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汚い持ち方は悪印象?正しい「箸」の持ち方とは 大人でも矯正できる?

  • 2020.7.26
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箸の正しい持ち方とは?
箸の正しい持ち方とは?

先日、ネット上で「箸の持ち方が汚い人」に関する議論が起こり、話題となりました。

誰かと食事を共にするとき、「テーブルに肘を突く」といった不適切な作法や、いわゆる「クチャラー」と呼ばれる、そしゃく音を出す食べ方など、相手の所作が気になる人は多くいると思いますが、同様に「つい、相手の箸の持ち方を見てしまう」「箸の持ち方が汚いと気になってしまう」など、箸の持ち方が気になるという人も多いようです。

ネット上では他にも、「昔、母親に持ち方を指摘されてイラッとしたけど、矯正できた今は感謝している」「家庭で教えるべきこと」という意見や、「自分の持ち方が正しいのか分からない」「大人になってからでも矯正できる?」といった疑問など、さまざまな声があります。

箸の持ち方が食事の場で与え得る印象や、持ち方の矯正方法について、和文化研究家で日本礼法教授の齊木由香さんに聞きました。

根気が必要だが、矯正は可能

Q.そもそも、正しい箸の持ち方とはどのようなものですか。

齊木さん「箸は主に親指・人さし指・中指の3本で持ちます。2本の箸のうち、上の箸は人さし指と中指で動かし、親指を添えます。下の箸は親指の付け根と薬指で固定します。下の箸は動かさないようにし、上の箸だけを動かして食べ物を挟みます。これが正しい持ち方です。

この箸の持ち方が、いつごろ誕生したかは定かではありませんが、室町時代に武家作法から確立された『本膳料理』に由来すると考えます。本膳料理は作法が細かく定められるほど、特に格式の高いものでした。このときに形成された礼法の流派から生まれた箸の使い方や所作が、現在に受け継がれる正しい持ち方であったと考えられます」

Q.いわゆる「汚い持ち方」といわれるような、不適切な持ち方の例を教えてください。

齊木さん「まず、手をグーのようにして持つことから呼ばれる『握り箸』です。この形だと、上下に開くこともできないので食べ方も汚くなります。また、箸が真ん中でクロスする持ち方の『クロス箸』もタブーです。大きな食べ物をつかむことはできますが、見た目が美しくないだけでなく、小さなものがつかみにくいため、これも汚い箸使いです。

相手に不快な思いをさせないことが食事の作法なので、一人でも不快に思う人がいたら作法に反することになります」

Q.正しい箸の持ち方は、何歳くらいのときに習得しておくのがよいですか。

齊木さん「子どもの成長段階を考慮し、5歳までには習得しておくとよいでしょう。癖のついていない状態から正しい持ち方が覚えられると、生涯にわたって美しく箸を持つことができます。ただし、そのためには段階的なトレーニングが大切です。

本来、人間は生まれたときから本能的に、5本の指を使ってつかむことができるといわれています。初めは手づかみで食べますが、成長に合わせて1~2歳の頃からスプーンを使うようになります。このとき、5本の指でグーをするように握るのではなく、鉛筆を持つように親指・人さし指・中指の3本指で使えるよう、親や周囲の人が教えてあげましょう。

スプーンを使えるようになったら、次に箸を持たせ、3本指を中心に箸を上下に動かせるよう、周囲の人が教えてあげましょう。こうして、初期段階からトレーニングをすれば、一生恥ずかしくない箸使いができるようになります」

Q.箸の持ち方は、成人してからでも矯正できますか。

齊木さん「できます。ただし、長年の癖ですから、子どもが矯正するよりも難易度が高く、根気が必要です。食事の途中で正しい持ち方が苦痛になるとつい、いつも通りの楽な持ち方に戻ってしまう上、楽に食べた方がおいしく感じるからです。

一方、子どもは筋肉も柔らかく、脳も柔軟なので、矯正する際も吸収が早いといわれています」

Q.矯正の手順について、詳しく教えてください。

齊木さん「まず、1本の箸を鉛筆やペンのように持ちます。このとき、先が長く出るように持ちましょう。次に2本目の箸を、1本目の箸と親指の付け根の間から通します。これで完成です。一度身に付くと一生きれいな持ち方ができるので、早いタイミングで直すとよいでしょう」

大人になっても矯正できる?

Q.誰かと食事を共にしたとき、相手の箸の持ち方が気になるという人は少なくないようですが、箸の作法が与え得る印象についてどう思われますか。

齊木さん「日本人にとって、箸は単なる道具ではなく、神様の魂が宿るものと信じられてきました。だからこそ、食事の作法の中でも箸使いは重要視され、箸の上げ下ろしに人格や品性が出るといわれています。きちんと食に向き合い、しつけを受けた人からすると、相手の箸の持ち方が気になるのは当然のことです。

正しく箸を持てる人は『家庭内でしつけをきちんと受けてきた、しっかりした人』という印象があります。逆に、箸の持ち方が得意でない人は、しつけができておらず、人や物への配慮に欠ける印象です。また、箸を正しく持てないと、箸の可動域が狭くなって挟む力も弱まるため、豆や麺をつかめなかったり、魚を上手に食べられなかったりします。

そうなると、食べ物を突き刺したり(刺し箸)、寄せたり(寄せ箸)、かき込んだり(込み箸)といった、箸の不作法な使い方である『忌み箸』になる傾向があります。これらは、食事を共にする相手によっては強い不快感や、不潔という印象を持ち、二度と食事の席を共にしないことにもなりかねないので、注意が必要です」

Q.ネット上では、大人になったわが子の箸の使い方を見て、「幼い頃に正しい箸の持ち方をしっかり教えておけばよかった」と後悔する親や、「今からでも間に合うなら矯正したい」と思う人も多いようです。

齊木さん「昔から『箸の使い方を見れば、人柄や育ちが分かる』といわれるほど、日本人が箸使いを重んじるのは、丁寧に生きているかどうかが見えるからです。『いただきます』という言葉があるように、植物・肉・魚、全てにおいて私たちは、命を頂くことによって生きています。食前に手を合わせるのは、生き物を頂くことへの感謝を表しているのです。

箸の持ち方は矯正できます。箸の持ち方が正しい人は豆腐や豆などのつかみにくい食べ物でも、丁寧に命を口に運べます。おのずと姿勢がよくなりますし、食に対する見方が変わり、周囲に不快な思いをさせない心配りや、他人を思いやる心が養われていきます。正しい箸の持ち方ができると、人生がより豊かになるかもしれません。

日本では、全てのものに命が宿ると考えられてきたため、命をつなぐ『橋渡し』から『箸(はし)』と名付けられたとの説もあります。こうした歴史を知ると、箸に対する考え方も変わってくることと思います。日本独自の文化も交えて伝承していけたら、すてきではないでしょうか」

オトナンサー編集部

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