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さとゆみ#126 give&takeもwin-winも不要な世界にようこそ。『世界は贈与でできている』

  • 2020.12.23
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●本という贅沢126 『世界は贈与でできている』(NewsPicksパブリッシング/近内悠太)

朝日新聞telling,(テリング)

久しぶりに、読むのに2カ月もかかった本です。
読みにくかったとか、つまらなかったとかじゃない。むしろその逆。1ページ読むごとに、いちいち過去にトリップしては、脳味噌をかきまわされていた。
書きたい感想が溢れすぎているのだけれど、何を、書こう。

たとえば、お歳暮の話。

私、お歳暮シーズンが嫌いです。
それは、たくさん贈りすぎて金欠になるとか、そういう話じゃなくて。なんというか、あのお歳暮のしらじらしさが苦手なのです。

こちらとて、お世話になった師匠や仕事先に示す気持ちが、菓子折りごときですむとは思っていない。菓子折りで代替できるような感謝ではないのだ。
先方にしたって、送られてくるものは変わりばえのしない品。ご自身で買おうと思えばいくらでも買える値段のものだ。ひょっとしたら、お好きではないものをお送りしているかもしれない。
それなのに、律儀に届くお礼状やお礼のメール。ああ、また手をわずらわせてしまっているな、と思う。

「来年はお気遣いなく」の言葉も、社交辞令ではなく、ほぼ本心なんだろうなと思ったりする。
感謝の気持ちを伝えるはずの儀式なのに、双方がちょっとずつ、面倒くささと罪悪感を感じる風習だな、と思う。

さて。

なぜ、私がこの儀式に違和感を感じていたのか。
たとえば、その答えが、この本では論理だって説明されている。

ひとことでいうと、結論は、こうだ。
「贈与」は、それを与えてくれた相手に戻してはいけないから。

つまり、師匠から受け取った「贈与」のお返しは、師匠本人にするのではなく、別の人に送っていくべきなのだという。

相手に「贈与」を戻してしまうと、円は閉じてしまう。
しかし、別の相手に「贈与」すれば、そのリレーはどこまでもつながっていく。

朝日新聞telling,(テリング)

この本は、これまでの人生の、答え合わせのような本だなと思う。

たとえば、すごく綺麗な朝日を見たとき、それを私は自分の好きな人に知らせたくなる。なぜか。その答えは、この本にある。

たとえば、今年亡くなった父は、「孫が生まれることは、どうしてこんなに嬉しいんだろうなあ」と言っていた。その答えも、この本にある。

生活の中に宿る哲学を、この本は、そっと拾い上げて目の前に提示してくれる。

・・・・・・・・・・

この本を読んで、ひとつ思い当たったことがある。

そういえば、私は昨年突然、「あー、もう教えないとダメだ。これ以上、どこにも行けない」と思ったのだ。

それまでの私はものすごく「欲しがり」だった。

もっと書くことが上手くなりたくて、いくつかの講座に通った。
そこで出会った師匠や仲間に仕事を紹介してもらって、仕事の量は順調に増えていった。
もっと仕事の幅を広げたくて、デザインやコミュニケーションも学んだ。
そこで出会った師匠や仲間に仕事を紹介してもらって、仕事の量はさらに増えていった。

ある程度年齢がいってからは、「講師をしませんか?」とか「教えませんか?」と言われることがあったのだけれど、いつも断ってきた。
謙遜ではなく、心底「私なんかがめっそうもない」と思っていたし、「教える暇があったら、もっと学びたい」と思っていたからだ。

でも、あると時ふと、「あ、だから、私、ダメなんだ」と思った。
「だから、私、いつまでたっても書くのが上手くならないんだ」と、ある日突然、気づいたのだ。

私にとっては啓示のような直感だったけれど、あの時、私が感じた気づきは正しかったのだということも、この本は教えてくれた。
教わるばかりで、それを誰にも手渡していなかったから、私は次の場所に動けなかったのだ。
この本を読んだあとなら、わかる。

2020年は、
「学んだことを、誰かに手渡す」
「知ったことを、誰かに伝える」
ことに、チャレンジする一年だった。

それまで澱んでどろりと停滞していた川が、突然流れていくのを感じた。
多分私はこの1年で、ずいぶん文章がうまくなった。ここ10年くらいずっと越えようとして超えられなかった壁を越えた感覚だった。

その理由も、この本を読んだ後となっては、よくわかる。
この本の内容に沿って言うならば、私が断ち切っていた贈与のバトンを、再び、つなげることができたからなのだろう。

そう思ったら、今年のお歳暮は、あまり心苦しくなくなった。
いつもなら「私は彼らに、何を返せているだろう」と思いながら、その対価にもならない贈り物を選ぶのだけれど、
今年は、「皆様からもらったものは、次の人たちに手渡してきました」と、すでに晴々とした気持ちだったからだ。

この本に、2020年最後に出会えて本当に良かった。

・・・・・・・・
この本で紹介される、数々の引用文。そちらもくまなく読みたくなる。まずは小松左京さん。次は内田樹さんかな。岸田秀さんもちゃんと読めてなかった。
2021年も、いっぱい読んで、いっぱいもらって、いっぱい手渡していければいいな。
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それではまた、来週の水曜日に。

●佐藤友美さんの新刊『女は、髪と、生きていく』が発売中です!

■佐藤友美のプロフィール
テレビ制作会社勤務ののち、2001年ライターに転身。雑誌、ムック制作、ウェブメディアの編集長を経て、近年は年間10冊以上を担当する書籍のライターとして活動。 ビジネス書から実用書、自己啓発、ノンフィクションまで、幅広いジャンルの著者から信頼を得て指名をうけている。一方、読者からは「生まれて初めて書籍を1冊読みきった」「読みやすくてあっというまに読了した」などの感想を多くもらう「平易でわかりやすい文章」を書くライターとして知られる。 著書には8.2万部のベストセラーとなった『女の運命は髪で変わる』(サンマーク出版)のほか、49歳で亡くなった伝説の女性美容師・鈴木三枝子さんの生き方と働き方を描いたビジネスノンフィクション『道を継ぐ』(アタシ社)が発売即重版し、話題をよんでいる。

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