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外出自粛要請で来客減 小売店の「営業の自由」侵害に当たらないのか

  • 2021.1.24
外出自粛を要請する小池百合子都知事(2020年12月、時事)
外出自粛を要請する小池百合子都知事(2020年12月、時事)

政府や緊急事態宣言の出されている都府県の知事が当該地域の住民に対して、昼夜を問わず不要不急の外出自粛を要請しています。一方で、飲食店以外の小売店の営業については現在のところ自由です。人の流れを止めるなら、本来は毎日の生活必需品を販売するスーパーなどを除いて、小売店にも補償をして休業してもらうことが効果的だと思うのですが行われていません。小売店が自由に営業できても、政府や自治体から住民に外出自粛の要請がされていれば、小売店の来店客が減少する要因になりかねません。

来店客を減少させかねない要請が行われている現状は、小売店が自由に営業する権利を侵害していないのでしょうか。佐藤みのり法律事務所の佐藤みのり弁護士に聞きました。

外出自粛要請の必要性は高い

Q.来店客を減少させかねない要請が行われている現状は、小売店が自由に営業する権利を侵害していないのでしょうか。

佐藤さん「住民に対して、不要不急の外出自粛の要請を行うことは小売店の営業する権利を直接的に制約するものではないため、憲法で保障された『営業の自由』を侵害しているとはいえないでしょう。『営業の自由』の侵害に当たるか否かは規制目的や規制態様を踏まえ、規制の必要性や合理性が認められるかで判断されます。

今回、住民へ外出自粛要請がなされたのは医療が逼迫(ひっぱく)する中、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぎ、国民(住民)の命や健康を守るためなので、要請する必要性は非常に高いといえます。また、新型コロナウイルスについてはいまだに不明な点が多いとはいえ、外食の自粛だけでは感染拡大を止められない現状があります。従って、外出自粛要請により、人の流れを抑制する合理性を肯定できるでしょう。

人々が外出自粛すること以外に感染拡大を防ぐ有効な方法が見つからない今、自粛要請により、間接的に来店客の減少につながったとしても、『営業の自由』の侵害と考えることは困難です」

Q.どのようなケースであれば、国や地方自治体が小売店の営業の自由を侵害したといえるのでしょうか。

佐藤さん「先述したように、『営業の自由』の侵害に当たるか否かは規制目的や規制態様を踏まえ、規制の必要性、および合理性が認められるか否かといった基準で判断されます。仮に、国や地方自治体が小売店に対し休業するよう求め、その休業命令等に必要性や合理性が認められない場合は侵害に当たることになるでしょう。

例えば、医療も十分機能しており、営業を止める必要性がないにもかかわらず休業させたり、小売店を休業にするよりも、より確実な感染拡大防止策があることが明らかなのにそれをせずに休業させたりした場合は『営業の自由』の侵害に当たる可能性が出てきます」

Q.外出自粛の要請により、小売店の売り上げが下がって経営状況がさらに悪化した場合、国や地方自治体に損害賠償を求めることはできるのでしょうか。

佐藤さん「損害賠償は国や地方自治体が『違法』な行いをした場合に請求できるものです。先述したように、今回の外出自粛要請は営業の自由を侵害するものではなく、違法とは考えられませんので損害賠償請求は認められないでしょう。

ただし、『適法』な公権力の行使により損失が生じた場合に『損失補償』を求める方法はあります(憲法29条3項)。損失補償とは、適法な公権力の行使により、特定の者に財産上の『特別の犠牲』が生じる場合に、公平の理念に基づいて、その損失を補填(ほてん)する制度です。

しかし、今回の外出自粛要請は広く、すべての国民が影響を受けることになり、特定の小売店のみの売り上げが減少するわけではないこともあり、『特別の犠牲』とは認められないでしょう。従って、外出自粛要請により、小売店の売り上げが下がったとしても『損失補償』を求めることは困難です。

ほとんどの国民がコロナによる何らかの影響を受けている今回のようなケースでは、国や自治体に対して、各事業者が個別に発生した損失の支払いを求める方法は現実的ではないように思います。このようなケースでは、国や自治体が協力金を用意したり、融資を受けやすくしたり、家賃の支払いの猶予を可能にしたり…と、さまざまな施策を講じ、事業者や国民の生活を守ることが重要です。事業者としては、国や自治体に今、何が必要なのかなどを伝え、よく話し合うことが大切でしょう」

Q.国や自治体の対応が小売店にとって不十分すぎる場合や、今後もその対応の改善が期待できない場合でも、現状の法体制では小売店の苦境を助けることはできないということでしょうか。

佐藤さん「外出自粛要請により、小売店が苦境に陥り、それに対する国や自治体の対応が不十分すぎたとしても、小売店が国や自治体に対し、法的に金銭等を請求することはできないと考えられます」

Q.今後も新規感染者数が減少する傾向が見られなかった場合、店舗に対して休業要請が行われる可能性があります。休業要請をしても、経営体力があるという理由、あるいは地方自治体の財政が厳しいという理由で補償は一切しないというのは法的に問題ないのでしょうか。

佐藤さん「休業要請がなされた場合であっても、先述したように、憲法上の『損失補償』が認められない可能性は十分あります。しかし、法的に必須と言えないとしても、政策を実施していく上で補償は必要でしょう。補償なしに要請に従ってもらうことは困難ですし、結果的に要請に従わない店舗が増えれば、感染拡大を止めるという目的も達成できなくなってしまいます。

そこで、今も時短要請に従っている飲食店に対し、協力金の支払いがなされています。1月18日から始まった通常国会では、適切な補償を実現するため、新型インフルエンザ等対策特別措置法を改正し、国の財政支援を義務として明記することが検討されるようです。従って、今後、休業要請の範囲が広がったとしても、法律に基づき、何らかの補償は受けられるものと思います」

オトナンサー編集部

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