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第49話:確かなワンピースと不確かなナエさん / ナエさんの話 連載【誰かの話】

  • 2020.9.4
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第49話:確かなワンピースと不確かなナエさん / ナエさんの話 連載【誰かの話】
出典 FUDGE.jp

外山夏緒さんの物語の連載【誰かの話】49話めは、「ナエさんの衣替え」のお話です。

 

 

49. 確かなワンピースと不確かなナエさん

 

第49話:確かなワンピースと不確かなナエさん / ナエさんの話 連載【誰かの話】
出典 FUDGE.jp

 

横着なナエさんの場合、

お気に入りの洋服のポケットの中にはいつも何かが入っている。

百円玉だったり、レシートだったり、飴玉だったりが、

気づかぬうちに入っている。

 

ナエさんは次の季節に向けて、衣替えの準備をはじめた。

今年も着ることを楽しみにしていたお気に入りのワンピースを、

真っ先に引っ張り出して、空気にさらした。

 

十年前に奮発して購入して以来、

毎年大事に着ていた長袖の青いワンピースを、

今年もよろしくと言わんばかりにハンガーにかけたわけだけど、

 

驚くことに、あんなに気に入っていたワンピースに対して

ナエさんは自分でも信じられないほどに

全く心が踊らなくなっていた。

 

ナエさんは混乱している。

 

このワンピースさえ着ていれば間違いないはずなのだ。

ナエさんの人生はこの青いワンピースさえあれば、

概ねハッピーのはずなのである。

この十年間、疑いもなく晴れやかに身にまとっていたはずなのに。

 

ナエさんにとって、この長袖の青いワンピースの価値は絶対であった。

着古してボロボロになろうが一生添い遂げるつもりでいた。

その気持ちは間違いなく、確かなことであった。

 

ただ今年の夏が過ぎただけなのに。

ナエさんの過ごしてきた時間は、今のナエさんにとって、

ただの他人の思い出のようになっていた。

 

「この青いワンピースを着るだけで

浮かれてた人は誰かしら」

 

きっと、この夏にアイスを食べ過ぎたせいかもしれない。

 

長袖の青いワンピースのポケットからは

失くしたと思っていた片方のイヤリングが入っていた。

 

第49話:確かなワンピースと不確かなナエさん / ナエさんの話 連載【誰かの話】
出典 FUDGE.jp

 

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絵をはじめ、詩や物語の制作、それらで展開したインスタレーションを行うなど、多岐にわたって活動をしている、gungulparmanの外山夏緒さん。この連載は、彼女が自身のWEBで発表していた「誰かの話」を「ラジオと火星人とコーヒーフロート篇」として、新たにグラフィック作品を加えてお届けしていきます。この世界のどこかにいるかもしれない「誰か」の日常を切り取ったお話を、お楽しみください!

 

Text & Illust_Toyama Natsuo

 

第49話:確かなワンピースと不確かなナエさん / ナエさんの話 連載【誰かの話】
出典 FUDGE.jp

外山夏緒

2015年より、絵や詩、物語で展開したインスタレーションなどの美術活動をスタート。他、イラストレーション、空間装飾、グラフィックデザインなどで活動中。その他、自身のプロダクトブランドgungulparmanでの商品制作やアートワークなども行う。

WEB:gungulparman.com

Instagram:@gungulparman

 

 

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