1. トップ
  2. リンカーンは「リンカン」教科書の米国大統領の名前が変化?理由は?

リンカーンは「リンカン」教科書の米国大統領の名前が変化?理由は?

  • 2021.1.20
  • 577 views
リンカーン? リンカン?
リンカーン? リンカン?

1月20日、米国の大統領にジョー・バイデン氏が就任します。バイデン氏は初代ジョージ・ワシントンから数えて46人目、第46代大統領となりますが、「これまでの45人の大統領の中で、特に有名な人物を挙げよ」と言われたら、「人民の人民による人民のための政治」の名演説で知られる16代のリンカーン、世界恐慌時に「ニューディール政策」を打ち出した32代のフランクリン・ルーズベルトらを挙げる人が多いことでしょう。

ただ、この2人のことを「リンカーン」「ルーズベルト」と呼んだら、高校生に「その言い方、古い」と言われるかもしれません。最近の教科書ではどうも「リンカン」「ローズヴェルト」となっているようなのです。さらに調べると、米国史を語る上で欠かせない人物が「コロン」と書かれているなど、従来の名前が想像し難い事例もあるようです。

変化の経緯を調べました。

現地読みや故国の読みに近く

まず、図書館で現行の高校用の世界史教科書を調べると、16代大統領はすべて「リンカン」、32代は「ローズヴェルト」となっています。一方、中学校用では、帝国書院(東京都千代田区)など一部は「リンカン」「ローズベルト」ですが、多数派は「リンカーン」「ルーズベルト」です。また、帝国書院の高校教科書は欧州から米大陸への航路を発見したコロンブスを「コロン」とも表記するとしています。

帝国書院編集部第一編集室の板谷越(いたやごし)光昭部長に聞きました。

Q.高校の世界史の教科書で、ルーズヴェルトがローズヴェルトに変わったのはいつで、なぜ変わったのでしょうか。

板谷越さん「1999年度発行の『明解世界史A初訂版』『新編 高等世界史B最新版』から、それまでの『ルーズヴェルト』から『ローズヴェルト』に変更しています。理由はローズヴェルトの故国、オランダ風に表記する方がふさわしいと判断したためです。

ローズヴェルト(Roosevelt)の先祖は、17世紀にアメリカへ移住したオランダ系移民であったといわれます。『roo』という英語のつづりは『room(ルーム、部屋)』『roof(ルーフ、屋根)』のように『ルー』と発音されることが多いようですが、オランダ語ではこのつづりは『ロー』と発音されます。よって、当社では故国の言語風に『ローズヴェルト』としています。

なお、中学校用については2006年度発行の教科書から、『ローズベルト』の表記にしています。変更した理由は高校と同じですが、時期がずれたのは高校用で変更したことによる戸惑いの声も多かったため、中学校用は少し様子を見てから、表記を合わせるようにしたという事情があります。また、義務教育の教科書では『ヴェ』の表記は基本的に使用しないため、『べ』としています」

Q.リンカーンがリンカンに変わったのは、なぜでしょうか。

板谷越さん「『リンカン』については、できる限り現地の読み方に近い表現で外来語を書き表そうという考えから、『リンカーン』から『リンカン』にしました。高校の先生方からのご指摘や学術書での表記を踏まえて検討した結果、できるだけ現地の表記に近づけようとの判断です。グローバル化が進む中で、現地の人たちとの意思疎通を行いやすくしようとの考えもありました。

高校用は遅くとも、1985年度発行『新詳世界史 初訂版』で『リンカン』としており、中学校では1993年度発行の教科書から、現在の表記にしています。時期がずれたのは『ローズヴェルト』と同じ理由です」

Q.表記の変更について、学習指導要領の改定など文部科学省の指示はなかったのでしょうか。

板谷越さん「当時の学習指導要領を確認しましたが、学習指導要領は人物名などの詳しい語句が記載されているわけではないため、関係ありません」

Q.「コロンブス」が「コロン」との併記になった変更時期と理由も教えてください。同時代に活躍した「マゼラン」も「マガリャンイス」と併記になっているようですが、なぜでしょうか。

板谷越さん「『コロン』も『マガリャンイス』もできるだけ現地(スペイン、ポルトガル)の表現に近づけようと考えてのことです。ただ、従来とあまりに表記が異なり、同じ人物かどうかが分かりにくくなってしまうため、こちらは現在も高校教科書では『コロンブス(コロン)』『マゼラン(マガリャンイス)』とかっこ書きで表記しています。

表記を変更したのは、高校では1999年度版世界史A・Bからになります。高校での理解が進んだ後には、現地の表現のみにしていくことも考えています。一方、中学校の方は高校の様子を見ているところで、現在は『コロンブス』『マゼラン』のみの表記にしています」

「バイデン」新大統領が載るときは?

帝国書院は「現地読み」を優先しているようですが、山川出版社(千代田区)は「人名表記を一般的に定着している表記とするか、より現地語表記や読みに近い表記とするかは、そのときの教科書執筆者と相談して決めています」とのことで、それぞれの教科書会社によって考え方は異なるようです。

ちなみに、広辞苑では16代大統領は「リンカーン」が見出しで、説明の中に「リンカン」とも読むことを記載。32代の方は「ローズヴェルト」を引くと「⇒ルーズヴェルト」とあり、「ルーズヴェルト」の項目を参照するようになっています。つまり、「リンカーン」「ルーズヴェルト」の方を優先している形です。

では、新大統領に就任するバイデン氏は将来、世界史の教科書でどう表記されるのでしょうか。帝国書院の板谷越さんに聞いたところ、「『リンカン』と『リンカーン』のような表記の違いは、過去に翻訳した際、現地の表現との違いが生じたことに起因しているため、バイデン新大統領の呼び方については大きく変わることはないだろうと考えています」とのことでした。

オトナンサー編集部

元記事で読む
の記事をもっとみる