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リモートワークによる燃え尽き症候群が急増中! 専門家に対処法を聞く。

  • 2020.12.12
Photo_ Leslie Kirchhoff
Photo: Leslie Kirchhoff

BuzzFeedの記者アン・ヘレン・ピーターソンは2019年、自身の記事の中でミレニアル世代がいかに「燃え尽き症候群の世代」であるかを論じた。この記事は今年になって改めて注目を浴びたが、中でも見逃せないのがピーターソンのこの主張だ。1981年から1996年に生まれのデジタル世代たちは、「労働者になるために訓練・最適化」され、決して尽きることのないToDoリストに苦しめられ、それゆえ常に最適化を求めるプレッシャーを背負った結果、バーンアウト(燃え尽き症候群)を経験しているのだ、と。

さて、時は進んで2020年。多くの人は数カ月にわたり、自宅というひとつの空間で仕事と日常生活の両方を営んでいる。外出自粛やロックダウンは断続的に続き、世界経済はパンデミックによる負のスパイラルに巻き込まれるのをぎりぎりのところで持ち堪えている状態だ。ピーターソンが昨年指摘したような不安は、以前にも増して顕著に感じられる。

新型コロナウイルスが、私たちの働き方や仕事場を大きく変えたことは言うまでもない。休職や失職の憂き目に遭い不安を抱える人がいる一方、相当数の人が自宅など普段とは違う環境での仕事を余儀なくされた。

その結果、仕事をしている人はこの8カ月でどんどん疲弊している。例えば、2020年8月にアメリカの労働者を対象に実施された調査では、58%が燃え尽きを感じていると回答した。これは3月時点の結果に比べ、15%の増加だ。同じくアメリカで行われた別の調査では、回答者の6割が、外出自粛の規制が始まってから労働時間が伸びたように感じると回答している。

「ロックダウン・バーンアウト」って?

世界的なロックダウン以前から、私たちは「ワーキズム」の時代を生きていた。つまり、仕事は単なる生活費を得るための手段ではなく、大切なアイデンティティの一部だと信じる労働主義の時代だ。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの助教授であるトーマス・カラン博士はこう話す。

「勤勉さが何よりも重要視されていて、それが極端であればあるほど高く評価されるのです」

社交活動が禁止され、店舗やジム、レストランなども閉鎖が続き、外出自粛が求められる今、職に就けている人にとって働くことはかつてなく重要な意味をもつようになった。できることが限られ、レジャーもままならない日々において、仕事は私たちに意義や「普段通り」の感覚を与えてくれるライフラインとなっているのだ。

さらに、ロックダウンに伴う雇用の不安定化により、仕事で成果を上げなければいけないというプレッシャーも増した。『Exhaustion: A History』(消耗の歴史)の著者であるアナ・カタリナ・シャフナー博士は、「収入を失うかもしれないという恒常的な恐怖を抱えて働いるのです」と指摘する。

リモートワークの問題もある。在宅勤務には利点も多い一方で、心理的負担も大きい。まず、在宅勤務にはルーティーンや業務体制がない。子どもや家族、同居人がいるため注意散漫になりがちだ。さらに、ウイルス感染や不透明な将来への不安もある。そんな状況で、集中して効率的かつ生産的に働くことは容易ではない。シャフナー博士はこう話す。

「誰かが決めた構造がないと、常に働かなければならないと感じるようになり、それができないときに罪悪感を覚えてしまう恐れがあります。仕事が日中、さらには夜の時間を侵食し、『充電』の機会を奪うようになるのです」

小学校教諭のローレンも、オンライン授業への移行準備のために数週間にわたって一日12時間働き、極度の疲労を感じたと言う。

「朝6時半に仕事を始めても、夕方6時過ぎまで仕事が終わらない時もありました。なんとか授業を形にしたくて、夜まで働いていたんです」

そうした努力にもかかわらず、彼女は自分が納得できる成果を出せていないように感じ、自分を責めるようになった。

通常であれば、同僚や上司から対面でフィードバックや評価、承認がもらえる。しかし、自宅でひとり仕事をしているとそれらが得られない。シャフナー博士によれば、そうした状況において人は自ら厳しい上司のようにふるまうようになるという。

「在宅勤務だと、人はより長時間、より精を出して働くことが多くなり、他者よりずっと厳格に自分自身を管理するようになるのです」

これが、ストレスと不安の恒久的なサイクルを助長し、仕事だけでなく健康にも悪影響を及ぼすのだ。

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誰でも燃え尽き症候群に陥る可能性があるが、特定のグループの人、特に福祉・医療の仕事に就いている人たちはその傾向が強いとシャフナー博士は話す。

例えば、2018年の調査では、中国の医師の3人に2人が燃え尽き症候群に陥ることが明らかになっている。またアメリカの調査では、医師の78%が心労を抱えていることが判明した。2019年のデータによると、ジャマイカとカナダの医療従事者も燃え尽き症候群の症状を抱えており、英国の国民保険サービス(NHS)では過剰なストレスから退職する職員の割合が過去7年で3倍近くにもなっているという。これらの数値は、すべて新型コロナウイルスの感染拡大前のものだ。

パンデミックによりこうした心労が悪化したことは想像に難くない。最近の中国の調査では、医療の最前線で働く看護師への深刻な影響が指摘された。またアメリカの専門家たちは、ウイルス感染による入院患者が増えるにつれ、医療従事者が心理的にギリギリのところに立たされていると警告を発している。

さらに、どの職種においても女性は常に「オン」の状態でいなければというプレッシャーを感じやすいことが統計からもわかっており、燃え尽き症候群に陥る傾向が強いという。マッキンゼーの新たな調査でも、管理職に就く女性は管理職に就く男性に比べて「もっと働かなければ」というプレッシャーを強く感じており、燃え尽き症候群に陥る可能性が顕著に高いことが報告されている。

それが母親ともなればなおさらだ。シャフナー博士も、「そもそも、仕事に全力で取り組めないことや、母親業に専念できないことに罪悪感をもつ女性は多いのです」と認める。子育て支援の利用が制限されるなかでの在宅勤務で、こうした心理が悪化するのは当然と言える。

ロックダウン・バーンアウト、どう対処する?

そこでカラン博士が勧めるのが、セルフケア、それも「予防的なセルフケア」だ。燃え尽き症候群に陥る前に、心や感情の余裕を取り戻そう。無理をせず、体の声に耳を傾けることで、生産的でなければというプレッシャーに対処するのだ。

カラン博士とシャフナー博士は、仕事とプライベートの線引きをはっきりさせ、ルーティーンを定めようと口を揃える。またシャフナー博士が有効だと語るのは、以下のような方法だ。

1. 一日の始業と終業を明確にする。

2. 定期的に休憩をとる。

3. 仕事のメールの通知をオフにするなど、ストレス要因のスイッチを切る。

つまり、とにかく「明確な境界」を設けることが重要だという。

とはいえ、ふたりともセルフケアが難しいことも認めている。それ自体「やるべきこと」としてToDoリストの1項目となってしまうからだ。問題は、人間関係、子育て、セルフケアなどすべてのことが私たちにとって「業務」となってしまったことにある。

「私たちは自分の行動や思考を、どれだけのエネルギーや努力を投資して、その結果何を得たかという観点で計ります」と、シャフナー博士は指摘する。確かに「自己最適化」という観点から健康や幸せを追求する現代的なプレッシャーは、私たちの心身を追い詰め、疲弊させる可能性が否めない。

本当に燃え尽き症候群を避けようと思うのならば、まずは仕事に対する考えを改めなければいけない。

「救いや生きがいを求めて仕事に過剰投資することはやめ、本質的な目的と仕事を切り離してください」

そうシャフナー博士はアドバイスする。生産性にこだわる文化を見直し、代わりに職場でのウェルビーイングの役割について真剣に考えるのだ。まずは、自分を思いやることがどれほど大切かを思い出すこととしよう。

Text: Clementine Prendergast

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