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散歩コースに組み込みたい、井の頭公園の平和な日常「ブルースカイコーヒー」

  • 2020.10.31

青空の下、自然で満ちた公園のなかをのんびりと散歩したり、スポーツを楽しんだり、ベンチに座って美味しいコーヒーでひと息ついたり。これまで当たり前だった日常がいかに尊いものだったかを強く感じさせられたここ数ヶ月。たとえ暮らしがニューノーマルになろうとも、井の頭公園に来れば、咲き誇る季節の草花や生き物と、公園内で愛され続けるカフェ「ブルースカイコーヒー」が、“変わらない平和な日常”で満たしてくれる。何気ない穏やかな毎日に感謝する、そんなことを思わせてくれる存在だ。

北から少しずつ紅葉の便りが届き始め、東京・井の頭公園がその仲間入りをするのもまもなくだろう。気がつけばコロナ騒動が始まって10ヶ月が経ち、一時は入場規制がかけられ閑散としていたこの場所にも徐々に人が戻り始めた。だが、人々の心の持ちようは大きく変わったはず。日課だった散歩やトレーニング、休日の家族やパートナーとの時間など、なくなるなど想像もしなかったここでの“平和な日常”を一度失ったからこそ、再び何気ない時間を過ごせる幸せを私たちは噛みしめている。

そんな井の頭公園のなかに、1軒の自家焙煎コーヒー店があるのをご存知だろうか。まるで絵本の1ページを切り取ったかのような、草花で囲まれた古い小屋や大きなファンタジックなイラスト、くまのキャラクターが描かれたコーヒーカップと聞けば、記憶にある人も多いかもしれない。店を構えてまもなく12年を迎えるブルースカイコーヒーは、長年この場所で、井の頭公園を訪れる多くの人々を見守ってきた。

井の頭公園には、老若男女、国籍さえ問わずさまざまな人が訪れる。早朝の常連は散歩を楽しむ近所の老夫婦やペット連れ、昼にかけては子連れママや学生たちが増え、夜にはトレーニングに励むランナーたちが姿を現す。休日にもなれば、都内に限らず各地から家族やカップル、バードウォッチャーたちがやって来ては賑わいを見せる。ブルースカイコーヒーの客も実に多種多様だ。

公園内という特殊な場所に店を開いた理由を、「立派なカフェスペースを備えたテナントがなくても、美味しいコーヒーと座れる場所、人を惹きつけるちょっとした“かわいさ”さえあれば、街に根付く場所はつくれると思って」と語る店主・宮地さん。

吉祥寺駅の真反対に位置するこの店は、景色を眺めながらのんびりと歩いて来ると駅からちょうど30分ほど。「割と歩いたな」というところで、かわいらしい小屋と「コーヒー」と書かれた看板が現れ、目の前には季節の草花を愛でながら座れるベンチが並ぶとなれば、思わず「ちょっとひと息つこうよ」と、立ち寄りたくなるのは自然な流れだ。“ハコ”こそないが、心地よい風が吹く気持ち良い公園全体がカフェスペースと呼べる。地元の人にとっては毎日のウォーキングの合間や、こどもをスワンボートで遊ばせている間にだって立ち寄れる場所だ。こうして12年間、多くの人に愛されてきた。

メニューはエスプレッソドリンクをメインに、アルコールが少し。フードは、すっかり公園名物になった「ねこドーナツ」と酒のつまみ用のミックスナッツのみ。けっして派手さはないが、ホットコーヒーが250円、カフェラテが350円(しかも税込!)と非常に良心的な価格も、大きな魅力だ。

いい豆を使っているのに農園や精製方法などの細かい情報はアピールしていない。「産地のブランドで理由付けをしなくても、素直に“ブルースカイコーヒーのコーヒー=おいしいコーヒー”という認識を持ってもらって、飲んで明るい気持ちになってくれればそれでいい」というのが宮地さんのスタンスだという。「特別感を打ち出しすぎても“かわいい”というコンセプトから離れてしまいますしね」

この“かわいい”というワードには、“キュート”という意味だけでなく、“親しみやすい”というニュアンスも含まれている。多くの人にとってちょうどいい場所で、誰でも手に取りやすい価格で、親しみを持って立ち寄ることができる、美味しい店。さまざまな人が訪れる井の頭公園だからこそ、ブルースカイコーヒーはずっと、すべての人の“平和な日常”のなかにあるのだ。

この店が、人と公園とちょうど良い距離感の間にあるように、井の頭公園自体の魅力もまた、自然と人とがほど良い関係性を保っていることにあると宮地さんはいう。高層ビル街に人工的に造られた美しすぎる緑地でもなければ、野生の猛獣に襲われるような危険なジャングルでもない。昆虫や鳥がいて、手入れをされながらも自力で生き延びる季節の草花があり、そんな自然環境のなかで人も豊かな生活を送っているのが井の頭公園。公園もブルースカイコーヒーも、至極贅沢な存在ではないが、訪れれば穏やかな気分になったり元気になれたりする、“平和な日常”の象徴といえる。

在宅ワークで1日中屋内にいるなんてことも少なくないこのご時世。たまにはふらりと井の頭公園に散歩に出かけてみてはどうだろう。吉祥寺駅までの折返しの前に、ブルースカイコーヒーでコーヒーを買ってベンチに座って、鳥や虫の声に耳を傾けながらひと息つく。特別豪華なものがなくても、ただ青空を見上げるだけで晴れやかな気分になれるだろう。

取材・文 : RIN

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