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韓国料理は旨味の"迫力"が違う|世界のおいしい店④

  • 2020.12.2
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2020年12月号の第一特集は「おいしい店100」です。旅行作家の石田さんは、世界一周旅行の終盤に韓国を訪れました。日本と文化が最も近い国なので、どこか「帰ってきた」という安心感があったそうですが、料理を食べてみるとやはり別世界を感じたそうです。近いのにやっぱりどこか違う韓国料理の真髄とは――。

韓国料理は旨味の"迫力"が違う|世界のおいしい店④

■「帰ってきた」という安心感

拙著に『いちばん危険なトイレといちばんの星空』という本がある。僕が見てきた世界の中から、さまざまな"個人的一番"を挙げたエッセイ集だ。
その中に「世界一メシが旨い国」という章がある。ひとつの国には絞れないので、3つの国を挙げた。メキシコ、中国、ベトナムだ。繰り返すが"個人的"世界一である。僕の経験の中から、独断と偏見で選んでいる。

実はそれら3つの国以外に、もうひとつ、入れるか入れまいか悩んだ国がある。韓国だ。入れるとトップ4になってきりが悪いし、韓国はいろんな意味で近すぎておもしろみがない――という、味とは全然関係のない判断でランクから外した。

実際、各大陸を走り終えたあと、最後に韓国に入った瞬間、「日本に帰ってきた......旅が終わった......」と脱力したぐらい、両国は近いと思えた。看板のハングルをのぞけば、人、街、雰囲気、あらゆる面が日本そっくりだ。こんなに似ている国は他にない。それだけに、「世界をぐるりとまわってメシが一番旨い国は韓国でした」というのもなんだかなぁ、という妙なバイアスがかかってしまった。

もっとも、料理に関しては、食べた瞬間、「ああ、やっぱり別世界にいる!」とようやくテンションが上がったぐらい、日本とは味の雰囲気がまったく異なっていたし、どの店もどの料理も外れがないぐらいおいしくて、興奮しっぱなしだったのだ。

そんな韓国には、世界一周のあとも何度となく出かけ、4年前は雑誌の取材で話題の店を食べ歩いたのだが、そのとき妙に納得したことがある。旅先で会った韓国人旅行者たちの、自国料理を恋しがる熱量には目を見張るものがあったが、それも仕方のないことだな、と思えたのだ。韓国料理は旨味の"迫力"が違う――つくづくそう感じた。

そのグルメ取材で訪ねた店の中から「おいしい店」をひとつだけ選ぶとしたら、ソウルの豚肉料理の店「サムゴリ プジュッカン」だ。
そのころ韓国も空前の熟成肉ブームで、この店では豚肉を熟成させていた。最も美味とされる一等級の雌の豚肉を、抗菌作用のある檜の箱に3日間入れおくのだという。これを鉄板でカリカリに焼いて脂を落とし、キムチや青唐辛子やニンニクなど様々な具と共にサンチュで巻いて食べる。いわゆるサムギョプサルだ。

つけダレは3種類。青唐辛子を漬けたカンジャン(韓国醤油)ダレに、ニンニクペーストダレ、そしてカタクチイワシの塩辛ダレだ。3つ目のタレは済州島名物らしい。そのタレだけアルミのカップに入って、肉を焼いている鉄板の上に置かれている。温められて香りが花開いた、アミノ酸たっぷりのイワシの塩辛ダレと、熟成されて軟らかくなり、甘味の増した豚肉が混じり合って、口に入れた瞬間、旨味が実際に力を持ったように一気に膨れあがる。韓国をさんざん食べ歩いているカメラマンの中田浩資氏も、ぶったまげたように目を見開き、僕と顔を見合わせ、互いにいやらしさ満点の笑みを浮かべて頷き合った。その旨味の重ね方や力強さに、韓国料理の真髄を見た気がしたのだ。

文:石田ゆうすけ 写真:中田浩資

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