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「採点ミスを疑っています」「絶対おかしい」中学受験不合格を引きずる母が、涙ながらに訴えたこと

  • 2020.10.12
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“親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。

「採点ミスを疑っています」「絶対おかしい」中学受験不合格を引きずる母が、涙ながらに訴えたことの画像1
写真ACからの写真

中学受験は、その準備に、多大な時間と手間とお金がかかるものだ。子どもへの負荷も相当なものであるが、親にもそれと同じくらい、いや、おそらくそれ以上に重圧がかかっていることであろう。

それゆえ中学受験を「苦行」と捉える親も存在し、彼らはそれ相応の“結果というご褒美”を渇望している。しかし、哀しいかな、第1志望校に合格する子は今や、5人に一人とも言われるのが、中学受験の世界。当然のことながら、全員が万々歳という結果は望めないのだ。

たとえ不合格を突きつけられたとしても、じょじょに「人生はままならない」と達観し、次なる歩みを進めていく親子が多数派ではあるが、中には“ご褒美なし”という現実を引きずり続ける親もいる。

麻美さん(仮名)も、その一人であった。

彼女の一人息子である翔太君(仮名)は中学1年生。この春、H中学に入学した。しかし、麻美さんはいまだに心が晴れないと訴える。

「なんで、うちの子がH中学なんかに行かないといけないんでしょうか? 毎朝、翔太を見るたびに、『なんで、H中学の制服を着ているのかしら?』と思っちゃう自分がいるんですよ……」

小学4年生から大手中学受験塾に通い、S中学を目指して、日夜勉強に励んでいたという翔太君。6年生になると、志望校別特訓クラスにも通うようになり、「S中学合格!」の旗印のもと、仲間たちと共に気合を入れる日々だったそうだ。

ところが、結果は不合格。その志望校別特訓クラスでは、不合格者のほうが少なかったという。

「絶対、おかしいんですよ。翔太はいつも合格確率も80%以上を出していましたし、今でも学校側の採点ミスを疑っています。塾の先生が『翔太の不合格は考えられない』とまでおっしゃったくらいなんですよ!」

さらに続けて、彼女はこうまくし立てた。

「あり得ないんです! 翔太は3年間も塾でコツコツと頑張ってきたんですよ。それなのに、J君が受かって、翔太が残念だったなんて、絶対、おかしいです!」

「私からS中学の情報を抜き取った」J君の合格が納得できず……

聞けば、J君は5年生の後半頃から中学受験をしようと思い立ち、同じ塾に通うようになったという同級生。翔太君の良きライバルだったという。麻美さんはJ君の母親とも顔見知りの間柄であったため、しばしば情報交換という名の立ち話をしていた。

「ずるいんですよ、J君のお母さんは! 『うちは新参者だから、いろいろ教えてください』なんて殊勝なこと言って、私からS中学の情報を抜き取ってたんです! それだけじゃありません。『Jの成績じゃ、とてもS中学は無理ですよ~。翔太君が羨ましい』なんて、思ってもないことを言って、今頃、おなかの中で大笑いしてるんでしょうね……J君親子より、うちのほうが、S中学への思いは強いはずなのに」

要するに、麻美さんは「中学受験は、熱望者順に合格するべきである」と主張するのだ。

しかし、言うまでもなく、受験は当日の出来次第。成績の良い順に入学が許可されるシステムである。学校側にとっては、親子の熱意うんぬんの優先順位はかなり低い。それを正しく推し量る手段がないからだ。

ゆえに、受験というのは時に非情なもので、「同じくらいの成績で、同じ学校を目指していた仲良し同士であっても、友達だけが合格し、自分は不合格になった」というケースは珍しくもない。「受験とはそういうものである」と想定しておくのは親の仕事なのだが、思考があまりに受験一辺倒になると、結果が明らかになってなお、不合格を引きずり続ける親が出てしまうのだ。

中学受験で負った傷を癒やす唯一のモノ

今現在、翔太君はというと、元気にH中学へ通い、部活の新人戦に向かって、練習にも熱が入っている様子だという。

「頭ではわかってはいるんです。私だけがいつまでもS中学に固執しているってことは……。こんなことを思って、ため息ばかりついていても、翔太に対して悪影響にしかならないってことも、わかっています。でも、心が追いついていかないんですよ……」

そう言う麻美さんの声は、泣いているようだった。

中学受験に傾ける親のエネルギーは膨大なので、その思惑が外れた時のショックは計り知れない。こういう時、当人にとって、「中学受験とはそういうもの」「H中学もいい学校」「いつまでも落ち込んでいたら、子どもが気に病む」といった「正論」は虚しく響くばかりだろう。

しかし、麻美さんのような苦しみを吐露してきた人たちを数多く見てきた筆者は思う。

「時間薬のみが、中学受験で負った傷を治癒させることができる」

多分、来年の今頃、麻美さんに会ったならば、少し遠いものを見るような眼差しで「今もS中学に未練はありますけど、H中学もなかなかなものですよ!」と微笑んでくれるのではないか……そんな予感がしている。

鳥居りんこ(とりい・りんこ)
エッセイスト、教育・子育てアドバイザー、受験カウンセラー、介護アドバイザー。我が子と二人三脚で中学受験に挑んだ実体験をもとにした『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などで知られ、長年、中学受験の取材し続けている。その他、子育て、夫婦関係、介護など、特に女性を悩ませる問題について執筆活動を展開。

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