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電話が鳴っているのに無視する人がいるのはなぜ?

  • 2020.12.13
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電話の着信音が鳴るといらいらする。単に「もしもし」のひと言を口にするのが怖い。身近にもいる電話に出ない人たちの心理について、社会学者と心理学の専門家が解説する。

電話の着信音が鳴るといらいらする。あるいは、単に「もしもし」のひと言を口にするのが怖い。photo : Getty Images

「ごめんね、着信に気付かなかった」。一見正直な謝罪に聞こえるこの言葉を、持ちネタのように繰り返す人がいる。確かに、ヨガのレッスン中で出られないとか、山奥にいて電波が繋がらないということはある。「トンネルの中だった」という決まり文句も、まあよしとよう。でも、5G時代はもうすぐ、ブルートゥース着信通知やモバイルバッテリーもあれば、パーソナルな着信音も設定できる。FOMOなんていう言葉も登場するいま、電話に出るのが難しい状況はかなり稀なはず。なのに、あなたの電話はどうしていつも留守番電話なの?

煩わしい

相手に面と向かう時でも、スマートフォン越しの会話でも、他者とのコミュニケーションには集中力と時間が必要だ。マルチタスクな毎日(精神的ストレスにご用心)、私たちには自由に使える時間がほとんどない。「スマホへの電話が煩わしく感じられるのは、場所を選ばずかかってくるから」と説明するのは、パリのビジネススクールISCの研究員で、『ハイパーコネクトにさようなら!』(1)の著者でもある社会学者カトリーヌ・ルジャル。「固定電話と違って、携帯電話はいつでもどこでもかかってきて、進行中の作業を中断してしまう。邪魔になるだけでなく、活動を断片化させます。特に職場では、意味の喪失、疲労、認知的負荷の増大、ときにはバーンアウトにまで繋がる危険も孕んでいます」

『われ自撮りする、ゆえにわれあり』(2)の著者で、精神分析家で哲学者のエルザ・ゴダールによれば、着信を無視する行為は、オーバーヒートした脳の自己防衛だという。「携帯の着信に振り回されないのは、デジタルとのつき合い方を自己管理する能力がある証拠です」。それをよく理解し、他者の時間に対して配慮する若い世代は、SMSやWhatsAppの音声メッセージを活用している。「都合のいい時や好きな時に返事ができる、非同期コミュニケーションが好まれています」と前述のルジャルは言う。「こうした時間差のあるコミュニケーションなら、鬱陶しさや義務感を感じにくい」とゴダールは付け加える。

未知の電話番号への恐怖

日常にずかずかと入り込む携帯の着信。その上、相手が知らない人だったりすると、煩わしいどころではない。非通知だったり、知らない番号だっただけで、私たちはもうパニック。「パラノイア的な反応をする人もいます。電話が実害を及ぼすわけではないのに、電話に出る瞬間に最悪の事態を想定してしまうのです」と、社会心理学者で『礼儀、マナー、社交』(3)の著者であるドミニク・ピカールは言う。「知らないものは邪魔か危険、が彼らの原則ですから、知らない番号からの電話に出るなど論外というわけです」

そこまで極端ではないものの、仕事やプライベートで重要な知らせをやきもきしながら待っている時にも、これと同じ防御メカニズムが作動している。「問題に直面するより、電話を避けて問題から逃れたいという気持ちがあります」(ピカール)

会話のコードに習熟しているかどうか

電話恐怖症の人たちにとっては、ハンズフリーキットより留守番電話の発明のほうがありがたい。「誰にとっても不意打ちはいやなものですが、なかには前もって通話相手やメッセージの趣旨を把握し、状況を理解し、返事を準備しておかないと気が済まない人もいます」(ゴダール)。一語一句丁寧に言葉を選んで推敲を重ね、自動校正ツールで誤字脱字を訂正して書き上げられた長文のSMSとは逆に、電話では即興で応対しなければならない。

そして誰もがみな即興を得意とするわけではない。「電話に出るのが嫌いな人は、口頭でのやりとりが苦手です。彼らが会話を始めるためには相手の物理的存在というサポートが必要なのです」(ゴダール)。視覚的なサポートがないと、声だけで相手の言い分を聞き取ることになる。しかも、細かいニュアンスまで読み取らなくてはならない。「声だけでは意図がつかめないこともあります。沈黙ひとつとっても、気まずさ、退屈などいくつもの意味があります」(ピカール)

情報として不完全だということが、内気な人、自信のない人、また対人恐怖症の人にとっては、混乱の要因となる。「彼らにとって他者と接触するのは簡単なことではなく、アパートの管理人との会話、パン屋の主人との会話、職場の同僚との会話といったように、必ず決まった特定の枠組みの中で行われる必要があります。それは電話でのコンタクトでは得られないこと。ですから、当然、電話では、不安な状態に置かれることになります」(ピカール)。「知らない電話番号からの着信をブロックするという問題には、他者に直面することに対する恐怖という別の問題が隠れています」(ゴダール)

“誰にも私を呼びつける権利はない”

時には不安が苛立ちに変わることもある。電話の着信音は一種の命令であり、たとえほかのことをしている最中でも、電話がかかってきたら出ないといけない気持ちになる。「電話が鳴ると、誰でもフェイドーの芝居に出てくる使用人の立場に置かれてしまう」と社会学者のルジャルは指摘する。電話が発明された当時、最初にその恩恵にあずかったのはブルジョワ階級だが、電話に出るのは使用人の役目だった、と言うのは社会心理学者のピカールだ。「こうして間に取り次ぎを立てることで、有利な立場でコントロールすることができる。“誰にも私を呼びつける権利はない。誰と話すかは私が決める”というわけです」

このテクニックを恋愛に応用するのは危険で、一種の人心操作に近いとゴダールは言う。「相手の注意を引くためや、相手を焦らすために一時的に電話に出ない。さらに進んで、相手に関心がなくなった時に“ゴースティング”して一方的に連絡を絶つという人もいます」

その場で電話に出なくても後で必ずかけ直すこと

着信拒否は倫理的な観点からはおすすめできないが、時間がない、あるいはストレスといった理由で着信を選別する分には、身近な人の不興を買ったり、仕事の機会を逃す可能性があることを除けば、特に不利益を招くことはなさそうだ。「電話に出ないことで、自分のテンポを守り、自分らしい表現ができる。ある意味、自由を確保する方法でもあります」(ゴダール)

ただし、余計な誤解が生じて友情にひびが入らないよう、率直に事情を話すほうがいいと言うのは、ピカール。「電話に出るのが苦手な理由を説明し、その場で電話に出なくても気分を害さないでほしいと友人たちに伝える。あるいは緊急時の特別な合図を決めておくのも手です。いずれにせよ着信があったら、たとえその時は出なくても後で必ずかけ直すこと。メールでも構いません。ただし相手が留守番電話にメッセージを残していない場合は別。これは相手の失礼でもありますから」

(1)Catherine Lejealle著『J’arrête d’être hyperconnecté ! 』エロル出版、212ページ(2)Elsa Godart著『Je selfie donc je suis』アルバン・ミシェル出版、224ページ(3)Dominique Picard著『Politesse, savoir-vivre et relations sociales』PUF出版、128ページ

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