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『映画ドラえもん のび太の新恐竜』創作秘話/川村元気

  • 2020.8.7

今年はドラえもんの50周年。半世紀にわたってこどもたちに夢を与えつづけたドラえもんは、私たちオトナにとっても身近な存在。そしてここ数年はオトナも楽しめ、感動出来る作品に進化しているように思います。本日公開の最新作『映画ドラえもん のび太の新恐竜』(以下、のび太の新恐竜)で脚本を担当した川村元気さんと、Harumari TOKYO編集長・島﨑昭光との対談を通して、今回の映画の楽しみ方や創作秘話を明らかにしていきます。

「『ドラえもん』に自分が入っていくことに対して、怯える気持ちはありました」

島崎 : 『のび太の恐竜』は1980年の公開後、2006年にリメイクされました。今回公開される『のび太の新恐竜』は完全オリジナルストーリーなんですよね。

川村 : はい。傑作『のび太の恐竜』に多大なるリスペクトを捧げつつ、全く新しいストーリーになっています。

島崎 : 川村さんにとっては2018年の『のび太の宝島』に続いて、ドラえもんの脚本を手がけるのは2作目ですよね。作家としての川村さんは、あまり2作目はやらない印象があるのですが…。

川村 : そうですね。僕、映画でもシリーズものは1本も作ったことないです(笑)

島崎 : でもドラえもんの2作目のオファーがきたときに、どうしてやろうと思ったのか。心境の変化があったんですか?

川村 : 恐竜というテーマで、というお話でしたし正直すごく悩みました。『のび太の恐竜』はすごくよくできている傑作だと思うし、リメイクされているし、もう恐竜でやることは無いだろうと思っていたので。

島崎 : 僕らがちょうどこどもの頃に映画館やテレビで見た作品ですし、不朽の名作と言ってもいい。まして、恐竜はいつの時代のこどもたちにとっても大好きで大注目のテーマ。

川村 : 僕は、一番尊敬しているクリエイターがF先生(藤子・F・不二雄)なんです。落語のように短い尺で、あんな風に起承転結とユーモアと哲学とSFが入っているものを作れる。その一番影響を受けた作家の金字塔である「ドラえもん」に自分が入っていくことに対して、正直に言うと怯える気持ちはありました。

島崎 : いろいろプレッシャー要素がありますね。

川村 : ただ一方で、とことん向き合うことで、F先生がどうやって物語を紡いでいたのかを学べるかなと思って挑戦したところもありました。そういう意味では(川村氏が自身はじめて脚本を手がけた)『のび太の宝島』で、「ああ、こうやってF先生って考えてたのかな」って尻尾を掴むところまではいけた気がしたので、もうちょっと深くその手法でストーリーテリングしたいなと思い、『のび太の新恐竜』に取り組みました。

「すこし不思議」なドラえもんワールド

©藤子プロ・小学館・テレビ朝日・シンエイ・ADK 2020

島崎 : 川村さんにとっての前作『のび太の宝島』が公開されたときのインタビューで、「F先生のコピーロボットになるつもりで取り組んでいる」とお話しされていたかと思うんですけど。

川村 : 言ってたような気もします(笑)

島崎 : 今回の2作目は、コピーロボット的なところでいうと、学んだことや意識したことは何だったのでしょうか?

川村 : F先生も化石を見るのが好きだったらしいのですが、僕も実際に福井県にある恐竜博物館に行って化石などを見てきました。そこで恐竜研究者とお話しさせていただいたり、化石採掘場を見させてもらうなかで、結構大きい発見が自分なりにありまして。

島崎 : 福井まで行かれたんですね!

川村 : 40年前、その当時フタバスズキリュウという恐竜の化石が初めて日本で見つかり、F先生は「日本にも恐竜がいたんだ」という驚きをもとに『ドラえもん のび太の恐竜』を描かれた。それから40年経った今、恐竜の学説はものすごく進歩していて。今では日本各地で恐竜の化石が発掘されていて、「恐竜っていたんだ」というよりも「日本は恐竜大国だったんだな」ということを実感したんです。
あと『のび太と竜の騎士』も恐竜がテーマだったんですけど、当時は「隕石が落ちてきて恐竜が絶滅しました」という学説だったのが、今は「恐竜は絶滅していません」という学説になっていて。人間も40年かけて進歩していて、研究ももちろん進んでいるんですよね。こういった研究の先にあるものをきちんと物語に落とし込めれば、映画になるなって思ったんです。

島崎 : 確かに。僕は世代的にちょうどこどもの頃に『のび太の恐竜』を観ていたので、恐竜の学説が塗り替えられた部分や当時わからなかった部分が、『新恐竜』の川村さんの脚本では反映されている気がしました。世界観作りでもそのへんは意識されたんでしょうか?

川村 : そうですね。前回脚本を手掛けた『ドラえもん のび太の宝島』の場合は、ロバート・ルイス・スティーヴンソンの『宝島』をオマージュした世界観の中に、ドラえもんを放り込んだらどうなるかっていうところだったんです。F先生が『ドラえもん のび太のパラレル西遊記』や『ドラえもん のび太のドラビアンナイト』でやられていたことでもあるんですけど。

島崎 : はいはい。

川村 : でも今回は、逆に恐竜というリアルな生物の歴史に対して、どういう風にドラえもん達がそこにかかわるのかという「すこし不思議」を意識しました。綿密に取材をされた史実に、都市伝説やミステリーを交えた世界へドラえもんたちが行く、というのがF先生流の映画ドラえもんの作り方だと思うので。

島崎 : F先生の「すこし不思議」という、まさにドラえもん的世界観。

川村 : あとは『のび太の恐竜』に対してのオマージュもすごく意識しましたね。卵を拾ってきて…という入り口は一緒なんですけど、鼻でスパゲッティを食べていたところを、目でピーナッツを噛むというネタに変えてます(笑)

島崎 : あぁ、そうですよね(笑)

川村 : 鼻でスパゲッティは大好きで『のび太の宝島』で使っちゃったんですよ。だから何か無いかな〜と思っててんとう虫コミックス(小学館が発行している日本のマンガ単行本レーベル)を読み直していたら、目でピーナッツを噛むっていうのがあったんで、「これだな」って(笑)

島崎 : すごい。そんな細かいところまでこだわりが…(笑)

川村 : そのあと卵をのび太が孵化させるところまでは『のび太の恐竜』と一緒なんですけど、ピー助ではなく、双子のキューとミューが生まれるところからはパラレルワールドが始まる。

『のび太の新恐竜』はオトナも楽しめるドラえもん

島崎 : なるほど。そういう意味でも、「『のび太の新恐竜』ならでは」という魅力はありますか?

川村 : 映画ドラえもんは小学校を卒業したら一緒に卒業しちゃう、みたいな人が多かったと思うんです。でもピクサー映画もディズニー映画も、こどもはもちろん観に行きますけど、オトナも一緒に観に行って、一緒に楽しめる。『のび太の宝島』で藤子プロさんから僕に脚本のオファーが来たときに、そういうものにしたいと言われたので、『のび太の新恐竜』はさらにオトナも楽しめる物語になっています。
僕は生まれて初めて見た映画が『E.T.』なんです。今でも大好きな映画です。あれって少年が子育てする話というか、子育てする相手がエイリアンっていう話で。『のび太の恐竜』ものび太が恐竜を育てる子育てモノなんです。友情モノではない。それで、やっぱり今回の『のび太の新恐竜』も、双子の恐竜をのび太が育てるんです。
こどもの観客は恐竜がいっぱい出てきて楽しいとか、のび太とかドラえもんを観て楽しいっていう作りにしてあります。ただ一方でオトナは自分のこども時代や、こどもを育てるという立場になった者としての色々な想いを重ねるというか。そういうレイヤーがある物語になっていると思います。

島崎 : 僕らがこども時代に観た『のび太の新恐竜』の「のび太が恐竜を育てる」というストーリーの骨子の部分は変わっていないと思うんですけど、今の僕らの目線で『のび太の新恐竜』を観ると、共感できるポイントが全然変わってくるので、楽しみ方の幅が広がったなあと思いましたね。

川村 : 40年の間でやっぱり変わっていった我々の環境のことだとか、恐竜に関する学説みたいなところを取り込んでいくと、それだけで違う物語がパラレルワールドで走るんだなあっていう、原点回帰的な作り方です。
40年の時間。こどもだった人が40年後には親になってるっていう。そこに迫力みたいなものも感じるじゃないですか。そこも含めて描きたかったなっていうのはありますね。

オトナになったからこそわかる共感や感動が、『映画ドラえもん のび太の新恐竜』には込められている。その真意は、ぜひ劇場で。次回は多様性にまつわる現代的なテーマや、作中の音楽についても触れていく。

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【映画ドラえもん のび太の新恐竜】
全国東宝系にて公開中

写真:岡祐介

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