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主人公の強さと脆さを描ききる傑作。『マーティン・エデン』【今月のプロ押し映画!】

  • 2020.9.19
Photo_ (c)2019 AVVENTUROSA – IBC MOVIE- SHELLAC SUD -BR -ARTE
Photo: (c)2019 AVVENTUROSA – IBC MOVIE- SHELLAC SUD -BR -ARTE

『マーティン・エデン』は、これまでに観た青春映画の中でも最もパワフルで、かつ残酷な作品だ。主人公のマーティン・エデンは、ナポリの労働者階級出身の船乗り。ある日、大男に絡まれている裕福な家の青年を助けたことから、彼の姉エレナと出会い、恋に落ちる。彼が魅了されたのは、美しいエレナだけではなく、彼女に体現されるブルジョワの教養溢れる生活そのものだった。エレナを通して文学に目覚めたマーティンは、高校で学ぼうとするが、あまりの基礎のなさに入学を拒否される。仕事も辞め、独学で作家を目指すようになった彼の生活は困窮し、エレナは彼を愛しながらも、彼の無謀に思える夢を信じきれない。やっとのこと、ひとつの小説が雑誌掲載が決まったマーティンだが、そんなとき、ふたりの価値観の違いをまざまざと見せつけられる、決定的な事件が起こる。

原作は、20世紀のアメリカの文豪ジャック・ロンドンの自伝的小説『マーティン・イーデン』。無学な青年が独学の末に成功を掴むサクセスストーリーと思いきや、成功してから彼の苦しみはますます大きくなる、というのがこの物語の肝だ。出自を裏切った、あるいは心底裏切れない彼は、憧れていたブルジョワの生活を手に入れた途端、内面から崩壊していく。矛盾、葛藤、苦しみから目をそむけないマーティンの底しれぬ“強さ”に心が震える。舞台は、米国からイタリアに移されているが、ドキュメンタリー出身のピエトロ・マルチェッロ監督は、ところどころ実録映像を差し込み、マーティンのいばらの道と20世紀の悲劇を重ね合わせる。絶望的な物語にも関わらず、勇気づけられる。本作でベネチア国際映画祭の男優賞を受賞したルカ・マリネッリの時代性を超越した、存在感が圧倒的だ。

Text: Atsuko Tatsuta

マーティン・エデン』9月18日公開

配給:ミモザフィルムズ

Photo_ (c)2019 AVVENTUROSA – IBC MOVIE- SHELLAC SUD -BR -ARTE
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