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第48話:頭の良い生きもの / ユイさんと隕石の話 連載【誰かの話】

  • 2020.8.28

 

第48話:頭の良い生きもの / ユイさんと隕石の話 連載【誰かの話】
出典 FUDGE.jp

外山夏緒さんの物語の連載【誰かの話】48話めは、「ユイさんが手に入れた隕石」のお話です。

 

 

48. 頭の良い生きもの

 

この小さな街では今年の夏、

 

「夜寝る前に

唐揚げを皿の上にのせてベランダに出しておくと、

そこに隕石が落ちてくるよ」

 

という噂が飛び交っていた。

 

第48話:頭の良い生きもの / ユイさんと隕石の話 連載【誰かの話】
出典 FUDGE.jp

 

噂を耳にしたユイさんはその日、

夕飯の唐揚げを一つ、

皿にのせてベランダに出しておいた。

 

そして次の日の朝、ベランダをのぞくと、

なんと唐揚げと同じくらいの大きさの石が、

唐揚げと引き換えに皿の上に転がっていた。

 

「隕石だ!」とユイさんは心の底から興奮した。

 

すぐさま友人やバイト先の仲間たちや、

街ですれ違う人などに見せびらかして歩いたが、

この街の多くの人たちがすでに同じように

隕石を手に入れていたので、みんなで興奮しあっていた。

 

ある日ユイさんは隕石をネットショップで販売して

この夏の間に小遣い稼ぎをしようと企てた。

スーパーの鶏肉を一気に買い占めて、

百個ほど唐揚げを揚げ、寝る前にベランダに敷き詰めた。

そしてユイさんは眠った。

 

朝方ベランダが騒がしくユイさんが目を覚ました。

のぞくとベランダ一面に、「カラスの大群」が集まっていた。

全てのカラスが口に小石をくわえてやってきて、

唐揚げを奪い合っている。

 

そして、ユイさんと目が合った瞬間、

カラスたちは小石を投げ捨て、一気に去っていった。

 

「ああそうか、全てはカラスの仕業だったのか」

 

この街全員で、カラスに騙されていたのだ。

噂の真相を知っているのはたぶんまだ、ユイさんだけである。

 

テレビのニュースでは

この街の町長さんが唐揚げと隕石の不思議な噂について

インタビューを受けている様子が大々的に放送されている。

 

ユイさんはそのニュースを流しながら、

ベランダに散らばっている唐揚げと小石たちを掃除しはじめた。

 

ただの唐揚げとただの小石。

この街のスーパーでは、しばらく鶏肉の品切れが続いている。

 

第48話:頭の良い生きもの / ユイさんと隕石の話 連載【誰かの話】
出典 FUDGE.jp

 

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絵をはじめ、詩や物語の制作、それらで展開したインスタレーションを行うなど、多岐にわたって活動をしている、gungulparmanの外山夏緒さん。この連載は、彼女が自身のWEBで発表していた「誰かの話」を「ラジオと火星人とコーヒーフロート篇」として、新たにグラフィック作品を加えてお届けしていきます。この世界のどこかにいるかもしれない「誰か」の日常を切り取ったお話を、お楽しみください!

 

Text & Illust_Toyama Natsuo

 

第48話:頭の良い生きもの / ユイさんと隕石の話 連載【誰かの話】
出典 FUDGE.jp

外山夏緒

2015年より、絵や詩、物語で展開したインスタレーションなどの美術活動をスタート。他、イラストレーション、空間装飾、グラフィックデザインなどで活動中。その他、自身のプロダクトブランドgungulparmanでの商品制作やアートワークなども行う。

WEB:gungulparman.com

Instagram:@gungulparman

 

 

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