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9割の人が知らない、「長期投資するほど損を回避できる」の大誤解

  • 2020.10.27
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マネーの専門家が「長期投資をすればリスクを低減することができる」と言うのを聞いたことがある人は多いでしょう。経済コラムニストの大江英樹さんは、「9割の人がこの言葉を誤解して受け止めている」と指摘します。その誤解とは――。

自宅勤務中にストレスを感じている女性
※写真はイメージです(写真=iStock.com/mapodile)
投資リスク=損をする可能性ではない

投資を始めた人、これから投資をやってみようと思っている人たちが、投資に関する本やコラムの記事などを読むと、必ず目に付くフレーズがあります。それは「投資をするのなら一喜一憂せずに長期投資を心がけてやりなさい」ということです。この文言は別に間違ったことを言っているわけではありません。

ところがその理由について「長期投資ならリスクを低下させることができるから」と語られることには注意が必要です。なぜなら「長期投資はリスクを低下させる」というのはある意味正しいのですが、別な意味では明らかに間違っているからです。今回は誰もが間違いやすい長期投資について、少していねいにお話をしたいと思います。

そもそも投資における「リスク」というのは、どういうことなのでしょうか。リスクという言葉には色んな意味がありますが、投資の世界でリスクと言えば、必ずしも損をするという意味ではなく、「投資をした結果が一定ではなく、ブレること」を言います。したがってリスクが高いというのは「たくさん儲かるかもしれないけど、同じぐらいたくさん損をするかもしれない」という意味なのです。

ところが投資にあまり詳しくない人はそうは考えません。多くの人はリスクとは「損をする可能性」だと考えます。投資以外の世界では、リスクはしばしば危険とか損をするという意味で使われていますから、そう理解しても不思議ではありません。というよりも恐らく世の中の9割以上の人は投資リスクのことを「損をする可能性」と理解しているでしょう。

専門家の「長期投資でリスク低減」発言の大問題

ところが、評論家やFPの人たちは「長期投資をすればリスクを低減することができる」と言います。リスクのことを「損をする可能性」と思っている人が、そういうセリフを聞くと、「あ、長期投資をすれば損する可能性が少なくなるんだ!」と思い込んでしまいます。

実はこれが問題なのです。「長期投資がリスクを低減する」、というのは正確に表現すると、「単位期間あたりの標準偏差は計測期間を長く取ることによって平均値に回帰する」という意味なのです。これでは何のことかわかりませんね。もう少しやさしく言い換えましょう。

例えば気温を考えてみてください。年によって温度差は大きい年も小さい年もあります。ここで言う寒暖の差が投資で言うリスクなのです。夏は猛暑で冬が厳冬という年であれば、投資風に言うとその年のリスクは大きいということですし、逆に温度差が少ない場合はリスクが小さいということです。このリスク、つまり寒暖の幅は年によって全く変わりますし、毎年の寒暖差を正確に予測することはできませんが、50年とか100年単位で見ると、大体平均的な幅に収まっているというのがわかります。つまり「長期投資をすればリスクを低減できる」というのは投資する期間が長ければ1年あたりの損益は平準化していきますよ、ということにすぎません。

長期で投資するほど損をする可能性は高くなる

もし多くの人が考えているように「リスク=損をする可能性」だとすれば、長期に投資すればするほど損をする可能性は大きくなります。これは考えてみれば当たり前の話です。だって、例えば向こう3カ月間と、向こう10年間では、どちらの方がリーマンショックのような暴落に遭う確率は高いと思いますか? まあここから3カ月ぐらいなら、そういう可能性はほとんど無いかもしれませんが、向こう10年であればほぼ100%そういうことは起こると思います。実際にリーマンショックのような大幅な株価の下落は決して100年に一度どころではなく、10年に一度ぐらいはほぼ起きています。

リスクの量というのは「投下する金額の大きさ×投資をする時間」で計算されるものですから、金額が一定であれば、長く保有すればするほどリスクの量が大きくなるのは当然です。したがって、長期投資をすれば「損をする可能性」としてのリスクは大きくなると考えるべきでしょう。ところが前述のように多くの人は「長期投資でリスクが低減する」という言葉を「長期投資すれば損しにくくなる」と間違えてしまうのです。

長期投資をする人にとって大切なポイント

さらに収益を上げることで大事なことは「ブレ幅が小さくなる」ことではありません。市場全体が右肩上がりで上昇していくことが大事なのです。この傾向線のことを「期待リターン」と言います。期待リターンというのは「自分が期待するリターン」という意味ではなく、過去の運用成績から判断して得られると考えられる利益のことを言います。例えば過去30年間で見れば、途中いろいろ変動はあったものの、日本の株式市場の期待リターンはマイナスでした。ところが過去10年間で見るとプラスということになります。したがっていくら運用成果のブレ幅が小さくても傾向線として下落が続いていたのであれば意味がありません。すなわち長期投資するのは良いのですが、あくまでも期待リターンがプラスの市場で長期投資をすることが大切なのです。

ところが、「期待リターンがプラス」と言ってもそれはあくまでも過去の話であって、今後はどうなるかわかりません。つまり「期待リターンがプラスの市場で運用しなさい」と言ったところで、それが一体どこなのかは、事前には誰もわからないのです。では一体どうすれば良いのか? そこで必要になってくるのが「分散投資」という考え方です。異なる市場や異なる国、そして異なるカテゴリーの商品に分散して投資をすることです。そうすれば長期投資によるメリットを享受することができるでしょう。なぜなら、世界には成長する市場もあれば、低迷する市場もありますが、長期的には世界の人口が拡大を続ける限り、世界経済全体では成長していくからです。

長期・分散・積立は最良の方法なのか

「え? でもリーマンショックの時は世界中の株式市場が一斉に下落したでしょう? だったら分散投資していても意味がないじゃない?」と言う人がいるかもしれません。確かに今後もああいうことが起きた場合、一時的には世界中のほとんどの株式市場が下落することにはなるでしょう。ただ今までに世界的な暴落は何度もありましたが、世界全体で見れば長くても数年で回復してきています。したがって、単なる長期投資でも単なる分散投資でもなく、その両方を組み合わせることが大切なのです。

よく「長期」「分散」「積立」で投資をするのが最も良い方法だと言われますが、私はこれが最も良い方法かどうかはわかりません。ただ、比較的無難な方法であることは確かです。今回は「長期」「分散」についてお話をしましたが、「積立投資」についてもいずれどこかでお話をしたいと思います。

写真=iStock.com

大江 英樹(おおえ・ひでき)
経済コラムニスト
オフィス・リベルタス代表 大手証券勤務を経て2012年独立。行動経済学、シニア層向けライフプラン等をテーマに執筆・講演活動。著書に『「定年後」の“お金の不安”をなくす 貯金がなくても安心老後をすごす方法』ほか。

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