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中秋節に「月餅」を贈る中国の風習が消える?背景に“汚職撲滅”も…?

  • 2020.9.26
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月餅
月餅

中国では、日本の「十五夜」にあたる「中秋節」、丸い形をした「餅」を食べる風習があります。中国ではこの餅を、日本でいうお中元やお歳暮のように、お世話になった人に贈り合うのですが、最近では、食べきれない量をもらったり、賄賂の手段として悪用されたりしたため、風習に“変化”が見られるそうです。どのように変わってきているのか、日中の異文化ギャップを数多く取材している筆者が紹介します。

アイスクリーム入りの月餅も

中国ではもうすぐ「中秋節」を迎えます。中秋節は日本の「十五夜」(お月見)にあたり、旧暦8月15日のことを指し、今年は10月1日。中国では「春節」(1~2月ごろ)、「清明節」(4月)「端午節」(5月)と並び、一年の中でも重要な伝統行事の一つといわれています。今年は、中国の建国記念日である「国慶節(こっけいせつ)」の祝日と重なり、そのまま8連休となることから、例年よりも盛り上がると予想されます。

日本の十五夜では、ススキを飾り、お団子を食べる風習がありますが、中国では「家族円満」を象徴する丸い形をした「月餅(げっぺい)」を食べ、一家で豪華な食事を囲むという風習があります。毎年、中秋節の1~2カ月くらい前になると、百貨店やスーパー、コンビニ、菓子店、レストラン、ホテルなどで、さまざまなタイプの月餅が期間限定で販売され、街中が月餅であふれ返ります。

一口に月餅といっても、地方によって、皮の硬さや形状、餡(あん)に違いがあります。有名なものは広式(広東式)、京式(北京式)、蘇式(蘇州式)などで、広式の代表的な月餅は「双黄蓮蓉(シュアンホアン・リエンロン)」(塩漬けしたアヒルの卵とハスの実のペースト入り月餅)と呼ばれるもの。

他に、こしあん、クルミ、ゴマ、マツの実、カボチャ、クリなど、さまざまな餡がありますが、近年はチョコレートやトリュフなど、伝統的な月餅からは考えられなかった斬新な餡を入れた月餅も出回っています。ハーゲンダッツの月餅は、求肥(ぎゅうひ)の皮にアイスクリームが入っています。

価格帯もさまざまです。コンビニなどで販売されているものは、1つ20~30元(300~450円)ほどですが、大型スーパーで販売されている月餅セット(1箱4~8つ、800~1000グラム程度)なら、100~300元(1500~4500円)ほどするものが定番です。高級ホテルの月餅セットなら、400元(約6000円)以上するものもあり、豪華な箱に入っています。

日本のお中元やお歳暮にあたる習慣はない中国ですが、中秋節には月餅セットを贈ります。親戚間はもちろん、仕事の取引先に月餅セットを配ります。会社の規模によって異なりますが、多い場合は数百個、数千個も月餅セットを購入し、お世話になっている人たちに配り、親交を深めたり、日頃の感謝を伝えたりします。

会社によっては、福利厚生の一環として、自社の社員に指定の菓子店で交換できる「月餅券」を配るところもあります。個人的にも贈り合いますので、普通の家庭ならば、「いつの間にか何十箱もたまってしまい、家中が月餅だらけになる」という話をよく聞きます。

私もこの季節に中国に行くと、よく月餅を頂きました。1つ目はおいしく食べるのですが、2つ目からはつらくなってきます。中国の月餅は(最近は小ぶりなサイズも増えてきましたが)、基本的には1つがとても大きく、油分が多くて、1つで1000カロリーくらいあるため、食べきれないのです。

せっかく頂いたのに、残った月餅を友人に回すことがしばしばありましたが、中国人の友人に聞くと同様のようで、「たくさんもらいすぎて、処分に困る」「最終的には捨てる」と小声で打ち明けられたこともあります。

しかし、季節の風物詩なので、また中秋節のシーズンになると月餅が出回るのですが、近年はこの風習に“変化”が見られるようになってきました。月餅セットの箱の中に、こっそり、賄賂となる品物や現金を入れるケースが増えたためです。2013年3月に習近平政権になって以降、汚職撲滅やぜいたく禁止などの一環で、公費で月餅を購入することを禁止するという通達も出ました。

そうした社会情勢も反映してか、上海在住の友人によると、ここ数年は「以前に比べると、月餅を贈らなくなったし、もらわなくなってきた」といいます。長い間の風習として贈り合ってきましたが、「甘すぎて食べきれない」「もらってもあまりうれしくない」という人が増えてきたからだそうです。甘いものが貴重な時代とは異なり、今は何でもある時代。中国の中秋節はこれからさらに変化していくのではないかと感じています。

ジャーナリスト 中島恵

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