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1980年代、『愛と~』なタイトルの映画がステキだった。

  • 2020.10.23
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先日、ファッションブランドのMUVEIL(ミュベール)の2021年春夏展示会のため、神田明神にあるレトロマンション内の素敵なショップ「M」にうかがいました。デザイナーの中山路子さんが、今回のテーマは「アフリカ」です、と説明してくれ、インスパイア源は?と尋ねたら、現在のコロナ禍のような状況のなか、遠く離れた広大な場所に憧れてしまって、というお返事でした。『スター・ウォーズ』シリーズや『スーパーマン』、王家衛監督作『花様年華』などシネマに影響を受けて、いつも服のデザイン考案をなさっている中山さんのこと、てっきりケニアを舞台に強く逞しく生きる女性をメリル・ストリープが演じた『愛と哀しみの果て』が着想源だろうと私は思っていました。

ミュベールの21SS新作より。サファリをテーマに、ホワイト、カーキなどがモダンにアレンジされた服。www.muveil.comニットワンピース¥72,600、イヤリング¥10,780/ともにミュベール※2021年2月末より販売予定

ジャケット¥61,600、ニットキャミソール¥40,700、スカート¥41,800/以上ミュベール

MUVEIL×BARBOURのジャケット¥74,800、スカート¥30,800/ともにミュベール

メリル・ストリープとロバート・レッドフォードが共演。

アフリカの大地と熟した男女の物語『愛と哀しみの果て』

確かに。このように同じ場所に閉じ込められる経験は昨今なかった私たち。広がる大地に憧れてしまいますよね。『愛と哀しみの果て』は80年代前半に日本で公開されました。当時、『愛と~』という邦題をつけた女性向けのアメリカ映画は軒並みヒットし、米国アカデミー賞候補や受賞も多かったのです。作品賞や監督賞、俳優賞などメイン部門だけでなく、楽曲賞や撮影賞でも注目されることも多かった。

『愛と哀しみの果て』を観た時、冒頭から圧倒されました。もちろん行ったことのないアフリカの大地を、まだドローンなんて登場するずっと前、空撮で、動物たちが駆け抜ける姿、鮮やかなフラミンゴのピーチピンク色が蠢きカタチを変えていく様をとらえた映像。朝日、夕陽の光の色彩。当時、すでに熟年ではありましたが、メリル・ストリープとロバート・レッドフォードというハリウッドの名優の共演。女性の自立を描いた映画は数多くありますが、現代と当時の80年代とはまったく異なります。実際の物語の時代性は映画作品に色濃く反映されますが、創り手がその映画を発信する時代の考え方に基づくからです。監督であるシドニー・ポラックは社会派の物語を得意としてますから(語り口は強面ではない)、その視点も考えたうえで観てみるのもおもしろいと思います。

デンマーク人女性が、スウェーデンの貴族と結婚し、ケニアの農園を夫婦で営みます。そこにイギリスの冒険家が登場して、心惹かれあい……というロマンティックな側面もありますが、この心の浮気もあって夫からはしいたげられ、農園の経営も困難に見舞われ、とヨーロッパのか細い女性が苦難に立ち向かう姿を描いています。原作は、アイザック・ディネーセンという男性の小説家名でいったん発表され、実はカレン・ブリクセンという女性が執筆していました。カレン・ブリクセンは当時、世の中でスムースに認められるために女性であることを隠して小説「Out of Africa」(映画原題と同じ)を発表したのです。このB面の物語も映画化作品のおもしろさを倍増させました。カレン・ブリクセンが原作の名作映画といえば『バベットの晩餐会』(87年)もありますね。こちらも大好きな作品。

ちなみに編集KIMが『愛と哀しみの果て』の中で印象的なシーンは、英国人冒険家役のロバート・レッドフォードが農園の女主人メリル・ストリープの髪を、草原で洗ってあげるシーンです。『追憶』(73年)では、ロバート・レッドフォードがバーブラ・ストライサンドの解けた靴紐を自分の膝に彼女の足を乗せて結んであげるシーンがあります。監督は同じシドニー・ポラック。独特なロマンティシズムがありますよね。

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『愛と哀しみの果て』●原題/Out of Africa●監督/シドニー・ポラック●出演/メリル・ストリープ、ロバート・レッドフォード、クラウス・マリア・ブランダウアー●1985年、アメリカ映画●本編161分●Blu-ray¥2,075  DVD¥1,572 発売・販売:NBCユニバーサル・エンターテイメント©1985 Universal Studios. All Rights Reserved.

お姫さま抱っこブームの元祖?かな?『愛と青春の旅だち』

素敵ですね、こんな風に自分の帽子を女性にかぶらせる。ちょっとした仕草や演出が決まるのが魅力的な俳優の条件だと日ごろから感じます。佇まいの美しさは、おそらく後天的には得られないもののひとつです。

80年代の大ヒットラブソングを生み出した映画です。こちらは軍人を目指す男性の成長譚として物語が進むのですが、リチャード・ギアが女性ウケしすぎることと、訓練の合間に出会ったデブラ・ウィンガー演じる女性との恋物語の訴求力のほうが高くて、本来の「青年が男のなっていく過程」にあまり心が動かされませんでした。こう考えると、軸にある物語ってどうとでも料理できる、という気がしてきます。世代は全然下になるので仮定にすぎませんが、もしもトム・クルーズが演じていたら、「男性の成長譚」という部分が確実に際立ってくるはず……。むしろ本作はデブラ・ウィンガーという、いまや若者ではほとんど知らない名前の80年代の女優がハリウッドに残したユニークな足跡、そのきっかけになっているような作品だと思います。

不幸な子供時代をおくった男性(リチャード・ギア)が海軍士官学校の訓練生となり、辛い鍛錬の日々を送るなかで、小さな愛を見つけ、自身の成長とともに、愛も実らせていく、という物語。

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愛と青春の旅だち●原題/An Officer and a Gentleman●監督/テイラー・ハックフォード●出演/リチャード・ギア、デブラ・ウィンガー●1982年、アメリカ映画●本編124分●Blu-ray¥2,075  DVD¥1,572 発売・販売:NBCユニバーサル・エンターテイメントMotion Picture: © 1981 Capital Equipment Leasing, Ltd. All Rights Reserved. Advertising:  © 1982 by Paramount Pictures Corporation. All Rights Reserved.TM, ® & Copyright © 2013 by Paramount Pictures. All Rights Reserved.

からりとした中に切ない感情が宿る『愛と追憶の日々』

個人的にこの作品は、心の奥底から好きです!!いまでもよくアタマの中でこの映画の音楽がかかりますし、思い出すシーンも多い。

母と娘の距離と時間を描いた物語。母を残して娘が先に逝ってしまうことを除いては、ありふれた親子の物語なのです。シャーリー・マクレーンのとぼけた演技が最高で、このおとぼけ感によって、娘を心から愛していながら観客には重苦しく見えない作品になったのだと思います。1984年のアカデミー主演女優賞をとりました。ちなみに本作は、作品賞、監督賞、脚色賞でジェームズ・L・ブルックス、助演男優賞でジャック・ニコルソンも受賞しています。最初のほうのシーンで、夜、ベビーベッドに寝ている生まれたばかりの娘のところに寄り、母が言います、「この子、息してないわ!」。カメラは人物への寄りではなく(つまり表情は見えない)、ベビーベッドに近寄る母親を遠巻きにとらえています。シャーリー・マクレーン演じる母は、慌てながらふざけているみたいにそう言うのですが、このシーンだけで、母はとても娘に対して心を向けていて、心の隅っこでいつも娘のことを気にしている、ということを伝えきります。もちろん赤ちゃんは元気で、母が心配しすぎなだけ。

デブラ・ウィンガーの美しさが際立ったのはなんてったって本作だと私は思っています。

成長した娘エマ(デブラ・ウィンガー)が初めて登場するシーンが見事でした。庭にいるエマに呼びかけて、彼女がふりかえった時……映画館で観た当時、いまでも覚えているのですが「わあ、きれい」と観客の声が漏れたのです。声だけでなく「は~」というため息も聞こえました。ベビーベッドで息してなかったかもしれない赤ちゃんが、こんな美しい女性になったんだ……と、観る人の心にストレートパンチ。後姿からの登場も素敵でした。エマは母親の反対する相手と結婚し子どもを設けますが、やがて病魔にやられます。シャーリー・マクレーン演じるオーロラは再婚することはないけれど、隣に暮らす元宇宙飛行士とちょっとだけ恋愛感情を挟みながら、友人として互いに支え合う関係。エマが母を残し、自身が産んだ子も残して逝った後、母オーロラはボロボロになったりしません。むきに元気なふりをしたりもしません。心は喪失感に覆われているだろうのに、どこか同じくすっとぼけた感じ、なのです。

何か大事が起きた時、誠意があるならばこういう表現をすべき、というような意見が野放しに言われてしまう現在の世の中ですが、本作原題の「Terms of Endearment」(直訳で、愛の期間)に込められたメッセージを考えると、そこにかけられた時間・その時間によって育まれてきた関係性においてだけ理解できる人と人との真の想いというものが、個々のケースごとにあるように思えてなりません。ありふれた、当たり前の母娘の姿を描きながら、人の心の機微をとても軽やかに描いた作品でした。

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『愛と追憶の日々』●原題/Terms of Endearment●監督・脚本/ジェームズ・L・ブルックス●出演/シャーリー・マクレーン、デブラ・ウィンガー、ジャック・ニコルソン、ジェフ・ダニエルズ●1983年、アメリカ映画●本編132分●Blu-ray¥2,620  DVD¥1,572 発売・販売:NBCユニバーサル・エンターテイメントTM & Copyright © 1983 by Paramount Pictures. All Rights Reserved.TM, ® & Copyright © 2013 by Paramount Pictures. All Rights Reserved.

デブラ・ウィンガーは、どこへ?

デブラ・ウィンガーという女優がユニークな道筋を通ったハリウッド女優、と先に書きましたが、MeToo運動などがこんなに大きくなる2010年代より四半世紀前に大人気女優で、ある時からぱたりと公に出なくなってしまった彼女を追いかけたドキュメンタリー映画があります。『デブラ・ウィンガーを探して』という作品で、同じく女優のロザンナ・アークエットが監督をしています。

ロザンナ・アークエットも『グラン・ブルー』(88年)などで一世風靡した女優で、男女両方から人気がありました。「君はイルカに似てるね」と、ジャン=マルク・バール演じるジャック・マイヨールに言われる役です。女優がある一定の年齢を過ぎると使い捨てられていく映画界に疑問を持って、映画界にしがみつくことなく、そっと隠居したデブラ・ウィンガー。彼女のようにどこか映画界に疑問をもっているのではないかと思われる女優たちに、ロザンナ・アークエットはインタビューを重ねていきます。ウーピー・ゴールドバーグへのインタビューのシーンなんてすごく笑えます!いま再び『マリッジ・ストーリー』(2019年)でアカデミー賞を手にしたローラ・ダーンや、『スプラッシュ』(84年)で人魚(私はコレのせいでソバージュヘアにしてました)、『ブレード・ランナー』(82年)でレプリカントを演じたダリル・ハンナも登場します。いま、長き時間をかけて、ようやく、社会における女性の役回りについて考えることが常識、というトレンドの風が吹いています。この後、いかに……?

今回は、80年代に『愛と~』のタイトルで映画館を沸かせた作品たち、そしてそのなかで輝いたデブラ・ウィンガーについて、触れさせていただきました。あ、『愛と哀しみのボレロ』(81年)がありました!こちらはフランス映画。『愛と~』邦題ブームを、実は牽引した1本かもしれません。

『デブラ・ウィンガーを探して』●原題/Searching for Debra Winger●監督/ロザンナ・アークエット●出演/パトリシア・アークエット、メグ・ライアン、エマニュエル・ベアール、シャーロット・ランプリング、ローラ・ダーン、ダリル・ハンナ●2002年、アメリカ映画●本編97分

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