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もはや定番化? テレビ番組の「テロップ」が90年代に爆増したワケ

  • 2021.1.8
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今やテレビ番組にはかかせない「テロップ」と「フリップ」。これらはどのような理由で導入されたのでしょうか。20世紀研究家の星野正子さんが解説します。

1990年代半ばからお馴染みの存在に

新型コロナの感染拡大で自宅にいる時間が増えたこともあり、お酒を片手にテレビ番組や動画配信サービスを楽しんだという東京都民は多かったことでしょう。

そんなテレビ番組をよりわかりやすくしてくれるのが、出演者のセリフを文字にした「テロップ」です。今では当たり前となったこの演出ですが、頻繁に登場するようになったのは1990年代半ばからでした。

フジテレビの社屋(画像:写真AC)

その始まりは、フジテレビ系列で放送されていた『スターどっきり(秘)報告』とされています。この番組内の人気コーナーで、リポーターが女性芸能人の寝ている部屋に忍び込む「寝起きどっきり」で、画面を派手にする演出としてテロップが多用されたのでした(『FLASH』2003年5月20日号)。

画面の半分がテロップになることも

この技術を多用したのが1990(平成2)年から日本テレビ系列で放送された『マジカル頭脳パワー!!』でした。

日本テレビの社屋(画像:写真AC)

この番組では出演者のセリフを文字にするほか、テロップで出演者につっこみを入れるという演出も行われました。これをきっかけにテレビ局各局は、バラエティー番組を中心にテロップを多用するようになります。

しかし当初集まったのは、称賛の声ばかりではありませんでした。というのも、テロップを入れるスタッフもどのような形で見せれば効果的なのか、試行錯誤の段階だったからです。

そうなると、「なんでも文字にしてしまおう」と安易な方向に流れる番組も出てきます。中には、画面の半分くらいがテロップになることも。

バラエティーでは、そこに笑い声まで入れる例もありました。

そうなると出演者の声、笑い声、テロップと情報があまりにゴチャゴチャして、単にうるさいだけの番組になることも。当時は番組を編集する際、「いちいち声を大きくする作業も必要ないし楽」と考える制作陣もいたようです(『SPA!』1997年6月4日号)。

好意的に受け止めた若者世代

最近はテロップが多用される以前のテレビ番組を、動画配信サービスで視聴できるようになっています。

当然、画面は現在のテレビ番組と比べてスッキリ。テロップは、出演者やスタッフのクレジット程度しか入りません。そんな番組が当たり前だったところにテロップの多用が始まったわけですから「聞こえてるのに邪魔だ」と怒る人もいたのはうなずけます。

季節を表すテロップのイメージ(画像:写真AC)

しかし、テロップはなくなりませんでした。

なぜなら、怒る人より喜ぶ人が多かったからです。とりわけ「ながら」でテレビを見るときに適していたこともあり、若い世代は好意的な目で見ていました。

ながら視聴が広まった90年代

明確なデータはありませんが、日本の習慣として、テレビは「映画のように姿勢を正して見るもの」と考える人が1980年代頃まで多数派でした。

昭和時代の居間のイメージ(画像:写真AC)

食事中にテレビを付けっぱなししておくのは、生活習慣の乱れている家庭の事例として取り上げられるほどだったのです。

言い換えれば、ご飯を食べ終わってからテレビを見るというしつけをしている家庭が当たり前だったわけです。

ところが1990年代に入ると、テレビというのはなんとなく付けっぱなしにするものへと変わりました。

こうなると食事や家事をしながらの視聴になるため、ちょっとした聞き逃しも起こります。しかしテロップがあればチラっと画面を見るだけで、出演者が今なにを話しているかわかります。

そんな訳で、テロップの普及は視聴者、とりわけ毎日の生活が忙しい東京都民のような都会人のニーズを見事にくみ取ったものだったわけです。

『ニュースステーション』が普及の後押し

ちなみに、現在のテレビ番組でテロップと並んでわかりやすい演出のために使われているのが「フリップ」です。

テロップのイメージ(画像:写真AC)

これはテロップよりも古く、NHKが1953(昭和28)年に放送を開始したクイズ番組『ジェスチャー』で既に使用。その後、テレビ朝日系列の『ニュースステーション』で多用されたことで普及が進みました。

普段何気なく目にしているテロップやフリップは、忙しい視聴者に番組を見てもらうための意外なテクニックだったのです。

星野正子(20世紀研究家)

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