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【齋藤薫の美容自身】一番不幸なのは目標を見失う女?

  • 2020.2.12

あまりに早々に目標を達成すると人生は虚しいものになる?

コアなファンでなくても、フィギュアスケート界の出来事には、実にいろいろなことを学ばせられる。いうまでもなく、浅田真央のフィギュア人生には一喜一憂させられ、いつもハラハラドキドキさせられた。でも今、第一線で活躍する紀平梨花選手は不思議に安心して見ていられるし、たとえ失敗して表彰台に登れなくても、胸が締めつけられない。好き嫌いではなく、紀平選手は自ら即座に立ち上がる力を持っているからなのだろう。ただ、どちらもとてつもない努力をしていることがわかっているから、真央ちゃんには人間の弱いところを見せられ、苦悩から這い上がるところを見せられ、強いシンパシーを感じたし、紀平選手には弱冠17歳の少女なのに尊敬の念さえ感じてしまう。どちらにせよ女性としての生き様を教えてもらえたりするのである。

努力と実力と精神力、そして美しさまですべてそろっていないと成立しないから、人生早熟にならざるを得ない仕事。大人が逆に人生を教えられるほど、過酷な人生を強いられている人たちなのだ。

そんな中、もっとも胸を締めつけられたのは、ザギトワ17歳の引退報道。本人が後に否定、「スケートは私の人生そのもの」と語ったものの、一時的に混乱してそんな気になったのだろう。いうまでもなく約2年前に金メダルに輝き、たちまち女王の座に躍り出た選手だが、早々と母国のロシアで引退を示唆するような報道が出たのは、4回転をポンポン跳ぶ少女たちが次々現れてしまったから。記録は破られるものとはいえ、100メートル走の記録とは違う。フィギュアは競技である前に芸術。彼女たちは明らかに芸術家。にもかかわらず世間が勝手に引退と決めつけてモチベーションを奪ってしまうのは非情すぎる。才能にフタをしてしまうような、もっと言えば目標を奪ってしまうような、残酷なやり方だった。

でも事実、目標であるタイトルを、あっけなく獲得してしまった不幸というのもあるはずだ。弱冠15歳での達成は、栄光が永遠に続くかに思えただろうに、すぐタイトルを奪われるのも悲劇だが、最終目標を一度達成してしまうと、それ以上に何を望むのかという虚無感に襲われる。そのモチベーションを保っていくのはとてつもなく難しいこと。それでも、どんどん追い抜かれていく屈辱は想像を絶するし、いっそ引退を宣言してしまったほうが楽、そう思っても少しもおかしくない。なんという気の毒な17歳だろう。才能があったばかりに、巨大な栄光とともに抱え切れない挫折を味わわされることになるのだから。

そういう意味からいえば、浅田真央はオリンピック制覇という絶対目標があったからこそ、26歳まで現役を続けられたわけで、達成はできなかったが、何か今も昔の何割かのモチベーションを保ち続けている気がしてならない。もちろんあの頃とは意味が違うが、でも最終目標をクリアしてしまう虚無感は知らずに、今もスケーターを続けているはずで、キム・ヨナの現在とは多少ともスケートに対する思いが違う気がする。もちろんどちらが幸せかわからない。けれども最後のオリンピックでみんなが泣いた最後のフリー演技、結果はまさかの6位に終わったが、まさに記録より記憶に残るスケーターは、金メダルが取れなかったからこそスケートへの憧れを持ち続けるのかもしれない。ある意味、夢は夢のままでいい。叶えなくてよいのである。逆に彼女の無念がそれを教えてくれたのだ。

自分の家のインテリアも完成させてはいけない!

実は、家のインテリアも“完成させてはいけない”といわれる。新しい家に引っ越すと、とにもかくにもインテリアを完成させなきゃと思うはず。人を招いて新居を披露するためにも、早く仕上げないとと。でも夢中で完成させて、高揚感がしばらく続いても、ひと通り人に見せたら、逆に虚しさが生まれてしまう。それも目標を達成してしまったからだ。

大きな古い家を買って、自分たちの手で改装、インテリアを仕上げていった夫婦が、すべてが完成した日から壮絶な夫婦喧嘩を始める『ローズ家の戦争』という映画があったけれど、まさにそれ。夫婦が一つの目標に向かって突き進んでいるうちは、お互い助け合い、尊重しあっているが、目標を見失うと途端にお互いのアラ探しを始めるという具合。なるほどそうなのかもしれない。インテリアを完成させた途端、人は自分の家への関心を失う。モデルルームのようにしらじらしく完成させるほどに自分の家に魅力を感じなくなる。むしろここが不満、ここが未完成という部分を常に持ち続けることが人生の充実になるということなのだ。

人生も同じ。最終目標を達成させてしまうと、自分の人生そのものへの関心がなくなる。目標を見失うと、それだけで生のエネルギーが失われ、濃密な人生が送れなくなる。だから最終目標は達成せずに、目標を持ち続けること。

「人間は、目標を追い求める唯一の動物であり、目標のために努力することによってのみ人生が意味あるものとなる」。これは古代ギリシャの哲学者、アリストテレスの言葉。そんな大昔から正解は見えていたのだ。

それこそ夢みたいな大きな目標を掲げる必要はまったくないが、逆に実現可能な目標を掲げて、一つ一つ実現しながら階段を上っていくことで、人生レベルの大きな目標に少しずつ近づいていくのが正しい。だからいつも心に何らかの目標を持ち続けることが大切なのだ。そこでこれを裏付ける格言をいくつか……。

「人生における悲劇は、目標を達成しなかったことにあるのではない。目標を持たなかったことにある」。

「人生に目標を持たない人は、不安や恐怖、自分をかわいそうに思う心にとらわれがち」。逆に、「目標を持つと、もう人がうらやましくなくなる」……。

だから「人に必要なのは才能ではなく、目標。またそれを達成するための力ではなく、達成しようと思う心なのだ」

今さら?って言わないで。新しい目標を持ったり、新しい夢を見るのに、歳をとり過ぎたということはない。「だから重要なのは、それを達成できる能力と体力を」。いや、それ以前に、「目標を持っている限り、人は歳をとらない」。つまり、目標を持つこと=エイジングケアでもあるのだ。

そこで目標を持つコツを3つ。

「計画のない目標は、ただの願い事」。だからまずは目標を具体的にすること。「人生に目標があるなら、堂々と口に出して言うべきだ」という格言もあるから、次に目標にタイトルをつけること。そして期限を決めること。毎日それを目にすることが大切だから、目標を紙に書いて貼っておく、それが一番と言う人もいる。小学生じゃあるまいしと思うのかもしれない。でも目標を持つことがエイジングケアだとしたらそれは立派な美容法。

大きすぎる目標を持って、達成できないことに落ち込むのは心にも体にもよくないし、逆に早々に達成してしまって虚しくなるのも、エネルギーの減退につながる。だからこそ、一つずつこなして、次の目標に挑み続ける、そんな人生にしてみたい。そうすればずっと輝いていられるから。そうすれば自分の人生に飽きてしまうことがない。自分自身にも飽きてしまうことがない。だから慌てずに人生を丁寧に生きるべき。

言ってはなんだが、20代で成功した美人女優が、40代まで第一線にいられるかどうか。現実を見れば残っていく人はまったくの一握りだろう。だから早く成功しようと思わない。ゆっくり生きればいい。ゆっくり自分を仕上げていけばよいのである。

言ってはなんだが、20代で成功した美人女優が、40代まで第一線でいられるかどうか。残っていくのはまったくの一握りだろう。だから早く成功しようと思わないで。早く完成しようと思わないで。ゆっくり生きればいい。ゆっくり自分を仕上げていけばよいのである
言ってはなんだが、20代で成功した美人女優が、40代まで第一線でいられるかどうか。残っていくのはまったくの一握りだろう。だから早く成功しようと思わないで。早く完成しようと思わないで。ゆっくり生きればいい。ゆっくり自分を仕上げていけばよいのである

撮影/戸田嘉昭 スタイリング/細田宏美 構成/寺田奈巳

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