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コミュニティに溶け込む、ニューヨークの書店。

  • 2020.10.25
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文/長谷川安曇(在ニューヨークライター)

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ブルックリンのブッシュウィック地区の古本屋モラセスブックスは、文学サロンとパフォーマンススペースを備えた新しい形のソーシャルスペースとして誕生した書店。古本をメインに、オリジナルの詩に関する書籍も販売し、バーも併設しているから、店内でお酒も飲める。いつも地元や店員の友人らしき人々で溢れている。朗読会を頻繁に開催するが、市内の大学と提携したワークショップやチェスナイト、パーティなども開催するとても楽しい場所だ。 棚に『きょうの猫村さん』(ほしよりこ著/マガジンハウス文庫)を見かけて、懐かしくなった思い出も。

市内に4カ所の支店を持つマクナリー・ジャクソンでは、現在「ブラック・ライブズ・マター(人種差別抗議運動)」のフェアを開催。人種差別抗議運動関連の書籍25冊の売上金の30%を「コミュニティーズ・ユナイテッド・フォー・ポリス・リフォーム」という団体に寄付している。また2017年にトランプ政権がトラベルバンと言われる、中東・アフリカのイスラム圏特定6カ国に対する入国制限命令を施行すると、入国が禁止になった国々のフェアを開催した。毎月イランやイラクの作家を取り上げ、書店で紹介。同店は文学を通して、政治的な声を表現した。

通常新書が発売される時に、書店は作家を招いて朗読とサイン会を行い、Q&Aやディスカッションも行う。 ディスカッションが盛り上がり、そのまま作家とみんなでバーに行くことも決して稀ではない。たとえ大型のチェーン店でも、それは一緒で、読者と作家との交流の場を大切にしている。アメリカ全土に店舗を持つ、バーンズ&ノーブルのユニオンスクエア店は、人気作家や本を出版したセレブリティがサイン会を開催する場として有名だが、作家のポール・オースターがサイン会を行った時。新作にサインをもらうため列に並んでいると、私の前に並んだ母親が自分の子どもを紹介して、「この子の名付け親はあなた」と言い出した。一瞬、面食らったオースターも「なんで?」と聞き返すと、何でも彼女の夫がたまたま病院でオースターを9年前に見かけて話しかけ、「今度娘が生まれるんだけど、名前は何がいいかな?」と聞いたら「ソフィがいいよ」と返答したそうな。(ポール・オースターの娘は、歌手で女優のソフィ)微笑ましい話に、オースターもその娘と握手を交わし、「ソフィへ」と本にサインを書く。その時の出来事がとても印象に残ったので、数年後、ソフィ・オースターと何度も仕事をすることになった。そんな風に本屋での素敵な出来事は、いつも心に残る。

本が売れないと言われている時代だけど、ニューヨークの書店は「本を販売しているお店」以上の存在で、コミュニティに特化した、やっぱり特別なもの。本とも人とも出会える素敵な場所だ。

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