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わたしは愛される実験をはじめた。第43話「いい男はよってこない、いいよってくる男はつまんない?」

  • 2019.12.25

【読むだけでモテる恋愛小説43話】30代で彼氏にふられ、合コンの男にLINEは無視されて……そんな主人公が“愛される女”をめざす奮闘記。「あんたはモテないのを出会いがないと言い訳してるだけよ」と、ベニコさんが甘えた“パンケーキ女”に渇を入れまくります。恋愛認知学という禁断のモテテクを学べます。

■第43話「いい男はよってこない、いいよってくる男はつまんない?」

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ついにイケメンのテラサキさんからLINEがきた?

ひとり暮らしの部屋で、ちゃぶ台の上のスマホが光った──いつもなら光速でスマホを手にとるところだろう。

でも、とっさに目をそらしてしまった。この喜びをかみしめたかったから。夕食後の座椅子にかけたまま、顔を下に、私はにやにや気持ちのわるい顔をした。すでにイケメン彼氏をゲットしたみたいな気持ちだった。やっと、この我慢の日々が──こちらから連絡しないという恋愛認知学のトラップ・メソッドを試していたから──むくわれたのだ。

いや、だめだ。

ぶんぶん首をふった。ここから正念場だ。こんなときこそ冷静にしないと。姿勢をただして、息をおちつけた。肩をぐるんとまわした。スマホの画面に目をやった。

『あ、そうなんですね。お仕事がんばってください。(絵文字)あの忙しかったら全然いつでも大丈夫なんで(絵文字)また大丈夫そうになったら教えてください!(絵文字)(絵文字)』

なんだこれ。

まず絵文字の多さにビックリした。ていうか、イケメンのテラサキさんじゃなかった。合コンのあとデートの誘いをくれた理系男子のクリタさんだった。頭のなかにアップルウオッチをしていた眼鏡の姿を思いだした──正直、もはや顔もぼやけている。

その彼のデートの誘いに「最近いそがしくてすみません。ちょっと、おちついたらお願いしますね」と、ふわっと断りのLINEをいれたきりだった。

とたんに冷静になる自分がいた。ていうか狙っているテラサキさんからだと期待してたぶんムカッとする自分もいた──自分勝手だけど。その絵文字の多さにも腹がたった。

おもわずベニコさんにスクショを送信した。私たち女子はすぐにスクショを送る生物だなと思った。『なんかクリタさんからきたんですけど、なんなんですかこれ』

『あなたの断り文句を信じてるんでしょうね』スマホのむこうでは、ぽっちゃり体型ながら、ワンカールした黒髪、欧米風メイク。ブラックスーツを着て、あいかわらずアメリカンドラマのキャリアウーマンという感じだと思う。『いつか誘いがくると思ってる』

『やんわり大人のトーンで断ってるだけじゃないですか』

『昔のあなたみたいにね』

その文字にウッとなった。私も男性からの「おちついたら連絡するよ」というLINEを信じて、いつまでも待っているパンケーキ女だったから。

『そういわれると可哀想になってきました』

『可愛がってあげたら?』

『まさか』私は送信した。『いまはテラサキさんを狙うんです!』

『じゃあ既読スルーでもすることね』

『いわれなくてもそうしてたかも。なんで狙ってるタイガー(モテる男子)のテラサキさんからLINEがないのに、フィッシュ(モテない男子)のクリタさんからはくるんでしょう?』

『パンケーキちゃん。それは恋愛認知学的にも真理よ』ベニコさんは送信した。『いい男はよってこない、いいよってくる男はつまんない』

『はい?』

『モテない女が決まって口にする台詞よね──聞いたことは?』

『うん、似たようなことはめっちゃ友達もいいますね。ていうか、私もあるかも』

『なぜだと思う?』

私はしばらく考えた。座椅子にもたれ、ちゃぶ台のお茶を飲んだ。『いい男はモテるし、わざわざ自分からいかなくても満たされてるから、みたいな感じですか?』

『半分正解』ベニコさんは送信した。『それは男側の問題ね』

『女側にも問題があるってことですか』

『オフコース。恋愛にはいつだって男側と女側の問題があるわ。両方を考えることよ。いい? その原因はモテないパンケーキ女に限って、露骨に、相手によってふるまいを変えてしまうことにあるの。それも悪い結果がでるように』

『悪い結果? どういうことです?』

『花がいずれ咲くのと同じくらいシンプルなことよ。パンケーキ女は、いい男に〝媚びるようなポジションが下のふるまい〟をして──それでは気をひけないのに──つまらない男に〝どうでもいいがゆえのポジションが上のふるまい〟をしてしまう。これよ。あっというまに〝いい男はよってこない、いいよってくる男はつまんない〟のできあがり』

私はごくりと唾をのんだ。ベニコさんの恋愛認知学にかかれば、あっというまに恋愛の謎が解けてしまうから。そんなの考えたこともなかった。

『えっと。男性側の問題もあるけど、女性側が態度を変えてしまうのも問題なんですね』

『パンケーキちゃん。モテる女はだれに対してもフラットよ』

『フラット?』

『まわりの本当にモテる女性を思い浮かべて』ベニコさんは送信した。『彼女たちは、それぞれ違いはあれど、男にも女にも同じように接しているはずよ』

私は天井をみつめながら、ピーチミントを一粒とりだしてがりっと噛んだ。

そういえば──前の部署に年下の社員にやたらモテる先輩がいた。いわれてみれば相手によって態度をかえてなかった気がする。タイガー(モテそうな男性)にも冗談をいったりNOをいうし、フィッシュ(モテない男性)にも同じように接していた。

もしかして。偉そうでも媚びるわけでもなく、ひとりの人間としてあつかっている感じ──それがフラットの正体なのかも。

同時に疑問が浮かんだ。『あの、なんで私みたいなパンケーキ女は、相手によって態度を変えちゃうんでしょう? もうパンケーキ女だからなんですか?』

『スタイルがないからよ』

『スタイル?』私はむっとして送信した。『そりゃ、そろそろダイエットしないとな、とか思ってましたけど関係なくないですか?』

『逆上する女という名のパンケーキ』

『ミホです』

ベニコさんは無視した。『パンケーキちゃん。いわば信念や行動原理のほうのスタイルよ。自分のスタイルができていないから相手によってブレてしまう』

『それって、どうやって作ればいいんですか。説明会とかあるんですか?』

『だから、あんたはパンケーキ女なのよ』

『今日めっちゃなじられてる』

『そのために恋愛認知学があるんじゃない。メソッドをひとつずつこなすこと。実感できるまで形からおぼえていくしかないわ』

『そっか。ようやくスタイルの意味がわかってきました』

『スタイルを保てば女は負けない』ベニコさんは送信した。『相手の心に触れるか触れないかを悩むより、自分がブレるかブレないかを追求するほうがモテるわ』

そのLINEの文字は、度数の高い、お酒のようにとろりと胸にしみた。

たしかに、私の恋愛や、コミュニケーションにはスタイルがなかったかも──つくづく痛感する。いつも、まわりに対して〝どう反応すればいいか?〟ばかりを気にしていた。好かれたい嫌われたくない、を基準にすべてを決めていた。

でも、それでは相手の顔色をうかがう毎日にしかならない。そんなのは愛される女ではない。大事なのは、どんな場所でも、どんな相手でも、ブレない自分を──スタイルを──作ることだったんだ。

私は立ちあがってカーテンをあけた。窓ガラスの奥に夜空があった。その奥に月は浮かんでいた。こんなふうに月をみたのはひさしぶりかもしれないなと思った。

『いい男はよってこない、いいよってくる男はつまんない』そのときスマホが光った。ベニコさんからだった。『さらに、この言葉に隠された意味がわかる?』

『どういうことです?』私はフリックしながら首をかしげた。

『この言葉には〝恋愛は受け身でいい〟という精神がまるごとあらわれているのよ。まさに自分から攻めるという発想がすっぽりぬけおちているパンケーキ女の台詞』

『いわれてみればそうかも。問題にしてるのは、男性がよってくるかどうかだけですもんね』

『真実を──真実だからこそ──何度でもいうわ』ベニコさんは送信した。『人生を変えるのは、リアクションじゃなくてアクションよ』

愛される実験をはじめて、何度も耳にしてきた言葉だった。待つだけではなにもおこらない。その代わり自分から動けば人生はかわりはじめる。どんどん景色が変わっていく。それは大人になってからようやくわかった──だれも教えてくれなかった──人生の秘密だった。

私はうなずいた。何度でも胸に刻もう。

■今日の恋愛認知学メモ

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・【スタイル】まわりによってブレない自分の軸のこと。とにかくスタイルを作ること。

・〝いい男はよってこない、いいよってくる男はつまんない〟という言葉には、受け身でいいという発想があらわれている。

・人生を変えるのはリアクションじゃなくてアクション──とにかくアクションだ。

【エピソード】

第1話「黙って座りなさい、モテる女にしてあげるから」
第2話「モテたくない? だからあんたはパンケーキ女なのよ」
第3話「みつめるだけで男を口説き落とす方法」
第4話「この不公平な世界で女がモテるには?」
第5話「魔法のように男を釣りあげるLINEテクニック」
第6話「なぜモテる女は既読スルーを使いこなすのか?」
第7話「男に愛想をつかされないデートプランの作り方」
第8話「デートは5分遅刻する女が愛される?」
第9話「モテたいなら男と恋バナをすること」
第10話「ボディタッチを重ねても男は口説けない」
第11話「愛される女はさよならを知っている」
第12話「パンケーキ女、ひさしぶりの合コンで撃沈」
第13話「合コンでサラダをとりわける女子がモテない理由」
第14話「合コンに100回いっても愛されない女とは」
第15話「合コンのあとに男心を釣りあげるLINE術」
第16話「合コンにイケメンを呼びよせるLINE誘導術」
第17話「合コンには彼女持ちがまぎれているので要注意」
第18話「モテる女はグラスを近づけて男の本能をゆさぶる」
第19話「モテる女は自己紹介からデザインする」
第20話「顔をあわせて5秒で脈アリかをさぐる方法」
第21話「なぜ空気を読める女はモテないのか?」
第22話「ひとみしりを克服する方法」
第23話「友人がフラれた話をして恋愛観をさぐりだせ」
第24話「相手の好みのタイプになれなくても逆転するには?」
第25話「モテる女はさらりと男から共感をひきだせる」
第26話「場の空気にすら愛される女はここがちがう」
第27話「愛されたいなら二次会にいってはいけない」
第28話「合コンの夜にLINEを送るとモテない?」
第29話「私たちはモテそうな男ばかり好きになってしまう」
第30話「まだ男は浮気しないと信じてるの?」
第31話「モテる男に挑戦する? モテない男を捕獲する?」
第32話「恋愛の失敗は、自分がなにをしているか理解してないときにやってくる」
第33話「優秀で私だけを愛してくれるオスはどこにいる?」
第34話「私たちは想いを言葉にすることで愛される女になる」
第35話「モテない男を捕まえるためにメイクより大切なこと」
第36話「なぜあの女はハイスペック男子に選ばれたのか?」
第37話「男との会話を笑顔で逃げる女がモテない理由」
第38話「男の機嫌をとるためだけに笑ってない?」
第39話「恋愛対象外の男子に失礼にふるまってない?」
第40話「まだフラれてることに気づいてないの?」
第41話「モテる女はLINE1通目から男心を罠にかける」
第42話「暴走しがちな恋愛感情をおさえるマインドフルネス?」
第43話「いい男はよってこない、いいよってくる男はつまんない」
第44話「LINEで絵文字を使うほどモテなくなる?」
第45話「LINEは疑問符をつければ返事がくると思ってない?」
第46話「男に未読スルーされないLINEを作ろう上級編」
第47話「男の誘いLINEに即答でのっかる女はモテない」
第48話「イケメンのLINEを既読スルーできる?」
第49話「愛される女は自分ばかりを愛さない」
第50話「モテる女のスリリングなLINEの作りかた」
第51話「彼と距離を縮めたいならLINEで〝悪口〟を共有する」
第52話「デートの約束は日にちまで決めてしまうこと」
第53話「最短でモテる男とのデートの日程を決めるには?」
番外編「モテる女は付き合う前にクリスマスプレゼントをわたすのか?」

■祝! 『わた愛』小説化・漫画化が決定

2019年2月5日公開
2019年12月25日更新

浅田悠介さんの連載『わたしは愛される実験をはじめた。』の小説化・漫画化が決定しました。
作品化を盛り上げていくべく、バックナンバーを1日2話、12時15分、22時に1話ずつ『DRESS』トップページに再掲します。

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