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斎藤工の家に岩井俊二が…コロナ禍の“距離はあっても心は密”な実話

  • 2020.7.13
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技術革新、配信系サービスの充実、そしてこの度の新型コロナウイルスの影響を経て、映像エンタメの形は急速に変化。俳優に加え、白黒写真家、さらには映画監督としての顔も持つ、斎藤工さんが、時代とともに移り変わる、映像表現のあり方を語ります。

人と会えない状況を、あえて大喜利として考えた。

――新型コロナにおける自粛期間、斎藤さんはリモートでいくつか作品を作られましたが、どんなきっかけで始まったのでしょうか。

まず、今回初めてZoomに触れて、その機能に好奇心が湧きました。そんな中で4月に「劇団テレワーク」という劇団のZoom公演を拝見し、「映像作品として、これで何ができるかな…」と、いろいろ考えてみたんです。もともと僕は、かつての日本映画を、尊敬しつつもライバル視していて、彼らができなかったことをやりたい、という思いを常に抱いているのですが、たとえば松田優作さんや原田芳雄さんがご存命だったら、きっとZoomをおもしろがって、作品を作ったと思うんですよね。僕も、これを使って何か作品を生み出そうと思いました。

――人と会えない状況というのは、クリエイションにマイナスにはなりませんでしたか?

ちょっと不謹慎かもしれませんが、この現状を、“人が人に会えない縛り”の大喜利みたいに考えてみたんです。会えないから、離れているからできることってなんだろうと考え、仲間と立ち上げたのが、「TOKYO TELEWORK FILM」のプロジェクト。

――Zoomを使ってドキュメンタリーやドラマを制作されましたね。それとは別に、岩井俊二さんらと共にドラマも作られました。

昨年、’21年公開の映画『シン・ウルトラマン』に出演させていただいたご縁で、樋口真嗣監督から“怪獣バトン”に誘われたんですよ。そこから繋がって、バトンに参加していた岩井俊二さんからお声がけいただき、『8日で死んだ怪獣の12日の物語』という短編ドラマを、スマホの自撮りで撮影しました。ドラマの中に粘土細工が登場するんですが、制作者である岩井さんが、「崩れると心配だから」って、僕の家まで届けてくれたんですよ。しかも一人暮らしの僕を気遣って、野菜やマヌカハニーなどとともに(笑)。

――なんていい話…。そういう、距離はあっても心は密、のようなものづくりは、初めてだったと思います。どんな経験でしたか?

映像作品は常に、“今”というものをどう捉えるか、そこと向き合って作られていると思うんです。ものづくりの動機と時代は、大きな関わりがある。自粛期間に作った作品は、小規模で、自分たちの足元を改めて見つめ直したようなものですが、2020年のこの時期にしかできなかったことであることは間違いない。それから作り手も観る側も全員が“コロナ禍”というバックグラウンドを共有している中で、その事情を盛り込んだ作品を作るっていうのは、“共犯関係”があるみたいで、ちょっとおもしろかったです。

――斎藤さんは、ミニシアター存続の支援など、劇場に対する働きかけもしています。現在映画館は大変な状況ですが、どんな今後の展望を持っていますか?

長い歴史の中には時代の転換期というのが必ずあるわけで、ミニシアターにとってここ数年は、まさにそんな時期です。古き良きものが必ず残っていけるわけではないですし、さらにこれから座席数を減らさなければならないので、収益は格段に減りますよね。ただそこで思うのは、映画館という場所に人を集めて収益を上げるという、これまでと同じ形での存続ではなく、それこそ今オンラインという使えるインフラがあるわけですから、それを駆使して新しい“映画を観る手段”を考え、そこでマネタイズしていく。そんな新しい生き残り方を考えていきたいし、映画館に育ててもらった俳優ですから、恩返しとして、運動を支えていきたいです。

――斎藤さんが始められた移動映画館「シネマバード」も、常設という固定観念から解き放たれたという意味では、新しい手段です。

僕の尊敬するフィルムメーカーはみな、作品のテーマに加え、映画の公開方法なども、時代を反映して変化している人ばかりなので、僕も同じように、考え方をアップデートしながら、新しい未来に向かって進んでいきたいですね。

映画界における斎藤さんの活動

『8日で死んだ怪獣の12日の物語』

斎藤さん演じるYouTuberがカプセル怪獣を購入。育てる様子を動画配信する、リモート撮影短編シリーズ。YouTubeで限定公開され話題に。新たにのんさんなどが加わり、7/31より劇場版の公開が決定。

「TOKYO TELEWORK FILM」

コロナ禍で日常化した“テレワーク”を題材にした映画企画。斎藤さんは出演に加え、企画、プロデュース、監督も担当。オムニバス作品で、伊藤沙莉さんやラバーガールの大水洋介さん、滝藤賢一さんらが出演。

「シネマバード」
’14年にスタートさせた移動式映画館。映画館のない町に「映画+エンタテインメント」を届けるプロジェクト。これまでに沖縄県うるま市や北海道むかわ町などで開催。ドライブインシアターなどの展開も計画中。

「ミニシアターパーク」
「ミニシアター・エイド基金」の活動を俳優が引き継ぐ形で、井浦新さん、渡辺真起子さん、斎藤さんの3人が立ち上げたプラットフォーム。劇場、配給、俳優などが未来を語る場所の役割を担う。

「ミニシアター・エイド基金」
全国の小規模映画館を守るため、映画監督の深田晃司さんと濱口竜介さんが発起人となり立ち上げたクラウドファンディング。斎藤さんも発起の会見に参加。4月にスタートし、目標額を大きく上回る3億円以上を集め、5月に終了した。

さいとう・たくみ 俳優、映画監督。1981年生まれ、東京都出身。ドラマ『BG~身辺警護人~』(テレビ朝日系)に出演中。今年から来年にかけ、映画『糸』や『シン・ウルトラマン』など、出演待機作が多数。

※『anan』2020年7月15日号より。

(by anan編集部)

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