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ふかわりょうさん「スマホを捨てよ。本当の輝きはスマホで切り取った瞬間の前後にある」

  • 2020.12.24
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満たされなさがエネルギーだった

――芸能人から一般人まで「バズる」といった価値観が当たり前のようになっている昨今ですが、もし、今の時代にふかわさんが若手芸人としてデビューしていたら、どのように戦っていたと思いますか?

ふかわりょうさん(以下、ふかわ): 選択肢が多すぎて迷ってしまっただろうなとは思います。僕が若い頃はとにかくテレビ一択だったので、そこに出るにはどうしたらいいだろうとしか考えなかった。今はテレビだけでなくSNSをはじめ輝ける場所がたくさんあるから、もしそういう選択肢の多い状況に置かれていたら、どうしたらいいかわからなくなっていたかもしれないです。

――活躍する場所が増えたことで、かえって八方塞がりになってしまう感じでしょうか。

ふかわ: インスタグラマーやTikTokerのような大小さまざまなコミュニティで誰もがチャンスを手にできるようになって、いろいろな尺度が生まれた。それ自体はいいことだと思います。特に、僕は偏差値教育世代ですから、試験の存在感がすごく大きかった。でも今は、学校の試験がだめでも、別の場所で輝ける、自分が主人公だと思えるようになりましたよね。
すごく素敵な社会だとは思うのですが、もし僕がこの時代に若者だったら埋もれていたと思います。
でも当時は今のように自発的に発信できるツールがなかったので、満たされないことがエネルギーになっていたのかもしれません。

朝日新聞telling,(テリング)

ケガをしながら育んだ、リテラシー

――受け取る側も情報過多だと感じてしまうこともあります。書籍を読んでいて、CDの「ジャケ買い」や中身の見えない「福袋」など、“情報が少ない・わからないを楽しむ”感性で生きるふかわさんの思考にはっとさせられました。

ふかわ: 多くの人が、カプセルをあけるまで正体がわからないものに惹かれはするけれど、やっぱり大ケガはしたくないから、グルメサイトの星の数でお店を決めたりするんでしょうね。ケガをしない範疇でわからないものと向き合おうという空気がありますよね。

昔は「ケガをして当然」だったんです。ラーメン屋ひとつとっても、ネットのレビューなんてなくて、看板の字体やお店の中の雰囲気を観察して、嗅覚を養うというような。
それもある種の「リテラシー」だと思うんですよね。

――情報を読み取る力、ですね。

ふかわ: リテラシーって「フェイクかファクトかを見極める力」と捉えている人が多く、もちろんそれもそうなんですけど、たとえば「このラーメン屋さん大丈夫かな?」というのを、文字ではない情報からキャッチして、自分の中で処理、判断する力でもあります。これって今の時代でもものすごく大事なんじゃないかと思います。

SNSの投稿だってそうですよ。見るとついもやもやしてしまう、他人のキラキラした投稿。その輝きなんて、ほとんどがウソだと思うんです。僕にとって、それらは全てくすんだものに見えていて、むしろ本当の輝きっていうのは、切り取られた瞬間のその前後に起きている、しょうもない瞬間なわけです。そういうところにちゃんと向き合きたい。しかし、言葉の向こう側をあまり見ようとしない人が多い気がします。

朝日新聞telling,(テリング)

――表面的な部分だけを見て何かを思ったり、騒いだり……。

ふかわ: そもそも日本人ってもっと、行間を読むことが得意だったはずです。でも今は目に見える文字情報に理屈をひもづけるばかりの世界になってきているので、もうちょっと言語世界から解き放たれて考えてもいいのではないでしょうか。書籍を出しておいてあれなんですけど(笑)。

――表層的な言葉に惑わされないためにはどうすればいいのでしょうか?

ふかわ: 嗅覚は、時代が否が応でも養わせた部分もあると思うので難しいですが……「スマホを捨てろ」としか言いようがないかな(笑)。極端な話、スマホを捨てて里山に籠もって、情報は足の裏だけでキャッチするぐらいのことをしてみてもいいのかもしれない。
スマホの情報が脳を通過して物事を処理するのが当たり前の時代ですが、本当はもっと、いろいろな部分でキャッチできる能力を持っているはずですからね。

自分をさらけ出しすぎて、決壊してきた

――ふかわさんは「小心者克服講座」のネタで脚光を浴び、その後はいじられキャラとして活躍されました。そして現在は、MCやコメンテーターと活動の幅を広げています。その時々で世間の自分を見る潮目が変わっていると感じてきましたか?

ふかわ: 変化を感じる余裕は正直なかったですね。デビューして、「シュールの貴公子」からいじられ芸人になったときは、潮目がどうと言うよりも、どうにかバラエティでの立ち位置を見つけなきゃみたいなことに必死でしたから。

今もこの書籍のおかげでありがたい声をいただくことが増えて、またちょっと違う潮目になってきていると思うんですけど、書いている時は「この本が世の中のためになってほしい」とかそういうことは念頭に置いていなくて、ただただ自分をさらけ出しただけ。温かい世の中の反応は、うれしくもあり困惑もしていますね。

朝日新聞telling,(テリング)

――エッセイのなかで、これからはもっと隙を見せていきたいと書いていましたが……。

ふかわ: 端から見たらすでに隙だらけなんでしょうけどね、きっと。バレてないと思っているのは僕だけで。でも、自分が気づいていないぐらいがちょうどいいのかもしれない。
今回のエッセイで、自分をさらけ出しすぎて、だんだん止まらなくなってしまって……。先日もラジオで「よしよしされたい」みたいなことを話してしまったぐらい(笑)。もちろん笑いに変えましたが、今まではそういう「隙」の部分は見せたくなかった。この本をきっかけにばーっと決壊して、止まらなくなってしまったんじゃないかと思います。

もう、自分でも予測不能になってきました。でも、自分の中で勝手にかけてきたブレーキも、この年だしもういいか、気持ち悪がられてもいいかと。今さら「いい体裁」をとったところでメリットもないですから。
だから最近は時間があればエゴサーチしています。僕にまつわるつぶやきを肴に酒を飲むのが日課になっています(笑)。もうそろそろ「エゴサ」と略す資格を得られるかもしれません。

■田中 春香のプロフィール
大学卒業後芸能事務所に就職。俳優、アイドル、文化人等のマネージメントを経験。その傍ら、趣味であるサブカルチャーやお笑いのコラムをwebメディアに寄稿するなどライターとしても活動する。30歳の夏、港区での彼氏との同棲を解消、同時に8年勤めた会社を退社しフリーとなる。が、明確な職業を決めていないため肩書きは無し。人生の大掃除開始です。趣味は14年続けているmixi日記の更新と自宅ベランダでの飲酒。

■齋藤大輔のプロフィール
写真家。1982年東京生まれ。東京造形大学卒業後、新聞社などでのアシスタントを経て2009年よりフリーランス。コマーシャルフォトグラファーとしての仕事のかたわら、都市を主題とした写真作品の制作を続けている。

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