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愛されローカルカフェ「KANNON COFFEE」。松陰神社前商店街で焼き菓子とコーヒーを

  • 2021.1.13
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AI技術や非接触型システムの開発が加速する中、世界都市といわれる東京にもまだ、アナログなあたたかい人のつながりを確かに感じられる場所がある。そのひとつが「せたせん」の愛称で親しまれる東急世田谷線の松陰神社駅前商店街だ。何十軒もの個人商店が軒を連ねる通りには絶えず地元住民が行き交い、通りすがりに声をかけあう日常が残っている。コーヒーと焼き菓子のカフェ「KANNON COFFEE(カンノン コーヒー)」も、そんな街の日常の一部を担う一軒だ。

本店である1号店が、名古屋の大須観音の近くであることから、“カンノン”コーヒーいう店名になったという、KANNONブランド。鎌倉店も長谷観音のほど近くにあり、どうもお寺や神社とご縁があるようだ。KANNONブランド初の東京進出店として、KANNON COFFEEが松陰神社前商店街にやってきたのは約2年前のことである。看板メニューはオリジナルブレンドのコーヒーと、国産小麦や発酵バターなどのこだわり素材で手作りする焼き菓子、そして自家製のシロップやコンフィチュールを使ったバラエティに富んだシーズナルドリンク。「こどもからお年寄り、コーヒーが苦手な人まで、店を取り巻く街のすべての人に寄り添った、気軽に立ち寄れるスタンドをつくりたい」と、地域のコミュニティとカフェ文化が交わるこの地を選んだのだそう。

商店街を駒沢方面に向かって歩いて行くと、うっすらと遠くに聞こえていた明るい笑い声が次第に大きくなってくる。引き寄せられるように進んだ先には、KANNON COFEEのカウンターでスタッフと言葉を交わす子連れの地元客の姿が。

そこには代わる代わる客が訪れては、皆嬉しそうに店を後にする。駅に向かう人もいれば自転車にまたがって自宅へ帰る人、また、「すぐそこから来ました」と言わんばかりのラフなスタイルのおひとりさまの男性客から、電車に乗りKANNON COFFEEを目指してやって来るカフェ女子たちまで、その顔ぶれは実にさまざま。しかし誰もがお菓子が入ったバッグとカラフルなイラストが描かれたテイクアウトカップのドリンクを手に、幸せそうな表情をしている。

その理由は、店に着けばすぐに分かるだろう。先ほどまで客たちがいたカウンターに立ってみると、目の前には手描きのポップやプライスカードとともにかわいらしく焼き菓子がディスプレイされ、クッキー、スコーン、ブラウニーなどが雑貨店のように並ぶ様子は見ているだけでも心をくすぐられる。

「こんにちは、冷えますねー!」と小窓から笑顔で声をかけてくれたのは店長の内山さん。彼女曰く、KANNONブランドはロンドンのベイクショップをヒントにしているのだという。日本では焼き菓子と聞くと、袋詰めにされた“お土産菓子”のイメージが根強いが、ロンドンではベーカリーのように店頭に焼き菓子が並べられており、好きなものを選んで気軽に買って行くのが主流。パティスリーのガトーのように特別な時に食べるお菓子とは違って、どんな人の生活にも日常的に取り入れられるのは焼き菓子ならではだ。「皆さんの日常にちょっとしたワクワクをプラスできたらいいなと思っています」と内山さんは話す。

焼き菓子をはじめ、KANNON COFFEEでは提供するメニューはすべてその店のスタッフがアイデアを出して手作り。スコーンにどんな素材をあわせるか、次のシーズナルドリンクはどんなアレンジをすれば街の人が喜んでくれるかを、毎日直接客と接するスタッフたちが考えて形にしている。

「焼き菓子とコーヒーはもちろん、スタッフはみんなお客様と接することが大好きです。少しでも街の日常に溶け込んだ笑顔になれる場でありたいので、お客さまの顔を見て声をかけて、たくさんコミュニケーションをとるようにしています。『あのお客さまが喜んでくれる』と想像すると、より美味しいものを作りたいと思えるんです」

顔が見える関係は、店を訪れる側にとっても嬉しいものだ。誰がどんな気持ちで作っているかわからないものよりも「いつも笑顔で声をかけてくれる彼女たちが焼いてくれている」と思うと、より美味しく感じたり元気をもらえたりするし、何より安心して食べられる。もちろん、顔なじみの地元客だけでなく、神社への参拝客や初めて来た人にも楽しんでほしいと、吉田松陰をモチーフにしたビスケットやアイデア満載のアレンジドリンクをラインナップするなど、工夫は惜しまない。

客たちが嬉しそうに手にしていたカラフルなデザインカップも、“みんなに笑顔になってもらうため”のアイデアのひとつ。テイクアウトカップに目で見て楽しいオリジナルデザインが加わるだけで、一杯のコーヒーに「美味しい」だけじゃない、笑顔になれるプラスαの要素が加わる。たとえば在宅ワークの合間の息抜きのコーヒーも、ここではスタッフとの会話、心をほぐしてくれるイラスト、そしてコーヒーそのものの美味しさと、一杯が何倍の力にもなるのだ。

「松陰神社周辺は本当にいい街です。街のコミュニティがなくなったと言われる時代ですが、ここでは行き交う多くの人が顔見知りで、みんなで声をかけあい、街全体でこどもやお年寄りを見守っています。だからこそそんな街の皆さんに寄り添った店でありたいと思っています。わたしたちはここから動けないけれど、美味しいお菓子とドリンクを用意して待っています」

その姿を何より現していたのが、通りすがりに「ただいま」「昨日のお菓子美味しかったよ!」「あとで寄るね」と声をかけていく客たちの姿。KANNON COFFEEは、誰がいつ来ても、美味しい焼き菓子とドリンク、そして笑顔でワクワクさせてくれる。閉塞感で息が詰まりそうな日々が続くが、そんな生活の中で尊く感じるのは、“人のあたたかさ”に違いないだろう。「KANNON COFFEE」が纏う、このしあわせな空気ばかりは、オンラインでは再現できない。

取材・文 : RIN

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