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第40話:世界で一番立派な木 / 木と人々の話 連載【誰かの話】

  • 2020.6.26

 

第40話:世界で一番立派な木 / 木と人々の話 連載【誰かの話】
出典 FUDGE.jp

外山夏緒さんの物語の連載【誰かの話】40話めは、「世界一と言われている木とそこに訪れる人々」のお話です。

 

 

40. 世界で一番立派な木

 

この街には、世界で一番立派な木があった。

この木の幹は街の広場よりもずっと太く、

てっぺんは雲で隠れるほどの樹木であった。

 

この世界で一番の木はあまりにも立派で雄大なので、

人々の抱える悩みも、のぼせた心も

とてつもなくちっぽけなものだと思わせる存在だった。

それによって良い作用も悪い作用もあったが、

結果的に人々は安らになる選択をしていたので、

人類から最も尊敬されている木となった。

 

この木にしてみれば、ずっと前からただ生きていただけであったが

人々は勝手にその不思議な存在と力を思い込み続け、

二十世紀以降にはついに、人々にとって神様になった。

 

好きな子に告白する学生も、仕入れの数に悩むパン屋も

父親がわからぬ子をみごもる女も、火事にみまわれた教会も

戦争を導いてしまった国王も、情事に溺れた看板屋も

とにかくこの木の前に来て決断し進めれば万事なんとかなった。

 

当の木にとってはどこ吹く風で、ただ太陽の光を浴び

呼吸を繰り返して生きているだけであったが、

気づけばとにかく世界の中心になっていた。

 

野良犬だけが容赦無く、小便をひっかけていく。

 

樹木としての寿命を尽きるタイミングを完全に逸したまま、

図体はいまでも少しずつ成長を繰り返し、

空高くそびえ立つ世界一の木の根っこが

まもなく地球の裏側から突き抜けはじめようとしている。

 

 

第40話:世界で一番立派な木 / 木と人々の話 連載【誰かの話】
出典 FUDGE.jp

 

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絵をはじめ、詩や物語の制作、それらで展開したインスタレーションを行うなど、多岐にわたって活動をしている、gungulparmanの外山夏緒さん。この連載は、彼女が自身のWEBで発表していた「誰かの話」を「ラジオと火星人とコーヒーフロート篇」として、新たにグラフィック作品を加えてお届けしていきます。この世界のどこかにいるかもしれない「誰か」の日常を切り取ったお話を、お楽しみください!

 

Text & Illust_Toyama Natsuo

 

第40話:世界で一番立派な木 / 木と人々の話 連載【誰かの話】
出典 FUDGE.jp

外山夏緒

2015年より、絵や詩、物語で展開したインスタレーションなどの美術活動をスタート。他、イラストレーション、空間装飾、グラフィックデザインなどで活動中。その他、自身のプロダクトブランドgungulparmanでの商品制作やアートワークなども行う。

WEB:gungulparman.com

Instagram:@gungulparman

 

 

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