第44話：魂の匂い ／ 無名の男の話　連載【誰かの話】

 

外山夏緒さんの物語の連載【誰かの話】44話めは、「無名の男と魂の匂い」のお話です。

 

 

44. 魂の匂い

 

 

夏になったので、

魂の匂いが濃くなってきたように感じる。

 

しかしながら、どうせそれは気のせいで、

たぶんほとんどが、生い茂る草木の匂いとか、

土とか川とか道路とか線香の匂いに惑わされて

こっちが勝手に感傷的になっているだけである。

 

魂の匂いは、きっとそんなに簡単なものではない。

 

・・・

 

無名のまま演劇をやめられずにいた男は

この春ついに所属していた劇団も解散して一人ぼっちになった。

フラフラしているうちに、あっという間に一文無しである。

家賃が払えないのでアパートにもいずらくなり、

男はしばらく公園で過ごすことにした。

 

晴れた日は公園の芝生のど真ん中に寝そべって

空を見上げて過ごした。

 

雨が降る日は大きな木の下で腰を下ろし、

そこから視界に入るすべての木々に名前をつけて過ごした。

 

風の日は公園の中をぐるぐる歩き回り、

公園中の犬のフンがあった場所を抑え

点線でつないで星座を作って過ごした。

 

こんな風にして過ごしている間に、

自分の荷物がひとつずつ少なくなっていき、

このまま行けば魂だけになるのだろうなと男は思った。

 

魂の匂いはきっと、

しばらくお風呂に入っていない生き物と同じ匂いである。

今日の男は、大人しく眠って過ごすことにした。

 

どこからともなくニンニクを炒める香りが漂ってきた。

男はひどく腹をすかせている。

 

 

・・・

 

絵をはじめ、詩や物語の制作、それらで展開したインスタレーションを行うなど、多岐にわたって活動をしている、gungulparmanの外山夏緒さん。この連載は、彼女が自身のWEBで発表していた「誰かの話」を「ラジオと火星人とコーヒーフロート篇」として、新たにグラフィック作品を加えてお届けしていきます。この世界のどこかにいるかもしれない「誰か」の日常を切り取ったお話を、お楽しみください！

 

Text & Illust_Toyama Natsuo

 

外山夏緒

2015年より、絵や詩、物語で展開したインスタレーションなどの美術活動をスタート。他、イラストレーション、空間装飾、グラフィックデザインなどで活動中。その他、自身のプロダクトブランドgungulparmanでの商品制作やアートワークなども行う。

WEB：gungulparman.com

Instagram：@gungulparman