1. トップ
  2. ライフスタイル
  3. 中学受験に2年間で400万円投入、マンションも手放して……「受験産業に踊らされた」母が今思うこと

中学受験に2年間で400万円投入、マンションも手放して……「受験産業に踊らされた」母が今思うこと

  • 2020.8.23

“親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。

中学受験に2年間で400万円投入、マンションも手放して……「受験産業に踊らされた」母が今思うことの画像1
写真ACからの写真

中学受験を表した言葉に「負けが込む博打」というものがある。

思うように我が子の偏差値が上がらない現状に、「今度の模試こそは!」「次回のクラス替えこそは!」とばかりに期待を込めて、過剰にお金をつぎ込んでしまう親を揶揄した言葉だ。確かに中学受験は、一度、足を踏み入れてしまうと「勇気ある撤退」はしにくいこともあり、親の多くがお金をかけすぎる傾向がある世界なのである。

例えば、このままでは志望校には合格しないという焦りのあまりに、塾の言うなりに多くのオプション講座を取ってしまう、また、塾以外に個別指導教室にも通わせるなどだ。

冷静さを失うと、中学受験の合否に対する不安感ばかりがあふれ出すので、それをどうにかカバーしようと、お金で解決しようとする親が出現しやすいと言えるだろう。

多香子さん(仮名)も、そういう親の一人であった。

多香子さんと夫は、ともに地方出身者で、高校までは公立で過ごしてきたこともあり、当初は長男・芳樹君(仮名)に中学受験をさせようという考えはなかったという。

一家は、芳樹君が小学5年生のときに、新居としてマンションを購入し、移り住む。転校した芳樹君にはすぐに友人ができたそうだが、その子たちと放課後に遊ぼうとすると断られるらしく、理由を聞けば「中学受験塾」に通っているということがわかったのだそうだ。

芳樹君のクラスメイトは、半分が受験組だったというが、気の合う子たちは全員、受験組。そして、芳樹君が望んだこともあり、多香子さんは「なんとなく中学受験に参入することになった」と話してくれた。

「後で気が付いたんですが、周りのみんなは、低学年から中学受験を意識した生活をしてきて、早い子だと小学3年生から受験塾に通っているんですよね。芳樹が入塾したのは5年生の5月ですから、中学受験にチャレンジするには遅いスタートなんだということに、その時、初めて気が付いたような有様でした……」

中学受験塾に加えて、個別塾、家庭教師も……2年間で総額400万円

その塾は、成績順に5クラス編成になっており、芳樹君は一番下のクラスでの受講となったそうだ。

「芳樹は負けず嫌いな面があるんですが、とにかく仲間のいる上から2番目のクラスに行きたいってことで、かなり頑張っていたんです。でも、そもそも基礎がなかったもので、これをどうにかしないといけない! って塾に相談することにしました」

すると教室長から、学生が講師を務める系列の個別塾を勧められ、塾のない日はそこで勉強をすることになったという。

「全ての曜日に塾が入るようになってしまったのですが、芳樹の成績は思うようには上がりませんでした。先生に相談すると『高学年になると、みんなが一斉にギアを上げますから、普通に勉強しているだけでは、成績はなかなか上がらない』って言われてしまい、親子で余計に焦っていました」

多香子さんは個別塾の教師が学生だからいけないのではないかと考え、芳樹君が6年生になると、プロ家庭教師にみてもらうようにしたという。

「もう、あの頃の私は、お金の計算ができなくなってしまい、結局、中学受験対策の2年間だけで、塾と家庭教師に400万円近く費やしました……。芳樹はもともと、地頭がいいほうではないって気が付いていながら、それをどうしても認めたくなくて。『こんなにお金をかけたんだから、それなりの学校に行ってもらわなければ!』って思っていましたね」

多香子さんは、自分のパート代を芳樹君の塾代にあてていたそうだが、それでは足りずに、貯金に手をつけるようになっていったという。

「マンションの頭金を払ったせいで、貯金もあまりなかったんですが、それでも『教育費のためだから!』って言い訳をして、出していましたね。今、思えば、完全に受験産業に踊らされていたような気がします」

私立中合格も、夫のリストラでさらなる窮地に!

結局、昨年、芳樹君はある中堅の大学付属校に入学したのだが、ここで問題が発生したそうだ。

「主人がリストラされてしまい、一気に家計がピンチになったんです。大学付属校って、学費が高いので……。それで、いろんな奨学金制度を探したんですが、中学生にはないんですよね。お金がないなら、公立に行けばいいってことみたいです。でも、今さら転校させるのは、あまりに可哀想なので、マンションを手放すことにしました」

多香子さんに、今、中学受験についてどう思うかを聞いてみたところ、彼女はこう言った。

「やっぱり、何も知らない素人が雰囲気だけでやるもんじゃないって思います。中学受験って、お金が湯水のように消えることもありますけど、それって多くの場合、親の要らぬ期待とか欲があるように感じるんです。なんでしょうね、周りの優秀な子たちと同じじゃなければならないっていう呪縛に、親子ともども、振り回されていたように思えるんですよ。今、冷静に振り返ると、あんなにお金と時間をかけなくても、入れるところに入ればいいだけの話で……。特にお金のことは、もっと冷静になるべきでしたね。親として最も情けないのは、現在、小2の芳樹の妹には、本人がいくら望んでも、中学受験は受けさせてあげられないことです」

幸いにも芳樹君はその学校を気に入っており、今のところ塾要らず。万が一、家計が好転しなくても、高校になると学校独自の奨学金が給付される制度があるとのことで、安心材料ではあるという。さらに、大学付属校なので、長い目で見れば、中高生にかかりがちな塾代、予備校代、大学受験料が丸ごと浮く可能性もある。多香子さんの総決算はまだ先の話だ。

中学受験、その先の中高一貫校にはさまざまなメリットがあることは確かだが、「ない袖は振れない」世界であることもまた事実。親御さんは受験参入前にこそ冷静に、教育費シミュレーションをしておくことを強くお勧めしておきたい。

鳥居りんこ(とりい・りんこ)
エッセイスト、教育・子育てアドバイザー、受験カウンセラー、介護アドバイザー。我が子と二人三脚で中学受験に挑んだ実体験をもとにした『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などで知られ、長年、中学受験の取材し続けている。その他、子育て、夫婦関係、介護など、特に女性を悩ませる問題について執筆活動を展開。

元記事で読む
の記事をもっとみる