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男が知らない「管理職になりたくない女性たち」が、ニッポン株式会社に抱く絶望の正体

  • 2020.9.11
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独立行政法人「国立女性教育会館」の調査によると、大企業に勤める勤続5年の女性正社員のうち、管理職になりたくない女性が59.2%と、男性の5倍近くにのぼる。なぜ、女性たちは管理職になりたくないのか。「管理職になりたくない」に込められた女性たちの絶望を、コラムニストの河崎環さんが痛烈に代弁する。

オフィスでグループミーティング
※写真はイメージです(写真=iStock.com/itakayuki)
つまんない山に人生かけるほど暇じゃない

「河崎さん、『女性活躍推進』の旗を振った安倍政権が終焉を迎えるにあたって、いまだ正社員女子の6割が管理職になりたがらないという調査結果を、どう読み解けばいいでしょうか?」というメールが編集部から飛んできた。

「えーヤダがっかり、日本の女子もしのごの言っていないで、標高が高くて見晴らしのいい場所へさっさと行けばいいのに、見える風景変わるのに、なんでー?」

と口を尖らせた私だが、ふと思い直した。日本の女子ほどに損得に敏感な生き物がそれを選ばないということは、つまりその選択肢がありていに言って「損」ってことだ。「まだ」。

そうだ、日本のカイシャの標高が高いところって、空気が薄いばっかりで必ずしも見晴らしがよくないんだ。ていうか多くは空気薄くもなくて、わりとサル山レベルなのに、オスザルたちがキィキィ言いながらドヤってて、ホント島国のサルって世間狭くてうんざり。

“Climb every mountain”(すべての山を登れ)と『サウンド・オブ・ミュージック』では歌っていたけれど、小さい頃から親や社会にいろんな大小の山を登らされてみた結果、登ってもつまんないってわかっている山には、もうわざわざ登らないんだよね、女子って。

登る山は自分で選ぶ

ナントカと煙は高いところが好き、なんてdisったら(ちょっとは)悪いけどもさ、見える景色がつまんない山に登頂するために大事なアラフォー以降の人生を費やすほど、日本の女子は暇じゃないし時間単価は低くないのよ。登る山は選ぶ。楽しくて登りがいのある山なら、喜んで登る。

だけど日本のカイシャで(単純に)(既存の)管理職になるっていう出世競争の山なんてのは、アホみたいにしんどいだけでノーサンキュー、そういうのは半沢直樹で見るからいいの。じゃ、アタシ定時で帰りまーす、ってことである。

安倍政権、女性87万人の雇用喪失で終焉を迎える

もしかしてひょっとして日本の風景が変わるかもしれないと思わされた「女性活躍推進法」の施行は2016年4月。初の女性都知事である小池百合子が率いる東京オリンピックを世界に見せつけよう、変化した日本の新しい姿を世界に見てもらおう、訪日客数もうなぎ上りでインバウンド産業は成長お墨付き。そうさジャパンはクールで人気者でイケイケさ、雇用拡大、多様性の包摂、やっちゃえニッポンええじゃないか、という夢を日本が見たあの頃、2020は国民的合言葉であり、目標だった。

さて、コロナ禍に見舞われ、東京オリンピックの延期を見た2020年。いまの日本女性はどんな姿をしているだろうか。10年の時限立法である「女性活躍推進法」が施行されて4年と少し、そろそろ半ばへとやってきて手応えもバッチリ、と言いたいところだが、現実はそうはいかない。

コロナ禍の影響で、7カ月間で女性87万人の雇用が失われたという。多くが非正規労働者の雇用調整によるものであり、その直撃を受けた領域こそが、五輪のおもてなし需要を見込んで女性の雇用が著しく伸びていた宿泊や飲食、小売り業界だ。

非正規雇用は、景気の影響をもろに受ける。では雇用が比較的手堅い正社員なら順風満帆でイキイキと女性活躍が推進されているのかというと、「正社員女子の6割が管理職になりたがらない」……。いまだ日本のカイシャにおいて管理職というポストはそれほど圧倒的に絶望的に魅力がないまま、安倍晋三氏は2度目の体調不良で首相の座を降りてゆく。

何度も蒸し返された「女性のほうがイヤがるんですよ」

女性活躍推進法は2016年か……。このプレジデントウーマンオンラインで週1(当時)の連載コラム(『河崎環のWOMAN千夜一夜』)をゴリゴリ書いて世間をメッタ斬りにしていた、返り血まみれの日々を思い出す。あの頃、団塊ジュニアの女性は出産リミットと向き合い、氷河期世代の女性は結婚出産の不条理な男女非対称性に憤慨し、女性が働くというトピックには、いつもひとさじの切なさがあった。

当時、SNSで人知れず罵詈雑言を吐くことでかろうじてバランスを保つような、毎日いっぱいいっぱいの働く女性、働く母親たちがいた(今もいる)。

「働け、結婚し立派に産み育て、介護せよ。それが女性活躍である」という意味わからん無理ゲーが強いる圧倒的に不利なルールに戸惑いながら「包摂」され、すり減った彼女たちの声はいつも鋭さを帯びていた(今も帯びている)。

「女性に輝いていただく」との安倍首相の言葉に「輝け輝けって、女はホタルイカか」。「日本死ね、だなんてそんな品がないブログを本当に子育て中の女性が書くなんて信じられない」との平沢勝栄議員の言葉に「どこの世界線を生きてんだ? 現実見えてんの?」との非難が殺到していた。

そういうのを一つひとつ時間をかけて、第一線で働く女性たちや彼女たちを応援するメディアが「おかしいですよね?」と指摘していった。「自分が逆の立場になったらわかりますよ? 想像力働かせてみてくださいね?」と、VR装置ばりに現実を仮想体験できる詳細な説明をして、おじさんたちは「お、おう」と納得したようなしないような返事をし、その晩どこかの居酒屋で「理屈っぽい女はやだねー」とかクダを巻いて全部忘れるのである。

で、しれっと「いやー、弊社では女性社員のほうが管理職になるのを嫌がるんで、私たちも困っているんですよ。ウチは制度も万全だし気遣いもしているんだけど、昇進を打診しても本人たちが嫌がるんだからしょうがない」なんて、あちこちでしたり顔をするのだ。

私たちが登りたいのは、あなたが登ってきたその山じゃない

「昇進を打診しても本人たちが嫌がる」のは、あなたたちが思っているほど万全な制度でもなければ気遣いもされていないし、要は管理職になるメリットが薄いからだ。男性のあなたたちには、一生を賭けてでも登りたい(登るしかない)サル山なのかもしれない。でも女性から見ると、登る意味や登りがいがあるほどの山じゃないのだ。

登ったところで見えるのは、冴えないおじさんたちが(グループチャットで5分で終わるような意思決定を)あーでもないこーでもないとドヤったり牽制したりしながら3歩進んで2歩下がるのを延々2時間繰り返すマジダルい会議とか、なんか知らんが「君に期待してるよ」「わからないことがあったらいつでも聞きなさい」「いい鮨屋(バーの場合もあり)があるから」とどこから目線なのか粉かけてくるじーさん(誰?)とか、前時代の喫煙室の陰口とかである。

あのね、女子の人生にとって大切なことは、もっと他の場所に、もっとたくさんあるから。女子って、あなたたちよりももっと人生をマルチに柔軟に楽しんでるから。私たちが登りたい山は、あなたが必死で登ってきたそんな山じゃないのよ。

「管理職になりたくない」に込められた女たちの絶望

男性社会の古い既存の枠組みの中に、女性を「呼んでやる」「組み込んでやる」、「あれこれわがまま言ううるさい女のために、いろいろ準備しといてやる」という男性の思惑とか態度に、実は女性はものすごーーーーく敏感に気づくのである。

あ、言っとくけど、男の「サプライズ(ドヤァ)」って、女の8割はほぼ気づいてるけど言わずに「きゃーうっそー気づかなかったーありがとー! すごーい」って乗ってあげてるだけだからね? その涙は「よくやった、そこまで成長して偉いぞ」っていう意味の感動だからね? 社会的マナーとして。

だからもう一度言っておく。「弊社では女性社員のほうが管理職になるのを嫌がる」のはつまり、女性たちが「あなたたちと管理職をすることに絶望している」のである。

写真=iStock.com

河崎 環(かわさき・たまき)
コラムニスト
1973年、京都府生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。時事、カルチャー、政治経済、子育て・教育など多くの分野で執筆中。著書に『オタク中年女子のすすめ』『女子の生き様は顔に出る』ほか。

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