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「24年前、男性用の抱っこひもはなかった」「別れても一緒に子どもを育てる」離婚を取材するライターが語る、子育てと社会の変化

  • 2021.1.29
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サイゾーウーマン連載のルポ「別れた夫にわが子を会わせる?」をまとめた著書『子どもを、連れて逃げました。』(晶文社)を、2020年11月に上梓したノンフィクションライターの西牟田靖さん。同書の出版を記念して、100人以上の女性に離婚・結婚観を聞いてきたフリーランスライター・上條まゆみさんとのトークイベントがB&Bで行われた。その内容をレポートする。

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上條まゆみさん(左)と西牟田靖さん (C) サイゾーウーマン

話してくれたことを、丸ごと受け止めたいと思った

上條まゆみさん(以下、上條) 『子どもを連れて、逃げました。』は、男性が描く女性の離婚ですが、8つのパターンが載っているので、読む人もどれかには共感できると思います。書き方として、質問に対して答えがあり、女性のセリフをそのまま載せているので、読み手としては、男性の方に解釈されるよりもストレートに伝わると思います。

西牟田靖さん(以下、西牟田) 今回の出版の経緯としては、この本の前に、『わが子に会えない』(PHP研究所)という本を出しました。子どもと別れて暮らす男性18人に取材してまとめた本です。そもそも自分が2014年3月に離婚に至り、引きちぎられるようなつらさがあったんです。心理的に、自分自身がずっと否定されるつらさがあったので、周りに助けを求めました。ネットで検索すると、共同親権運動ネットワーク、親子ネット、別居親の自助団体などが出てきて、交流会に足しげく出席するうちに、自分だけじゃないと知って楽になりました。

僕の場合は、面会条件も公正証書を作って別れたのですが、交流会で会った人の中には、家に帰ると誰もいなくなっていたというケースもありました。旦那だけ追い出されて、向こうの親と妻が子どもを殺してしまったケースや、男性側の証言では、妻が浮気したのに、子どもの親権を得るためにDVの冤罪をかけられたというケースもありました。

僕みたいに合意して離婚しても10キロ痩せるぐらいなのに、もっと大変な思いをしている方がいっぱいいて、ライターとしてこういう問題を伝えていかないといけないと思いました。それで、『わが子に会えない』の出版後に、4〜5本の媒体から取材を受けた中に「サイゾーウーマン」からのインタビューもありました。親子断絶防止法がどうなるか盛り上がった時期で、批判的なトーンでインタビューに来たんです。そのときに、「男性の言い分ばかり聞いているけれど、一緒に暮らしている女性に、なぜ話を聞かないのか?」と言われたのがきっかけで、連載が始まりました。冤罪とおぼしきケースや、一方的に妻が子を連れていったケースを集めようと思ってもなかなか集まらないので、少し広げて、同居親(子どもと同居している母親)というカテゴリーで書いてみることになったんです。

Q&Aという形式をとったのは、男性である僕が口挟みながら書くと、伝わらない気がしたし、取材相手はわざわざ出てきてくれているので、話してくれたことを丸ごと受け止めたいと思ったからです。書籍化するときは、テーマを俯瞰的にするために、時系列をシャッフルして、テーマの説明と解説を書き、前書きと後書きをつけました。テーマを串刺しにするために、自分自身の生い立ちを書くことで、まとまりをつけました。

連載時にはモラハラや暴力を受けて、大変な思いをして話してくれている、その人たちを傷つけたくないという思いで、自分の言葉をあまり入れませんでした。自分は別居親という立場だから、取材相手が僕を別れた夫と重ね合わせて、僕が何げなく言った言葉が不用意なトラウマを呼び起こすことはないか気にして、プレーンな状態で書きました。それで、書いている途中に、自分が公平に書いているつもりでも、傷つけてしまったりしないか考えて、書いては消しをずっとやっていて時間がかかってしまいました。

ステップファミリーでもあり、別居親でもある

上條 西牟田さんは、ステップファミリー(子連れ再婚家庭)で育って、いろんな意味で当事者でいらっしゃいますね。

西牟田 うちは上に2人、兄と姉がいて、父と母それぞれの連れ子なんですよ。上の2人は別れた側との交流がほとんどない。そういう自分が書けば、単なる別居親ではなく、深みを出せるかと思いました。

上條 世の中には、子どもが親に会えないとか、いろんな問題があります。私も離婚家庭に育っているのですが、当時の風潮でしょうか、父親に定期的に面会するということはありませんでした。私は3人きょうだいで、小学校高学年くらいのときに父と離れたので、その後、高校生くらいになってから自分で父親に連絡して会いに行きました。でも、妹たちは小さいときに父と離れたためか、あまり父の記憶がなかったようで、特に会いたいとは思わなかったようです。ですから、離婚は子どもの頃から身近なところにあったんです。

父親が再婚していたので、私もステップファミリーに当事者性を持って聞けるかなと思います。ひとつ気をつけているのは、「わかるわかる、そうだよね」となりすぎるのは、よくないということです。一方の話だけになってしまわないよう、ちょっと俯瞰するように気をつけています。かわいそうだよね、というまとめ方は、その後幸せになれない。話を聞く中で、私も自分の経験を反すうして、負の経験をどうまとめようか考えています。プライベートな話を聞かせてくれる方には、感謝しかないですね。みんなリスペクトしています。学びになります。

西牟田 みんなたくましいですよね。『わが子に会えない』のときは、子どもと会えない人に対して、「そうだそうだ」と共感して乗っかっていたので、客観性があまりなかったんですが、いろいろな人の話を聞いたり法制を知って、客観的に見られるようになってきました。あのときの男性の話は、実際はどうだったんだろうーーと思い返したりするようにもなりました。

上條 事実はあるけれど、人によっていろんな見方があって、どれも正しいんですよね。

世の中が変わり、子育ても変わってきた

上條 私の頃は、まだ寿退社という言葉が生きていましたし、学生時代の友達で、今もずっと仕事を続けている人は少ないですね。そういう時代だったので、男の人が子育てをすることもあまりなかった。24歳の長男が0〜1歳の頃、1996年頃には、男性用の抱っこひもはありませんでした。6歳下の子が生まれた17年くらい前、2002年頃からマクラーレンのベビーカーがはやりだしました。バーが高くて、男性にも合うベビーカーです。

西牟田 『昭和44年生まれ わが世代』(河出書房新社)という本を見ていたら、「保育園第一期生」とか「電車で五駅離れた『中野』の保育園まで通っていた」と書いてあったんですよ。その頃、「保育園に入れるのは、子どもがかわいそうだ」という話があって、確かにまだごく一部でした。今は男性が子育てに関わったり、保育園に連れていったり、変化はかなりあったということですね。

上條 「離婚するからといって、責任から逃れてもらっちゃ困る」という女性が増えているように思います。

西牟田 僕の子どもは2010年生まれですが、3分の1くらいは父親が保育園への送り迎えをしていました。僕が子どもの頃は、保育園に通っている子どもは、周りにはほとんどいなかった。

上條 世の中が変わり、子育ても変わってきましたね。

西牟田 僕も、子育てをするとわが子により愛着を感じるようになりました。時代が変わったから今、共同養育、共同親権という話につながってきているのではないでしょうか。

上條 法整備されそうですが、されても、「会えるか」というのは別ですね。

西牟田 結婚しているときに、いかに一緒に子育てしているか、共同養育が下地としてあってこその、共同親権なのかなと思います。

上條 いい方向に向かうことを願っているんですけど。

西牟田 共同養育を前提に離婚を考える人にとっては、共同親権が法制化されれば、世の中が少しずつ変わり、いい方向に向かっていくかなと思います。

離婚しても、やり直せる

上條 教科書やドラマの描写も変わりますね。娘がアメリカ留学をしていたことがあるのですが、向こうでは離婚やステップファミリーも多かったと聞いています。子どもたちの世代がドラマとか漫画を通して知るようになれば、変わっていくのかなと思います。

西牟田 1979年の映画『クレイマー、クレイマー』では、日本の親権にあたるものを争っていて、どっちが面倒を見るのかやりとりし、母親が親権を諦めるが、交流は続く、という話です。2019年の映画『マリッジ・ストーリー』では、共同で育てること自体はすでに前提としてあって、生き別れになるというステージでは全然ないんですよね。日本も面会交流調停の増え方を見ても、別れても一緒に子どもを育てるという動きになってきていると思います。法制化はいつ実現するかわからないですが、日本でも『マリッジ・ストーリー』みたいなドラマは出てくるだろうし、楽観視しています。

上條 私自身も学びの過程なのですが、「FRaU」(講談社)の連載「子どものいる離婚」を通じて伝えたいことは、「失敗しても、やり直せるよ」ということです。離婚を勧めるのではありません。長い結婚生活の後で、ひとりに戻るのは心細かったけれど、取材する中で、離婚が思っていたほど怖くないと気づいたのです。

お金の問題は重要で、パートや扶養に関わるので離婚をせめぎ合ったりするし、旦那さんから「離婚してくれ」と言われる人もいます。どん底から立ち直っていく人もいます。何歳でも頑張り直すことはできるし、「幸せになろうよ」って思います。失敗を肯定したい気持ちが強くて「離婚したっていいじゃない」という気持ちも、「しなくて済むならしないほうがいいよね」という気持ちもあります。結婚生活を続けながら失敗を回復していくこともできたかもしれない。

西牟田 本の感想で、「自分は絶対会わせないと思っていたんだけど、いろんな人のケースを読んで、自分が偏っていたと知った。俯瞰できてよかった」「渦中のとき読んでたら、もっと早く楽になったかも」という声もあって、別れようか悩んでいる人はもちろんですが、結婚前の予習として、人生を切り開く材料として読んでもらえたらと思っています。

サイゾーウーマン編集部
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