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アリスの世界を集約した、ロンドンの美しい古書の店。

  • 2020.10.28
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文・写真/坂本みゆき(在イギリスライター)

近年、再開発が急速に進んで古き良き時代の姿を失いつつあるロンドン。そんななかで昔ながらの佇まいを守り、まるで歴史映画の舞台に迷い込んだような小道がある。その名はセシル・コート。17世紀からの歴史を誇り、現在もこだわりのアンティークショップや書店など、個性がきらりと光るお店が軒を連ねる素敵な場所だ。

なかでもひときわ魅力を放っているアリス・スルー・ザ・ルッキング・グラス。その名から察することができるとおり、ルイス・キャロルの書いた『不思議の国のアリス』をテーマとする古書店だ。

19〜20世紀の文学や文化に造詣が深く、アリスにまつわる本も執筆しているオーナーの1人、ジェイク・フィオー氏は時代を超えて輝き続ける『不思議の国のアリス』の魅力に着目。アリスとともにその世界観を共有する本やアート、小物を集めたお店を作ることを思いつき2012年にオープンした。

店内には1865年に出版されたジョン・テニエルのお馴染みの挿絵による初版本はもちろん、テニエルとは一味違ったアーサー・ラッカムの叙情的なイラストによる1907年版など、錚々たるレア本が並ぶ。またフランシス・ホジソン・バーネットの『秘密の花園』やロアルド・ダールの『マチルダは小さな天才』など、イギリスの児童文学を代表する名作の初版本も揃える。

そしてアリスの幻想的な世界はサイケデリックなヒッピーカルチャーにも繋がっているとして、60年代に一世を風靡したファッションデザイナー、マリー・クヮント関連の書物も扱っているのもユニーク。

ここに足を運ぶ人たちはファンやコレクターはもちろん、アーティストやファッションデザイナーなどのクリエーターも少なくない。セレブリティがお忍びで立ち寄ることもあるとか。確かにこれらの古書はヴィクトリア時代ならではの細部にまでこだわった印刷や装丁や、アンティークの品特有の美しさであふれ、手に取る者にインスピレーションを授けてくれる。

ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館では、来年3月からアリスにまつわるエキシビション「Alice: Curiouser and Curiouser」展が開かれる。アリス・スルー・ザ・ルッキング・グラスからは、ジョン・テニエルの手描きの絵が施されたチェスボード、テニエルの未公開のアリスの挿絵、さらにはヴィクトリア女王とアルバート公の四男、レオポルド王子からアリスのモデルとなったアリス・リデルに宛てた手紙などを展示用に貸し出す予定だとか。

数々の貴重な品を揃えるこの店こそ、現代の「不思議の国」なのかもしれない。

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