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幸せな国デンマークの奇跡「クリスチャニア」を巡る旅。850人のヒッピーに学ぶ自由の哲学

  • 2020.2.27
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デンマークの首都・コペンハーゲンといえば、世界的な童話作家であるアンデルセンが半生を送った街として知られており、家具や建物をはじめとした高いデザイン性にも注目が集まる。日が暮れると、キラキラしたロマンチックな雰囲気に包まれるこの街には、意外すぎる隠れスポットが存在する。

850人のヒッピーが暮らす自由な街「クリスチャニア」

「デンマークに来るなら、クリスチャニアは見ておいたほうがいいよ」

2020年、デンマーク移住を決めた筆者にクリスチャニアの存在を教えてくれたのは、現地に長く在住する日本人だった。調べてみると、クリスチャニアはデンマーク政府から独立したルールで政治が行われており、自由を求める約850人のヒッピーが暮らしているとか。そして、デンマークの法律では違法である「大麻の売買」が行われているという。

コペンハーゲンのど真ん中に、なぜこんな場所が……? あまりにも不思議すぎたので、さっそく現地に足を運んでみることに。

ここがクリスチャニアのメインエントランス。壁いっぱいにストリートアートが施されたド派手な外観が目印だ。地下鉄「Christianshavn」駅から徒歩約5分とアクセスが良く、入場料などは必要ない。誰でもいつでも訪れることができるオープンな場所だ。

中へ進んでみると、いたるところにカラフルなアートが描かれている。観光客がイメージするデンマークらしさとは異なるものの、見ているだけでも楽しいし、フォトジェニックな写真撮影にも最適。

ここで暮らす住人たちは、DIYによって住宅に好みの装飾を施しており、デンマークの一般的な家庭よりもカラフルな家を多く見かける。

クリスチャニアには子供たちが通う幼稚園、公園、レストラン、土産物店、洋服店など、さまざまな施設があり、週末になると世界中から多くの観光客がやって来る。なんと年間で50万人もの人が訪れるのだとか。

ここには独自のルールが存在し、例えば「盗み、暴力、銃やナイフの持ち込み、ハードドラッグ、車の乗り入れ、動物を鎖につなぐこと」などが禁止されている。散歩中の犬や猫も鎖につなげられることなく、自由気ままに歩いている。

お土産類にプリントされた赤地に黄色い円が3つ並んだデザインは、クリスチャニアの国旗のモチーフ。独自の国旗からは、「ここはデンマークではない。独立した国家だ」という意思を強く感じる。

全面的に撮影禁止の「プッシャーストリート」へ

メインエントランスから少し歩くと、大麻が売買されているプッシャーストリートが見えてくる(写真はプッシャーストリートとは異なる)。このエリアは全面的に撮影禁止で、もちろんネット上にもこのエリアの写真は見つからない。入り口には黒い服に身を包んだ見張り番がいて、カメラを構えると「No photo」と注意される。

プッシャーストリートでは道の両脇にたくさんのプッシャー(売人)がいて、グラム単位で購入できる塊または、タバコタイプの大麻が堂々と販売されている。周囲には独特の大麻のにおいが漂っていて、やや異様な空気感。その周囲には、大麻を吸っている人たちも見かける。

何の取り締まりもなく大麻が売買されているのかと思いきや、時々、地元の警察官が見回りに来ていて、彼らが訪れるとプッシャーたちは即座に身を隠すらしい。ちょうど筆者が訪れた少しあとに地元警察が現れたのだが、本当にプッシャーがサッといなくなった。

「平和」で「自由」な思想を持つクリスチャニアで、なぜ大麻の売買が行われるのだろうか。書籍などをもとに調べたところ、大麻を合法化したほうが結果的に彼らの理想に近づくと考えられているそうだ。

大麻はハードドラックと異なり中毒性が低い。そのうえ、大麻の販売がクリスチャニアに集積することで、コペンハーゲン全体の秩序を保つことにもなる。

将来的に、彼らはデンマークでの大麻売買の合法化を目指しているとのこと。マフィアなどに流れていたお金の流れをクリアにして、大麻による税収を生み、その収益をハードドラック撲滅に利用しようという目論見らしい。

目に見えている事実だけで判断すると、「大麻売買=危険」と考えてしまいがちだけれど、実は、心地よく暮らすためにどうするべきかを熟考したうえでの結論なのだ。

ボスは不在。フラットで心地よい人間関係を築くデンマーク人

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コペンハーゲンの夕暮れ

クリスチャニアの政治スタイルとして特徴的なのが、「ボスを作らない」こと。住民はみな平等であり、何かルールを決めるとき、トラブルが起きたときは、住民による話し合いを行うという。誰もが自分の意思を持ち、発言権を持つ。

これは、デンマークの教育哲学とも重なる。デンマークの学校では、校長先生も教員も生徒もみんながファーストネームで呼び合い、敬語も使わない(そもそも言語に敬語がないのだけれど)。目が合うと、微笑みながら「Hi!」とフレンドリーに挨拶を交わし、思ったことを率直に伝え合う。

これはデンマークの職場でも同様で、彼らは上下関係を持たない。マネージャーや社長といった役職は存在するけれど、彼らは決して「上」の立場ではなく、互いの役割が異なるだけだと考える。だから、フラットで余計な遠慮のないディスカッションができるのだ。職場で不要なフラストレーションを生まないためには、デンマーク人のような考え方が理想的なのかもしれない。

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出口には「You are now entering the EU」のメッセージが

現在では秩序が保たれながら存在しているクリスチャニアだが、かつてはデンマーク政府の圧力につぶされかけた時代があった。住居が壊される、警察による激しい銃撃戦が起こるなど、さまざまな危機に陥るも、住民たちは決して屈せず、この場所を守り続けてきた。最終的にクリスチャニアがデンマーク政府からこの土地を買い取ることで、ようやく平和協定が結ばれたようだ。

クリスチャニアの歴史や在り方を知るうちに、もしかすると、この場所はどこよりも“デンマークらしい”のかもしれない、と思うようになった。

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コペンハーゲンにある「オペラハウス」

「日本人とデンマーク人は真逆の性格だと思う。日本人のような細やかな気遣いができるデンマーク人は少ない。でも、働くならストレスの少ないデンマークがいい」

10年以上コペンハーゲンで暮らす日本人のひとりは、こんなふうに話していた。筆者は、まだデンマークで暮らして2ヶ月足らずだけれど、相手を受け入れる能力が高く、柔らかいハッピーオーラをまとう彼らに心から好感を持っている。ここで暮らすうちに、私も彼らのようになれる日が来るだろうか。

もし、デンマークを訪れることがあれば、そのときはぜひ、写真では伝わらないクリスチャニアのストーリーに思いを馳せながら、この地を散策してみてほしい。「本当の正しさとは何か」「自分にとっての幸せとは」、忙しい毎日の中で忘れてしまいそうになることを思い出させえてくれると思うから。

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