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東京・あきる野市でものとの付き合い方を考える。感性が刺激されるもの選び

  • 2020.12.28
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家で過ごす時間が増えて身のまわりの日用品や衣類を見直すようになった人は多いのでは。そこで意識したのが、合理的なシンプルライフの考え方に対して、愛着のある日用品に囲まれたライフスタイル。ものの背景や作りの誠実さ、そして身に着けたときの心地よさというエモーショナルな部分により惹かれるようになった。これからの時代に求められるもの選びとはどういうものなのか、こんな時代に先駆けて1990年代より自然体な物づくりと向き合ってきた「maki textile studio(マキテキスタイルスタジオ)」の会長、田中ぱるばさんとスタッフの大村恭子さんにそのヒントを訊いた。

東京、あきる野市でこれからのもの選びを考える

新しい生活様式がスタートしてから半年以上たち、身のまわりを整えたい気持ちが出てきた人は多いはず。オンラインの便利さに気付いた反面、自分にとって心地よい物を探すには、やっぱり手に取って感じながら買うのが大事なことも分かった。そして、家での時間が増えるようになり、日本人としてのルーツを感じる素材を生かした温かみのプロタクトに共感できるようになった人もいることだろう。そんなもの選びの原点に立ち帰れるのが、東京あきる野市にある「maki textile studio」だ。おいしい空気と緑のなかに佇むギャラリーでは、ものを選ぶモチベーションに大きく作用するさまざまな体験をすることができる。

森林に囲まれたなかに立っている竹林スタジオ。

自分たちの感性が反応する場所で営むギャラリー

東京のあきる野市にスタジオを構え、インドを拠点に物づくりを続けている「maki textile studio」。立体構成の洋服と比べて、素材ありきで作る平面構成の手織物をベースにプロダクトを作り続けている。また、コロナ渦であらゆるアパレルが直面した4シーズンのMDで展開されるサイクルとも異なり、シーズンという枠組みから離れたアイテムが多く、“ファッション”というより制服のように日常生活に馴染んでいくアイテムが並んでいる印象だ。

そんな「maki textile studio」もかつては表参道にお店を構えていた。しかし、自分たちが心地よいと感じる場所で運営したいということから、拠点をここあきる野市の築200年の古民家に移転。近頃は、このように東京郊外や地方へ転居をする人も増えつつあるが、同社はいち早く自分たちの生活やブランドの感性に適した選択をしていた。

「真木テキスタイル」が事務所としているのは築200年の古民家。Harumari Inc.

「自然の流れを感じられるあきる野市のスタジオは美的感性を養うには絶好な環境です。月1でやっているイベントでは、遠方からいらっしゃるお客様と交流しながらものを販売するというより、同じ時間を共有するなかでブランドの世界観を伝えていくイメージです」

自然と人とのつながりを感じる、ワイルドなシルク

プロダクトには、買った瞬間、気持ちが盛り上がるものと、使っているうちにじわじわと好きになってくるものの2種類がある。それでいうと、「maki textile studio」のアイテムは、後者であると言える。

「うちのお客さんは、新しいものを無くしたよりも長く使っている物を無くしたときの方がショックを受けています」と当スタジオの会長、田中ぱるばさんがいうように、デザインではなく素材の色合いや風合いの変化を楽しめる「maki textile studio」の物づくりは、振り返ると長く愛用している人が多いという。それはメイン素材であるシルクの使い方に秘密があるから。

張りがあるからこそ織物にもなる「maki textile studio」のシルク。自宅で洗濯ができるぐらい強靭のため、日常でガシガシ使うことができる。Harumari Inc.

「『エルメス』のスカーフが象徴するような、光沢があって滑らかなシルクのイメージと違って、うちで使うタッサーシルクは麻のようにハリがあり、質感もカリカリしているのが特徴なんです。カイコが糸を出すときに一緒にベタッとした液をつけながら出すのですが、デザイナーの真木千秋がこのカリカリの風合いが好きでそれを落とさずに使っているからなんです」

スタッフの大村恭子さんがいうように、例えばストールにおいても、最初はハリがあっても、使っていくうちに柔らかくなり艶やかさが出てくるのが特徴。数年使い込んでいくうちに、ようやくシルクだったことが実感できるそうだ。

山に飛び交う大きな蛾のまゆをひいて紡いだタッサーシルク。日差しが強いインドで普及しているこのシルクは、通気性がよくラフに使うことができるのが特徴だ。Harumari Inc.

そんな同社の主力アイテム、タッサーシルクを使ったストールの魅力はそれだけではない。シーズン性もトレンドもない普遍的なものであるゆえ、一度飽きてしまってもまた使いたくなると話す大村さん。

「服は消耗するし、自分の好みも変化しますが、ストールは捨てずにずっと持っています。もちろん、飽きもするし、自分のムードが変わってしまうこともあるのですが、年齢や季節をきっかけにまた使いたいという気持ちが湧いてくる。ストールは春夏に使うイメージがありますが、私たちは冬にウールのマフラーと一緒にまくことを推奨していて、着物の半衿みたいに使うことで色遊びができるんです。ウールは蒸れやすいですが、通気性がいいシルクを挟むことで快適さもアップします」

インドの職人たちが作る織物はその時々で風合いが異なり、2度と同じものを作ることができないとのこと。Harumari Inc.
竹林shopのイベント出店していた「tocoro café」は、シルクをイメージしてラテを作成していた。Harumari Inc.

テン年代から浸透してきた、ものを少なくして合理的な暮らしを送るシンプルライフが行き着く先は、ものを持たないだけではなく、自分の好きを明確にして探求し、生活の質を変えていくことが大切なことが分かった。「maki textile studio」の物づくりでは、そんなものを所持するモチベーションに変化を与えてくれる。

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