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ごく普通の会社員だった私が、起業家のキャリアを歩むまで

  • 2020.1.31
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2019年秋、地域固有の植生の保全と活用を目的としたブランド「EUDITION」代表の岡田麻李さんは、現役コンサルタントとブランドプロデューサーという二足の草鞋を履くキャリアを歩んでいます。今回は、そんなパワフルな彼女にまつわる「これまで」と「これから」のお話を聞いてきました。

岡田麻李さん PROFILE

慶應義塾大学商学部卒業後、株式会社資生堂入社。英国・イーストアングリア大学院にてブランドリーダーシップ修士を修了。帰国後、ブランド・コンサルティング会社CIA Inc. にプロジェクトマネージャーとして参画。2016年株式会社スイロ設立し、2019年10月に3年間の準備期間を経て、EUDITIONをローンチ。

新卒で大企業に入社し、“スペシャリスト”としての道へ

就職活動を始めた当初は、漠然と大企業に入ることを目標としていました。大学時代アメリカに留学していたときに、欧米の友達との何気ない話の中で日本と欧米のキャリア観の違いに衝撃を受けたのがきっかけです。

“新入社員から長期スパンで育てる”日本企業に対し、“スキルを持ってスペシャリストとして入社する”欧米企業。そのとき、「私は何ができるのか?」「何か探さないと!」という焦燥感を覚えました。

ビジネスの世界でスペシャリストとして活躍したい!」というぼんやりとしたキャリア像が見えたときに、大企業に入社すれば色々な部署や人と関われて何か見つけられるかもしれないと思い、帰国後就職活動を開始しました。

その後就職活動の一環で、外資系化粧品会社での長期インターンシップに参加。外資は日本独自のマーケティングや商品開発よりも、日本にローカライズするマーケティングに注力していることを知りました。そこでの経験から「日本発で何かを発信したい」という気持ちが強くなり、日系化粧品メーカーを何社か受けて、前職の会社に入社を決めました。

「ブランディング」へ興味が沸き、イギリスへの留学を決意

入社して3年間は、大阪で百貨店営業をしていました。営業も面白かったのですが、3年くらいで大体の流れがわかってきて、仕事にもだいぶ慣れてきていました。

そんなとき、新規ブランドを立ち上げる部署から営業部に異動してきた7~8年目の先輩が、ブランディングの話をしてくれたんです。内容は、その先輩が異動前に携わっていた、百貨店最高級ラインのブランド立ち上げについて。売り上げがなかなか上がらない時期に、会議室に各店舗の店長を集めて、ブランドストーリーや商品製作の裏側を語っていただきました。そのたった1回のレクチャーで、びっくりするくらい売り上げが伸びて「これは何かスペシャルな力があるな」と思いました。

その日からブランディングに携わりたい気持ちは膨らんでいったのですが、大企業がゆえに自分の意思ではすぐに動けない状況が続きました。

自分なりに調べていくうちに、イギリスに1年間みっちりブランディングについて学べる修士課程があることを知り、退職を決意しました。

イギリスで本格的にブランディングを学び始めると、自分がいかにメーカー側の考え方しかしてこなかったかを痛感。別の軸でモノを見ることで考え方が180度変わりましたし、物事を体系的に考えて、概念化することの重要さを学びました

大学院での経験が今のキャリアに大きく生きているので、あのとき、あの選択をして本当に良かったなと思っています。

帰国後、ブランド設立のきっかけとなる岸良との出会いが

修士課程終了後は、運よくブランディング会社に就職し、コンサルタントとして働いていました。そんなときに、会社員時代の大先輩に「サザエや伊勢海老を食べさせてあげるから、おいでよ」と誘われ、軽い気持ちで遊びに行ったのが鹿児島県肝付町岸良(きもつきちょうきしら)との出会いでした。

コンビニやガソリンスタンドすら無い街だけれど、土地本来が持つ力や風土に完全に魅了されてしまって…。「何か出来るはずだ」と思い、まずはボランティアとして活動を開始しました。

岸良の人々とその土地に惚れ込んだ私は、地域固有の固有の香酸柑橘である辺塚だいだいを活用した、地域おこしを目的とするNPO法人の理事に就任し、本格的に活動をスタートさせたのですが、その矢先に大事件が発生。

なんとNPOの発起人であり、私を理事に誘ってくれた先輩が、LINEに一言「ごめん」とだけメッセージを残して夜逃げしたんです。これまで人に裏切られるという経験をしたことがなかったので、はじめは何が起こったのか理解できませんでした。

彼のおかげで岸良という土地に出会えたので、今となっては感謝していますが、やはり精神的に辛い出来事でした…。結果的に農家さんとの結束が強まり、NPOでの活動の根本を考え直すきっかけにもなりました。

NPOでの辺塚だいだいを使ったジュースやジャムの販売は、単価が安い上に、利益率も低いという大変な事業。そもそも岸良という土地に産業がないこと、そして辺塚だいだいの生産量自体が少ないので持続可能な産業利用も僅かという根本的な問題が浮き彫りに…。

産業利用できる方法を探しているときに、植物療法士の森田敦子さんと出会い、商品開発の第一歩を踏み出しました。

「課題をクリアしていない」商品の誕生へ

大先輩の裏切り、そして先行き不透明なこのNPOをどうすれば…と憔悴しきっていたときに、出会ったのが植物療法士の森田敦子さんでした。

森田さんはいつも私が息詰まったときに的確なアドバイスをくれる方。あるとき、辺塚だいだいの精油を手に森田さんの元を訪ねたのですが精油は僅かしか取れないものだから、生産量が少ないという課題をクリアしていない。NPOでジャムやジュースに加工した後の辺塚だいだいの不可食部を、酵母で培養するのが問題解決へとつながるんじゃない?」とアドバイスをいただきました。

酵母での培養は商品としての販売だけでなく、将来的には化粧品原料売買も期待できること。そして、化粧品原料売買がビジネスとして成立すれば、最終商品より利益率は低いけれど、農家に過度な負担をかけず安定的に岸良の人々に還元も見込める産業になる可能性を感じました。

まさに辺塚だいだいを中心とした、実現可能なポートフォリオを初めて組めた瞬間。あのとき、森田さんのアドバイスがなければ、「EUDITION OIL」は出来ていなかったんじゃないかな、と思います。

「EUDITIONは化粧品ブランドではない」植物発信で考えるようになったきっかけ

一般的にビジネスの世界ではマーケティングプランがあって、ターゲットがいて、市場規模を見て、内容や価格を決める…というのが商品を作る流れ。でも、EUDITIONは「この原材料どうする?」「この土地が抱えている問題はどうする?」がスタート地点なんです。

第1弾の「EUDITION OIL」も、辺塚だいだいの不加食部が化粧品原料として地域貢献に繋がると森田さんが提案してくださったので、化粧品として販売しました。持続的に貢献できるのではあれば、化粧品にこだわらずどんなカタチでもいいと思っています。

もしかすると第2弾は北海道で何か草を見つけて、洋服を染めているかもしれないし、食品にしているかもしれない。良くも悪くも分からない、そんなライフスタイルブランドにEUDITIONをしていきたいんです。周りの人からは、効率が悪いと言われるんですけどね(笑)。

そもそも日本全体は「生物多様性ホットスポット」と呼ばれていて、多様で豊かな植生を国土全体で持つ国は、世界的に見ても稀。一方で、人類による危機に瀕している状況でもあるんです。

だから、日本各地域に眠っている固有の植物を後世に残したり、活用するにはどうしたらいいのかを常に植物発信で考えています

ブランドを継続させていくために

こうしていざ、ブランドを始めるとなるとやはり重要になるのが金銭面。EUDITIONのプロジェクトを進めながらも、元々やっていたコンサルティング業は続けていました

コンサルタントはほとんど初期費用がかからないし、在庫を抱えることもなく、身一つでできる職業。なおかつ、生々しい事を言えば、現金化が早い。なので実は立ち上がりに関して言えば、あまり苦労はしませんでした。

EUDITIONの商品が出来上がってくると、クラウドファンディングもしていたものの、みるみるお金がなくなっていきましたね。お披露目展示会を恵比寿のギャラリーで開催したのですが、このときは本当にカツカツで…「こんなにお金ってなくなるんだ」と驚きました(笑)。

実は、小規模にお披露目して、オンラインで地道に売って行く戦略だったのですが、リーフレットやWebサイトの写真を担当してくれた、写真家・八木夕菜さんのステキなアートピースに魅了され、写真展も一緒に開催するために規模を拡大。大変なこともありましたが、色々な人が協力してくれてたくさん助けられました。

二足の草鞋だからこそ両方上手くいっている

今の私には、ブランドプロデュースとコンサルの二足の草鞋が合っているのかな、と感じています。時間と身体は足りていないですが…(笑)。

プロデュース業は、ブランドを作っても継続しなくては生産者に迷惑がかかってしまうので、細く長く続けることに意味がある産業だと思っています。

現実的に会社として存続していくためには、お金が必要。そうなると、現金化のスピードの仕組みが違うものがあるだけで、リスクヘッジになるというのが正直なところ。現金化が早いコンサルティング業だけど、コンスタントに次の仕事が入っているわけではないので、予測が難しいところが弱点。今は低空飛行だけれど、これからお取引先を広げて、コンスタントにお金が入ってくる仕組みを作っていくことが今後の目標です。

あとは一つのことに凝り固まっていると、視野が狭くなっていく気がしていて…。コンサルタントとして、色々な業界を見させてもらうことで、上手くバランスを取れている気がしています。

客観視するコンサル業と主観ベースのプロデュース業、二つを同時に進めることで相互作用も。例えば、プロデュース業で煮詰まったときにコンサルの視点を持ち込むことで、客観視することが出来て、現状を打破出来たり…どうやって切り替えているのかは、自分でもわからない部分もあります(笑)。

そして今年からは原料売買を始める予定なので、三足の草鞋になる可能性もありますが、それぞれがいい刺激になると考えています。

“起業したい”と考えるコスモ読者へのメッセージ

まず、人との出会いは大切に。その時に何かが起こるとか、相手から何かをしてもらえるというのは重要ではなくて、自分が「この人、素敵だな」「素敵な仕事しているな」と感じた人との関わりを大切にしていると、3〜4年後に巡り巡って良いことが起こるかもしれません。

あとは、広く情報を取る努力をすること。スマートフォンでニュースをチェックしていると、どうしても自分の興味のある分野だけに話題が絞られてしまうこともありますよね。新聞やテレビニュースなどアナログな媒体から情報を収集することで、自分の興味がない情報も自然と入ってきます。一見すると無駄とも思える情報も、周りの人との共通の話題にもなって、自分の思ってもみない展開に繋がることもあるはずです。

だからこそ、一つのことに凝り固まらず、広い視野を持つことを忘れずにいることが大切だと思います。

EUDITION

EUDITIONは、日本の土地が育む豊かな植生を「編集(EDIT)」し、良質なプロダクトとして届けながら固有種をはじめとする、地域固有の植生を保全し活用することを目指すブランド。EUDITIONのものづくりは、日本各地の豊かな植生を自分たちの足で探すことからスタート。地勢と文化を映し出す地域固有の植生が織りなす多様性を守り、新しい物語を紡いでいくため、全ての売上の1%はローカルコミュニティに寄付している。第一弾の「EUDITION OIL」を2019年10月に発売。

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