパめし』など。

サイゾーウーマン編集部

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