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第29話:名曲が名曲になるまで / ドレミファソラシの音符の話 連載【誰かの話】

  • 2020.4.10
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第29話:名曲が名曲になるまで / ドレミファソラシの音符の話 連載【誰かの話】
出典 FUDGE.jp

外山夏緒さんの物語の連載【誰かの話】29話めは、「とある名曲の成り立ち」のお話です。

 

 

29. 名曲が名曲になるまで

 

第29話:名曲が名曲になるまで / ドレミファソラシの音符の話 連載【誰かの話】
出典 FUDGE.jp

 

その曲の音符たちは長い間、五線譜にしがみついていたが、

結局、誰の耳にも相手にされなかった。

産みの親の作曲家は、とっくの昔に死んでしまった。

 

音符たちは熟しすぎたため、ついに、

五線譜からこぼれ落ちていった。

 

先日は、花屋の夫婦の肩にもボタボタ落ちて

彼らのシャツを汚してしまい、とても嫌な顔をされた。

魚屋では並んでいる魚の上にも落ちて売りものをボロボロにしてしまい、

店主にホウキで追い払われ、もう少しで潰されるところだった。

 

音符たちはクサクサしはじめ、

五線譜上に並んでいた、”ド”の音符と、”レ”の音符が、

「お前のせいだ」と喧嘩をはじめ、ドとレの合戦がはじまった。

”ミ”の音符は結束して、その合戦の仲裁に入り、

”ファ”と”ソ”の音符はそれぞれパートナーを組んで

仲良くお茶しに出かけたまま、いまだ帰ってこない。

「みんな、この一曲の中で肩を並べた仲じゃないか」と、

”ラ”の音符がおいおい泣き出し、

この曲の中ではいつも大人しくしていた”シ”の音符が

はじめて先導を切って大声を出し、場を沈めた。

 

”シ”の音符の呼びかけにより、

バラバラになりかけた音符たちは再び集結し、

みんなで力を合わせ、この曲の生き残り作戦を企てた。

 

話し合いの結果、

 

「産みの親の名も無い作曲家とは全く別の、

すでに亡くなっている世界的に有名な音楽家の”遺品”の中に隠れて、

いつか誰かに発見してもらうというのはどうだろう、

その音楽家の”遺品”として発見されさえすれば、

一躍いろんな人の耳にしてもらえるのではないか」

 

という案が出て、

満場一致でこの計画が採用された。

 

音符たちは早速今夜、

二十時五分発フランクフルト行きの飛行機に搭乗することにした。

誰かの耳に届くその日まで、

五線譜に残された音符たちの戦いは続く。

 

 

第29話:名曲が名曲になるまで / ドレミファソラシの音符の話 連載【誰かの話】
出典 FUDGE.jp

 

・・・

 

絵をはじめ、詩や物語の制作、それらで展開したインスタレーションを行うなど、多岐にわたって活動をしている、gungulparmanの外山夏緒さん。この連載は、彼女が自身のWEBで発表していた「誰かの話」を「ラジオと火星人とコーヒーフロート篇」として、新たにグラフィック作品を加えてお届けしていきます。この世界のどこかにいるかもしれない「誰か」の日常を切り取ったお話を、お楽しみください!

 

Text & Illust_Toyama Natsuo

 

第29話:名曲が名曲になるまで / ドレミファソラシの音符の話 連載【誰かの話】
出典 FUDGE.jp

外山夏緒

2015年より、絵や詩、物語で展開したインスタレーションなどの美術活動をスタート。他、イラストレーション、空間装飾、グラフィックデザインなどで活動中。その他、自身のプロダクトブランドgungulparmanでの商品制作やアートワークなども行う。

WEB:gungulparman.com

Instagram:@gungulparman

 

 

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