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コウケンテツだって、ごはん作りはしんどい!? 料理研究家が「手料理=愛情のバロメーター」説をバッサリ、「家事の理不尽」を説く意味

  • 2020.11.11
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時短、カンタン、ヘルシー、がっつり……世のレシピ本もいろいろ。今注目したい食の本を、フードライター白央篤司が毎月1冊選んで、料理を実践しつつご紹介!

今月の1冊:『本当はごはんを作るのが好きなのに、しんどくなった人たちへ』コウケンテツ 著

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ぴあ 1,400円(税別)2020年9月20日発行 撮影:白央篤司

コウケンテツさんといえば、日本の料理研究家では知名度トップクラスのひとり。その彼が、初の書き下ろしエッセイとしてテーマに選んだのは、家事としての料理(以下、家事料理と記す)がしんどい人たちへの応援や励ましであり、また自身が家事料理に感じているつらさ、わずらわしさの率直な告白だった。

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撮影:白央篤司

そもそも職業にするぐらいだから、コウさんは大の料理好き。彼にとって料理はずっと楽しみであり、レシピを考えることは喜びだった。それが結婚して、子どもができたことで変わってゆく。彼のお子さんは3人。

「自分が食べたいものは二の次にして子どもの好き嫌いや栄養バランスを考えなければいけない。家事や育児の時間が増えて、自分の時間はもちろん、楽しく料理する余裕さえうばわれてしまう」

と、冒頭で振り返っている。

「料理研究家だから(料理の)見た目も」よくして「品数もできるだけ多くしなければ」と考え、「自分を勝手に追い詰めて」いたと。

「子どもの心と成長を培うのは、あなたの手料理」

そんなふうに、以前は講演会などで訴えていた。それを聞いた参加者のひとりが、料理は苦手だけれど頑張ろう、と決意する。しかし数年後に再びコウさんのもとへ訪れて、彼女は言った。

「(もう)限界がきました。私はどうすればいいのでしょうか……」

毎日の料理づくりがつらくてつらくて仕方ない、と。自分の言葉がひとを追い詰めていた――料理家としてコウさんは大きなショックを受ける。そしてその衝撃が、本著を書くきっかけにもなった。

家事料理はなぜ大変になりがちなのか?

日本における家事料理はなぜ大変になりがちなのか?

・日本の家庭料理に求められるレベル&スキルが高すぎる
・栄養も、彩りも、品数もというプレッシャー
・ワンオペの多さ
・家事料理はマルチタスクであること
・デリやお惣菜、冷食などに頼ってはいけないという思い込み

といった分析が、実にわかりやすく、語りかけるようにつづられていく。このあたりを読むだけでも、家事にしんどさを抱えている人はきっと気持ちが軽くなると思う。料理研究家でもそう思うんだ、と。

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手軽に作れる副菜として、本書内で紹介されている韓国料理のナムル。コウさん流のナムル調理の法則は至ってシンプル、「ゆで」「生」「焼き」「炒め」の4パターンとそれぞれに向く食材リストがありがたい。撮影:白央篤司

私がうなったのは、手料理は愛情のバロメーターではなく、「手料理=余裕のバロメーター」ではないか、という表現。また「家事は『やっても褒められないけど、やらないと文句を言われる』という理不尽な作業」というくだりには、首がもげるほどうなずく人が多いと思う。

家事としての料理って、やり始めの頃はバランスよく、できるだけ手作りして、見た目もきれいに、副菜もしっかり……と、とかく理想を追い求めがちなもの。理想的な食事作りを毎日毎日、休みもなく、家族の協力や理解もなしに続けていけるわけもない。そんな現実とどう折り合いをつけていくか、本書はコウさんなりの実践記録でもある。

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本書はエッセイ本だが、レシピも十数点紹介される。コウさんのレシピの中でも大人気のひとつという「豚プルコギ」を作ってみたが、おいしいのはもちろん、野菜と肉がたっぷりとれて10分で完成というのがありがたい。撮影:白央篤司

洗い物をどう減らすか。1日3食ちゃんと食べなければいけないのか。栄養は毎食必ず整えなければいけないのか。そもそも手料理でなくては、ならないのか? “我が家なりの在り方”というものを、コウさんが探していく。

プロの料理研究家だって、料理がしんどいこともある。したくないこともある。そうハッキリと物言えるのは、なかなかいい時代だと私は思う。

自己表現としての料理から、「料理がしんどい」という人の気持ちに寄りそうようなレシピを作ることに、現在コウさんはやりがいと意義を感じているようだ。彼がこれから発信していく料理が、楽しみ。

白央篤司(はくおう・あつし)
フードライター。郷土料理やローカルフードを取材しつつ、 料理に苦手意識を持っている人やがんばりすぎる人に向けて、 より気軽に身近に楽しめるレシピや料理法を紹介。著書に『 自炊力』『にっぽんのおにぎり』『ジャパめし』など。

白央篤司

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