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“脱はんこ”でまた出番?信長、秀吉…戦国武将も使った「花押」とは

  • 2020.10.23
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岐阜市内の碑にある織田信長の花押
岐阜市内の碑にある織田信長の花押

現在、世の中では「はんこ」が話題になっています。行政手続きの簡素化を目的に“脱はんこ”が進められていますが、婚姻届や離婚届もオンライン化を進める方針が示され、私たち一般人も今後、はんこを使う機会が少なくなるかもしれません。

ところで、本人であることの証しを示すはんこの押印ですが、これが広く普及するまでは、戦国時代の大河ドラマでよくみられる「花押(かおう)」が、本人である証しとして使われていました。この花押とは、どのようなものでしょうか。和文化研究家で日本礼法教授の齊木由香さんに聞きました。

遅くとも平安時代中期から

Q.花押とは、どのようなものですか。日本では、いつから使われ始めたのでしょうか。

齊木さん「花押とは、署名の代わりに使用される記号・符号のことです。『押字(おうじ)』とも呼ばれ、形が花が咲いたように見えることから、『花押』と呼ばれるようになりました。文書に証拠能力を与えるために、元々は自分の名前を自署していましたが、署名者本人と他者とを明確に区別するため、自署を図案化・文様化したのです。

花押が日本でいつから使われ始めたのか、明確な文献は残っていません。しかし、日本で初めて花押が使われたことが確認できるのは平安時代の950年、京都の仁和寺を管理していた寺司『別当大法師』の自署とされます。

昔は名前を楷書体で自署していましたが、次第に草書体に崩した署名『草名(そうみょう)』となり、それを図案のように極端に崩して、花押となっていきました。平安時代中期の11世紀に入ると、実名2文字の部分を組み合わせて図案化した『二合体』や、実名のうち1字だけを図案化した『一字体』が生まれました。いずれも、実名をもとにして作成され、自署の代用として、貴族など上流階級の間で使われていました」

Q.例えば、戦国大名もそれぞれ花押が異なります。どのようにして花押は作られるのでしょうか。

齊木さん「鎌倉時代や室町時代には、花押が武家や公家の間で使われ、文書の最後に書くことが一般的でした。花押がない場合は、文書の効力を発揮しないもの、あるいは偽文書と見なされていました。自署の代用として名前をもとに作るのが原則でしたが、戦国時代になると、名前ではなく、そのときの願いや思想をもとにその人格の象徴として花押が作られるようになり、様式が著しく多様化しました。

例えば、織田信長の『麟』字花押や羽柴秀吉(豊臣秀吉)の『悉』字花押、伊達政宗の『鶺鴒(セキレイ)』を図案化した花押などがあります。織田信長の『麟』は仁のある政治をする為政者が現れると降り立つという「麒麟(きりん)」にちなみ、自らが天下を平定しようという意気込みから用いるようになったといわれています。

豊臣秀吉の『悉』も『悉国平定(国平定=国を平穏な状態にする)』の文字が隠されているといわれています。このように、その時々の思想や象徴とともに特定の地位を表す役割も加わり作られました」

Q.花押から、はんこへと文化が変わったのは何がきっかけですか。

齊木さん「戦国時代から江戸時代、花押は印章と同じように用いられ、庶民にも広く使用されていました。花押から、はんこへと文化が変わったのは明治時代に入ってからの1873年、政府により『太政官布告』が発せられたことがきっかけです。

この布告では、あらゆる証書に花押などを用いることを禁止し、実印のない証書は裁判において証拠能力はないとされました。実生活において、花押を使う機会はほとんどなくなったのですが、一方で、花押を押印の一種として認めるべきだという考え方も存在し続け、その名残として現在、政府の閣議における閣僚署名は花押で行うことが慣習となっているのです」

Q.今後、はんこを使う機会が減るかもしれません。本人の証しを示す手段として、花押を持っておいた方がよいのでしょうか。それとも、通常の署名で十分でしょうか。

齊木さん「自筆署名は国際的に見ても、最も使われている個人認証の方法です。“脱はんこ”の風潮が広がっている現在の日本でも、自署署名が個人認証の方法の一つになるかもしれません。そうした状況で、通常の署名よりも粋で格式高い花押を持っておいた方が一種の話題にもなり、趣が出るのではないでしょうか。

ただし、閣僚署名に使うような花押は専門業者に依頼すると数十万~数百万円かかり、大変高価なものになります。自身の花押を持ちたい場合には、先人の思いを受け継ぎ、名前2文字を組み合わせて図案化した二合体や、名前のうち1字だけを図案化した一字体を自分で作ってみると、オリジナリティーのある花押を楽しめるのではないでしょうか」

オトナンサー編集部

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