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坂道グループがコロナ禍で発信したもの 見えた「オンライン配信」の可能性

  • 2020.11.29
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乃木坂46(2019年12月、時事)
乃木坂46(2019年12月、時事)

新型コロナウイルスの感染拡大は世界規模の被害をもたらし、人々の生活に甚大な影響を及ぼしています。エンターテインメントもまた、分野を問わず、それまで行っていた活動の休止・制限を余儀なくされ、音楽や演劇をはじめとしてライブ型の発信に多くを負うエンタメは表現の場所を失い、自らのアイデンティティーを揺るがされる事態に直面してきました。

本稿は乃木坂46、欅坂46(改名後は櫻坂46)、日向坂46の“坂道シリーズ”にとっての2020年を見ていくものですが、これらのグループによるアウトプットもまた例外なく、コロナウイルス感染拡大の状況下を前提になされてきました。ここでは、今般の情勢を受けての、坂道シリーズの発信に焦点を当てて振り返ることにします。

ライブイベントにせよ、メディア露出にせよ、大規模で活動しているポピュラーグループの動きを捉えることで、エンターテインメントの送り手が先の見えない状況にどのように対応してきたかの一端を確認することにもなるはずです。

非常事態ゆえの独特の体験共有

2020年、坂道シリーズの3グループはそれぞれに転機の予兆を迎えていました。乃木坂46では年始に、グループの顔であった白石麻衣さんの卒業発表があり、彼女のラストシングルでも組織として一つの締めくくりを感じさせる作品作りが行われました。

欅坂46では同じく1月に平手友梨奈さんの脱退、他にも1期生メンバーが卒業を選び、グループ全体を再構築する必然性が高まったタイミングでした。また、日向坂46は先行2グループを追うべく、年末に初の東京ドーム公演を予定し、2020年はその一大目標に向けてアリーナツアーを展開していくための年でした。

それぞれの節目に向けて企図されていたはずの活動は今春、一度全てリセットされることになります。

刻々と変わる状況に応じて、エンターテインメント界はいずれのジャンルにおいても、その都度、発信方法が探られていきました。ライブハウスや劇場、映画館などが使用できなくなる中、まず春ごろに増えていったのは、過去のコンサートや舞台公演などの動画アーカイブがインターネットを通じて配信されていく機会でした。

坂道シリーズでは5月、2017年に行われた乃木坂46の東京ドーム単独公演をYouTubeでプレミア配信し、同時視聴数が連日30万人を超える盛況をみせます。配信時間中には、グループの公式ツイッターを用いてメンバーが次々に投稿を行い、かつての節目の公演を回顧する時間が生まれましたが、ファンと同じソーシャルメディア上にグループのメンバーたちが疑似的に集い、共に自らの公演を分かち合う光景はむしろ、通常のライブ開催では生じ得ないものでした。

こうした、非常事態ゆえの独特の体験共有は同じ5月の下旬、欅坂46がやはり2017年の公演を配信した際にも見ることができました。

春から初夏にかけて、さまざまな芸能分野で新たな作品制作が模索される中、演者やスタッフがリモートで音楽や芝居などコンテンツ作りをすることも増え、MVを含めて新たな楽曲が発信されることも珍しくなくなります。

この文脈において、特筆すべきは乃木坂46が5月にMV公開、6月に音源リリースした楽曲「世界中の隣人よ」です。各メンバー・卒業メンバーが自宅などで収録した自撮り映像や空っぽの街の景色を中心に構成されたMVは、緊急事態宣言下における空気感やクリエーティブの試行錯誤を伝える一つの記録にもなりました。

また、同曲に見られる感染拡大防止の祈念や医療従事者への謝意は、広く有名性を得た近年の乃木坂46がしばしば担う、人々との普遍的な共鳴を歌う作品とも相通じるテーマ性を持つものでした。その意味でも“現在”が刻まれた作品だったといえるでしょう。

夏ごろになると、春以降上映が延期されていた日向坂46と欅坂46のドキュメンタリー映画が相次いで公開され、これにより、坂道シリーズ3グループ全ての劇場版ドキュメンタリーが出そろうことになります。また、両グループはそれぞれ、日向坂46名義として初のアルバム、そして、欅坂46名義としての区切りとなるベストアルバムを発表。いずれもシングル制作とは趣が異なるものの、坂道シリーズが従来のリリース形態に近い形で新作タイトルの販売を再開させる機会ともなりました。

オンライン配信の可能性の模索

他方、握手会に代表される対面型イベントはオンラインでの代替企画に振り替えられていきますが、坂道シリーズの中では9月、日向坂46が「オンラインミート&グリート」として先鞭(せんべん)をつけ、他グループもそれに続きます。現在の環境に適応しながら、従来のルーティンに準じた活動を探り当てようとしていることがうかがえます。また、6月に始まった乃木坂46独自の映像アーカイブのサブスクリプションサービスは、以前のような発信がしにくい現況における試行としての意味も含むことになりました。

もっとも、これらの施策に比べて先行きが極めて不透明なのが音楽ライブです。特に、多くの人々が行き交う大規模会場での公演についてはごく最近になって、有観客での開催事例や開催予定の発表がなされる例がわずかに生まれているものの、いまだにめどが立っていません。アリーナ、スタジアム級の会場を使用することが通例になった坂道シリーズ各グループに関して言えば、この先もしばらくはオンラインの動画配信を介したライブ開催が想定されるはずです。

しかし、特に今年後半、さまざまなアーティストのイベントがオンライン配信される機会が多くなるにつれて、配信ライブのあり方にも進化が見られるようになりました。それはあらかじめ現場に観客を動員しない前提だからこそ可能になる演出の模索です。坂道シリーズにも優れた創意工夫がうかがえました。

例えば、欅坂46が7月と10月に催したライブはそれまでの体制に終止符を打ち、グループ名を変更するための区切りとなる重大な意味を持つものでした。演出面に目を向けると、本来なら多くの観客で埋まるであろう大きな空間を縦横無尽に用いながら、俯瞰(ふかん)やクローズアップを効果的に使い分けるカメラアングルも含めて、無観客・カメラ越しであることを前提にしたセットとパフォーマンスを企図していました。

昨今の情勢に適応し、従来のような有観客ライブとは異なるアウトプットを実現した好例だったといえるでしょう。これはまた、デビュー時から、独特の演劇的・立体的な群像表現を築いてきた同グループの本領が発揮された瞬間でもありました。

また、乃木坂46は延期されていた白石麻衣さんの卒業コンサートを10月に配信しました。ライブが無観客を前提に演出されたのはもちろんですが、本編終了後にメンバーたちが余韻を分かち合う余白の時間までも半ばシームレスに映し出され、表舞台とバックステージとのあわいを感じさせる、配信だからこその見せ方になりました。

他方で、東京ドーム公演に向けたアリーナツアーが中止された日向坂46は、予定されていた演出をあえて踏襲してみせるスタイルで7月に配信ライブを催し、本来行われるはずだったライブの姿を刻みつけました。

2020年後半のこうした例を概観するとき、ライブが通常開催できない状況下で送り手がオンライン配信の性質に順応したパフォーマンスや演出を模索し、単なる代替手段にとどまらない可能性を広げてきたことが分かります。これらはまた、多人数グループによるパフォーミングアートという性質と相性が良かったこともあるかもしれません。

いずれにせよ、従前の環境に戻る見込みが立たない中で、アウトプットのあり方が試行錯誤され、進化の跡がうかがえることはエンターテインメントの継続にとって肝要です。12月には、坂道シリーズ3グループそれぞれで、オンライン配信や映画館のライブビューイングを介しての公演が予定されています。これら各ライブも含めてさらなる表現方法の開拓につながるならば、それは一つの希望となるはずです。

ライター 香月孝史

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