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難関私立中に合格したのに、“中堅大学”に進学……4浪の息子は「中学受験の燃え尽き症候群」だった

  • 2020.11.16
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“親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。

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写真ACからの写真

長年中学受験の取材をしている筆者のところには、頻繁に中学受験関連のお悩み相談が入るが、その送り主は受験前の保護者ばかりではない。上は、現在30歳過ぎの元中学受験生の母親からというのも珍しくはないのが実情だ。

アラサー年齢の子を持つ母たちの悩みの多くは「子が自立しない」ということである。もちろん、一人ひとり事情や背景が違うので、明確な解決策など、あろうはずもない。

しかし、母たちと話をしていくうちに、ある共通点のようなものを見つけた。それは「燃え尽き症候群」。

中学受験は小学生が経験するものなのだが、この勉強量ははっきり言って、大人でも音を上げるのではないかといえるほど大量で、しかも難しい。たいていの場合、6年生の1年間は土日もないことが普通だ。

親の中には「この道で本当にいいの?」と疑いながらも、途中リタイヤという道も選べず、子どもの横にキッチリと張り付いて、こう言い聞かせる人がいる。

「(有名)中学に入れば、遊べるから! つらいのは今だけよ!」

幸か不幸か、子どもはこれを信じて、頑張り抜き、無事に目標とする難関校に入学するのである。

親も子も“やれやれ”といった具合だろう。「これで一生、遊んで暮らせる」くらいの感覚になりやすいのだが、そこに落とし穴が隠されていることには、当事者ほど気が付きにくいものなのかもしれない。

難関中学に合格、入学式で一撃を食らった息子

みゆきさん(仮名)は10年前の難関X中学での入学式のことを今も思い出すという。一人息子の海斗君(仮名)は、3年間の塾生活を頑張り抜き、無事に第1志望校のX中学に合格。母子は誇らしく、入学式に臨んだそうだ。

「思い返せば、入学式の日に嫌な予感はあったんです。校長先生が祝辞として、確か『君たちは我がX学園の誇り高き同志です。今日から頑張って勉強し、6年後、必ずや東大をはじめとする難関大学に入り、自分の夢をかなえてください』とおっしゃったからです。海斗は、これで最初の一撃を受けたと思います」

当たり前のようではあるが、中学受験は選抜試験をパスした者が合格を得る。つまり、その学校で学ぶに困らない学力を持つ者たちが、4月から肩を並べるということだ。授業は、試験を突破できるだけの学力ラインから、上へ上へと知識を積み重ねていくイメージで進行し、生徒たちは6年間を駆け抜けることになる。

「中高一貫校は先取り授業をしているので、高2までの5年間で高校課程を終えてしまいます。入るまで、深くは考えていなかったんですが、それって、一度つまずくと、付いていけないってことなんですよね……」とみゆきさん。

海斗君は中1の梅雨あたりに体調を崩して、数日間、学校を休んだそうだが、学校に復帰すると、もう授業に付いていけなかったのだという。

当然、海斗君は補習の常連になり、部活動にも思うようには参加できなくなった。そんな状態で、中2の秋になると、今度は担任の先生から「このままでは高校には上がれない」と肩叩きをされるようになる。

焦ったみゆきさんは、海斗君に無理やり家庭教師をつけて、どうにか進級基準を満たそうとしたそうだ。

この頃、海斗君は頻繁に「ママの嘘つき! 中学に入ったら、勉強しなくていいって言ったくせに!」とみゆきさんに怒っていたらしいが、「学校を変える?」と聞くと、「絶対に嫌だ!」と首を横に振るばかりだったという。

「このあたりが難関校の哀しさですよね。あのX学園の生徒だという看板だけが、海斗の拠り所ですから……。どうにか高校に上がったものの、さらにスピードを上げる授業進度に付いていけるわけもなく、海斗は完全にやる気を失っていました」

同級生は「プライドを満たせる大学」に入学したけれど……

X学園は、東大をはじめとする難関大学に合格者を出している全国でもトップクラスの学校なので、みゆきさんいわく「同級生の大多数が、自分のプライドを満たせるような大学に入学」するという。

高3になった海斗君は、願書を出した大学にどこも合格せず、浪人へ。そして、4浪めだった今年、志望校の偏差値を大幅に下げた、ある中堅大学に合格し、進学する運びとなっていた。しかし、コロナ禍で大学がクローズ状態となった影響もあり、大学が再開され始めた今でも、大学にはまったく行かずに、引きこもっているような状態だという。

海斗君のケースは、中学受験の合格で燃え尽きてしまって、その後、勉強に身が入らないという典型である。

みゆきさんは「学校が悪かったのか、親が悪かったのか、子どもが悪かったのか」と悩んでいるが、決して、少なくない悩みだということをお伝えしておきたい。

「子どもが中学受験合格後に燃え尽きないようにすべきこと」に答えがあるとしたら、筆者はこう思う。中学受験は結婚と似ている。ゴールではなくスタート。「結婚さえできたら、人生、万々歳」という考えが幻想であることは、結婚生活を経験した人ならばおわかりかと思うが、中学受験もそれと同じだ。

もちろん中学受験は過酷なので、親にはどうしても、「偏差値・知名度の高い有名大学に入ってほしい」という気持ちがあるのは仕方がないことかもしれない。しかし、それよりも前に覚えておかなければならないことがある。

「糸は張りつめすぎると、やがて切れてしまう」

未来は、無理なく楽しい毎日を送った、その先につながっていると思うのだ。

鳥居りんこ(とりい・りんこ)
エッセイスト、教育・子育てアドバイザー、受験カウンセラー、介護アドバイザー。我が子と二人三脚で中学受験に挑んだ実体験をもとにした『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などで知られ、長年、中学受験の取材し続けている。その他、子育て、夫婦関係、介護など、特に女性を悩ませる問題について執筆活動を展開。

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