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パリ市立近代美術館、『サラ・ムーン』展で時を忘れる。

  • 2020.9.29
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フランス語を習うとプレザン(現在)、パセ・コンポーゼ(複合過去)、フュチュール・アンテリユール(前未来)といった時制について学ぶ。パリ市立近代美術館で開催中の写真家サラ・ムーン展につけられた副題『パセ・プレザン(過去現在)』。学校で学ぶ時制では時間の流れがあるけれど、“パセ・プレザン”は時間の境がないサラ・ムーンの世界における独特の時制なのだ。

『かもめ』1998年©Sarah Moon

『自在輪』2001年©Sarah Moon

展示されているのは1960年代後半からの写真、映像、そして書籍。モデル時代に待ち時間を活用して自己流に撮影を始めた彼女がフォトグラファーとして有名になるのは、キャシャレルのための仕事だ。これは1968年から1990年まで続き、その間に彼女は当時勢いを誇っていた「Nova」「Vogue」「Marie-Claire」といったファッション誌でモード写真家として活躍した。展覧会の最初の部分は、彼女の初期のモード写真を展示。入ってすぐにキャシャレルのコーナーがあり、香水LoulouのCFを前に一斉を風靡した有名なセリフ「ルールーって?そう、私よ!」を口にする来場者の姿も。これはサラ・ムーンの名を知らない若い世代、アーティストとしての彼女の仕事しか知らない人々にはちょっとした驚きかもしれない。

1996年、Yohji Yamamotoのための撮影。©Sarah Moon

その後に続くスペースは、『マッチ売りの少女』『赤ずきんちゃん』『青髭』といった昔話にベースをおいて彼女がテキストを書き、そして撮影した5本の映像を核に構成されている。展示されている写真はモードに限らず風景、鳥、花、石像……生と死の境界線のない感動的な写真の数々だ。 最後は彼女の48年間のパートナーだったロベール・デルピール(1926〜2017年)に捧げられたコーナーだ。彼は彼女の編集者というだけでなく、自身が設立した広告代理店のアートディレクターを務め、また国立写真センターの創設者でもあった。

2015年に制作された15分のビデオ『Circuss』が小部屋で映写され、その周囲の壁に関連写真が展示されている。

2009年の『羽と鉛』。

写真のサイズの違いが美しい会場構成。

モノクロ写真なのか墨絵なのかといった独特の世界は、サラ・ムーンの仕事とすぐに識別できる。謎めいていて、夢のようでメランコリックで、現実と幻想が混在するようで……。彼女はロケハン用にネガ付きポラロイドを長年使っていたそうだ。「すぐに現像しないと、ポラロイドの表面にアクシデントが生じ、それによって、写真はより儚いものになるという感じがありました」と彼女は語る。「私が撮影した時点の一瞬が変質してしまう、そこに終焉がすでに刻まれている、といったことが、ポラロイドのネガに起きるアクシデントを私がそのままにしていた理由なのです」とも。現実と虚構が交差する美しい写真が並ぶ会場内を何度も行き来して、時間をかけて鑑賞したい写真展だ。

左:『アナトミー』1997年©Sarah Moon右:『ヴァカンスの終わり』2017年©Sarah Moon。

『Sarah Moon  PasséPrésent』展会期:開催中~2021/1/10(日)会場:Musée d’Art Moderne de Paris11, avenue du Président Wilson75116 Paris開)10時〜18時(火、水、金~日)10時~22時(木)休)月料)12ユーロ(予約はwww.billetterie-parismusees.paris.fr)www.mam.paris.fr

 

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