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賢者の選択心理テスト【モグラとヤマアラシ】

  • 2021.1.13

何やら絵本の中のような動物たちのお話。その選択の裏にいったいどんな解説が隠されているのでしょう?

寒さの厳しい、ある冬の日のことです。

モグラ一家の巣穴を、一匹のヤマアラシが訪ねてきて、「外は寒くてたまりません。冬の間だけ、いっしょに巣穴の中に住まわせてください」と頼みました。

モグラ一家は、かわいそうに思い、ヤマアラシの願いを聞き入れました。

ところが、その巣穴はせまかったので、ヤマアラシが動き回る度に、モグラ達はヤマアラシの針に刺されたり、引っ掻かれたり。

巣穴を広くすることはできませんから、避けようがありません。

ついにたまらなくなって、モグラ一家はヤマアラシに、 「巣穴から出て行ってもらえないかな……」とお願いしました。

ところが、ヤマアラシは、「ここにいるのがイヤなら、キミ達が出て行けばいいじゃないか」と言って、出て行こうとはしません。 モグラ一家は困ってしまいました。

モグラ一家の三姉妹の、長女が言いました。

「ここはもともと私たちのお家よ! あんなことを言うヤマアラシなんて、みんなで力を合わせて、追い出してしまいましょう!」

次女が言いました。

「ケンカはイヤよ。ヤマアラシが出ていかないんなら、私たちが出て行って、また新しく巣穴を作りましょうよ。大変だけど、そのほうがましだわ」

三女が言いました。

「誰も出て行かずにすむ方法を考えましょうよ。そうだ! ヤマアラシに毛布をかけたら、どうかしら? そうすれば、もうチクチクしないんじゃない」

あなたがモグラの両親なら、どの娘の意見に賛成しますか?

このテストから学ぶテーマ 「最上のモラル(道徳)とは?」

この物語は、ハーバード大学教授だったキャロル・ギリガンが作ったテストです(多少アレンジしてあります)。

これから4月になると、新しい学校や職場で、人の顔ぶれが変わることによるぶつかりあいが起きてきます。そこで3月のうちに、このテーマを取り上げることにしました。

ひとり暮らしは気楽なものです。

でも、2人になったら、相手にも気を遣う必要があります。自分だけの都合を押しつけるわけにはいきません。

さらに3人、4人と増えていけば、なおさらです。

各自が勝手なことをしていたのでは、とても一緒にやっていけません。そこで社会には、規則や法律があるわけです。

しかし、規則や法律だけでは不充分。

「法律にふれなければ何をしてもいい」というような考え方の人ばかりだと、よい世の中にはなりません。 そこで必要になってくるのが、「モラル(道徳)」です。

心理学者のコールバーグは、最上のモラルを「自分の良心にしたがって行動すること」と定義しました。 これには多くの人が納得することでしょう。 しかし、キャロル・ギリガンは反対しました。「正義をふりかざすことになる危険性がある」というのです。

どういうことかと言うと、たとえば、戦争を考えてみてください。 どちらかが絶対悪ということはまれで、両方にそれぞれの正義があるものです。

どちらの国の人たちも、自分たちの良心にしたがって戦います。 「正しいことは行っていい」という考え方は、文句のつけどころがないように思えますが、じつはとても危険なのです。

では、どうしたらいいのか?

ギリガンが提案したのが【ケアの倫理】です。

「正しいことを行おうとする」のではなく、「誰も傷つかない方法を探そうとする」のです。それこそが最も高いレベルのモラルだと、ギリガンは言います。

具体的には、この物語で言えば、三女の「ヤマアラシに毛布をかける」というのが【ケアの倫理】です。 これなら、誰もが巣穴から出ずにすみますし、争いにもなりません。

大勢の人が仲良くやっていくためには、みんなが損得で動くのはもちろん×。

規則や法律だけでは不充分。良心や正義だけでは危険。 【ケアの倫理】があってこそ、うまくいくのです。

自分がヤマアラシのように、どこかに新しく入っていったり、あるいは、自分たちのところにヤマアラシのように誰かが入ってくることもあるでしょう。 そして、衝突やもめ事が起きることもあるかもしれません。

そんなときはぜひ、「誰が正しいか」ではなく、「誰もが傷つかなくてすむ方法は?」という観点から、解決策を考えてみてください。

それが最良の未来につながります。

<賢者の答え>

長女の「私たちの巣穴から、ヤマアラシを追い出しましょう!」 →この意見に賛同したあなたは…

正義を愛するあなたの心は立派なものです。 たしかに、悪いのはヤマアラシで、正義はモグラ一家にあります。

だから、ヤマアラシを追い出すのは、正しいことです。でも、正しいことなら、してもいいのでしょうか? 考えていただきたいのは、その点です。

ヤマアラシにも言い分があるかもしれません。「住まわせてくれると言ったから、他に何も用意していない。今出されたら、死んでしまう。針があることは最初からわかっていたはずなのに」など。

ヤマアラシに親切にしてあげるつもりが、けっきょく争いになって恨まれるなんて、悲しいことではないでしょうか。

「正しさ」ではなく、「誰もが傷つかない方法」をなるべく考えてみてあげてください。

次女の「ケンカはイヤ。私たちが出て行って、新しく巣穴を作りましょう!」 →この意見に賛同したあなたは…

争いを避けようとするあなたの優しさは、とても素晴らしいものです。

でも、そのために、自分たちを犠牲にするのは、どうでしょうか? 相手を傷つけない点はいいのですが、自分たちを傷つけてしまうのも、いいこととは言えません。

いつも自分を犠牲にしていれば、相手はどんどん図に乗るかもしれませんし、いつかは譲歩しきれなくなって、ついには争いに発展してしまうかもしれません。あるいは、あなた自身が疲れ果ててしまうかもしれません。

相手だけでなく、自分自身も傷つけない、「誰もが傷つかずにすむ方法」をできるだけ考えてみてください。

三女の「誰も出て行かずにすむ方法を考えましょう!」 →この意見に賛同したあなたは…

モグラ一家の巣穴なのに、そっちが出ていけなどと言い放つヤマアラシには腹が立つでしょう。争うくらいなら、自分たちが出て行ったほうが早いという気持ちもあるでしょう。

それでも、ぐっとこらえて、今の巣穴の中で、みんなが仲良くやっていける方法を選んだあなたは、【ケアの倫理】の持ち主と言えます。

もちろん、いつも「毛布」のような名案が思いつけるとは限りません。 「誰もが傷つかない方法」を考えるのは、時間もかかりますし、大変です。それでも、今後もできるだけ、その道を模索し続けていただければと思います。

いかがでしたか?

あなたは学校や職場、サークルなどで「あの人さえいなければうまくいくのに」という気持ちになったことはないでしょうか。 また、たとえばネット上のコミュニティでも、自分たちの意見と違う書き込みは「アンチ」や「荒らし」として排除するという動きがあると思います。

しかし、実はそれは、一方的な正義を振りかざしている行為なのかもしれません。

人は誰でも「自分の考えが一番正しい」と思いながら行動する生き物。 そんな人たちが多く集まる場所では、ぶつかり合いが起きて当然。そんなとき相手の言い分にも耳を傾け、「誰も傷つかない方法」を考えることで、成熟した人間関係を築くことができるのだと。

津田先生は次のようなお話もしてくださいました。

津田先生:【誰もが傷つかない方法】を考えるのは簡単ではありません。思いつくのに時間もかかります。

普通、決断が早いほど、「決断力がある」などと賞賛されますが、その点もギリガンは批判しています。少ない基準で考えているから早く決断できるのであり、 さまざまなことを考慮していれば、当然、決断は遅くなります。「それは弱点でもありますが、道徳的強みでもあるのです」とギリガンは言っています。

決断が遅いせいで、「自分は決断力がない」と思い込んでいる人も、もしその遅さが、いろんな人のことを考えているためなら、決して決断力がないわけではないのです。

相手を思いやる気持ちがあるからこそ、人間関係に迷いや悩みが生じるのは当然なのだ、そんな気持ちにもなりました。 新しい人間関係を築く際に、どうぞ参考にしてみてくださいね。

お話/津田秀樹先生

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