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わたしは愛される実験をはじめた。第33話「優秀で私だけを愛してくれるオスはどこにいる?」

  • 2019.12.20

【読むだけでモテる恋愛小説33話】30代で彼氏にふられ、合コンの男にLINEは無視されて……そんな主人公が“愛される女”をめざす奮闘記。「あんたはモテないのを出会いがないと言い訳してるだけよ」と、ベニコさんが甘えた“パンケーキ女”に渇を入れまくります。恋愛認知学という禁断のモテテクを学べます。

■第33話「優秀で私だけを愛してくれるオスはどこにいる?」

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現代の女がとるべき、もっともスマートな恋愛戦略?

「そんなものがあるんですか」私はいった。「それが正解ってことですよね?」

「正解ではないけれど、あんたみたいなパンケーキ女にはオススメできるわ」

「はやく教えてくださいよ」私はよだれがでるのを禁じ得なかった。「いつもだったら反論するところだけどパンケーキ女でもなんでもいいですから」

私たちは京都の鴨川の河川敷にいた。夕方にさしかかっていた。

「さっき男には二種類いるといったわね」ベニコさんは指を二本たてた。ワンカールしたボブ。ばっちり濃いアイメイク。ぽっちゃり体型ながら、あいかわらずアメリカンドラマのキャリアウーマンみたいな雰囲気だった。「モテる男である〝タイガー〟と、モテない男の〝フィッシュ〟よ——恋愛世界の勝ち組と負け組みたいなものね」

私はスタバ印の紙コップを手にうなずいた。ふと川から風が吹いて、私とベニコさんの髪をゆらした。ひとことも逃すまいと、その風に負けないように耳をこらした。

「そして」ベニコさんのキューティクルの光る髪もゆれた。「どうしても女の本能はタイガーに惹きつけられてしまう。どこにいっても、その場の人気者を目で追ってしまうものよ。しかしタイガーは競争率も高い。女慣れしてるし——浮気する可能性だってあるわ。それに比べるとモテないフィッシュを口説くのは比較的やさしい。浮気もしない。大事にしてくれる。しかしドキドキする恋の相手とはいいにくい」

「そこから選ぶって究極の二択ですよね」私はいった。「人によって違うだろうし——」

「そこで、もっと本質をみるのよ」

「本質ですか?」

「本質とは〝何によって、それが成立しているか〟ということ」ベニコさんはいった。「あなたの目的はなんなの?」

「もちろん恋人をつくることです」

「どんな恋人?」

「え、恋人? 理想ですか?」

ベニコさんはうなずいた。

「そりゃ身長170あって、おもしろくて塩顔イケメンで——」私はなぜかテンションがあがった。しかし、いや、このパターンはと途中で気づいた。「あの、これって好きに注文したら、あとで、だからあんたはパンケーキ女なのよ、とか、なじられるやつですか?」

「安心しなさい」ベニコさんはきっぱりいった。「すでにパンケーキ女よ」

「ひどい」

ベニコさんは私の抗議を無視した。「ようするに、パンケーキちゃんはなるべくランクの高い——理想に近い——男をゲットしたいということでしょう?」

「そりゃそうです。だれだってそうですよね?」

「だからこそ、ほかの女より本質をみなくてはいけないわ」

私は眉をよせて考えたけどわからなかった。「どういうことです?」

気づけば日曜日の午後は暮れかけていた。舗装された河川敷や鴨川を暗がりが包みはじめる。水辺のむこうに町あかりが浮かんだ。

「いい?」ベニコさんはひとさし指を立てた。「いまから現代の女がとるべき、もっともスマートな恋愛戦略を教えてあげる。愛される女とは、まわりの女と同じものをみて、そこから違うことを考えられる女のことなのよ」

「はあ」私はアホみたいに口をあけた。ていうかアホまるだしだった。「はあ?」

「例えばBBQ会場にいっても、女は、ちらちら中心で楽しそうにしてるタイガーばかり目で追ってるでしょう? あわよくば好かれるかもなんて考えている。そして隅でかたまっているフィッシュの群れには近よろうともしない」

私は数秒イメージした。「それは、たぶん、そうだろうなと思います」

「パンケーキちゃん」ベニコさんはメイクの濃い目をみひらいた。「そこで、ほかの女と同じところを狙ってはいけないのよ。いい? 私たちは、ほかの女がすぐにみつけるような表面的な〝モテそうな箇所〟にひっかからないことが大事なの。イケメンだとか、会話がおもしろいとか、目立っているとか——それらも確かに重要よ。でも、それはドキドキできても〝あなたを幸せにしてくれるかどうか〟の基準にはならない。それだけで選んでいる限り、本能の言いなりのままだし、ほかの女との競争に巻きこまれることになる」

私はとまどった。とても重要なことをいわれている気がしたから。確かにいつだって目を惹くのはカッコよくて、おもしろくて、雰囲気があって、モテそうな男性だ。でも、それは〝私を幸せにしてくれるかどうか〟の基準にはならない——ぐぐっと胸に響いた。

「人間は悲しくもわかりやすい良さにしか反応できない生物なのよ」

「それがタイガーってことですか」

「だからと、あなたまで踊らされる必要はない」ベニコさんはうなずいた。「情熱や感情に走るのも否定しない。その代わり、そっと情熱の海のなかに理性をまぜてあげるのよ。もっと広い視野で男を観察すること。血で血を洗う競争に飛びこむよりは、ほかの女がいない場所で勝負するほうがいい。一流の骨董の目利きはね、だれもが群がるような商品より——みなが注目をしてるすきに——だれも価値を理解してない良品を狙うのよ」

「だれも価値を理解してない良品? それってなんです?」

「もうわかるはすよ?」ベニコさんはにやりと笑った。「ほかの女が群がるタイガーではなく、ほかの女が近づかないフィッシュのなかから光りかがやく男をみつけること——これが恋愛認知学の導きだした最適解〝トロピカルフィッシュ戦略〟よ」

「トロピカルフィッシュ戦略」私はくりかえした。「熱帯魚ですか」

「現代の女がとるべき、もっともスマートな恋愛戦略」ベニコさんはいった。「ほとんどの女は、ぱっと目を引くものがない男を〝ランクの低い男〟と決めつけて近づこうとしない——まさにフィッシュのことね。でもよく考えてみると、それは〝恋愛の世界で弱者〟というだけであって〝人間としてランクが低い〟わけではないのよ。年収数千万の社長がいるかもしれない。高いIQの研究者がいるかもしれない。磨けば光るルックスかもしれない。深く人生を知っている人物かもしれない。そして——あなたを幸せにする力をもっているかもしれない」

私はいままで参加したイベントやパーティ——さらには教室や職場を思いだした。たしかに彼らと向きあったことはなかった。むしろ避けていたと思う。彼らにも、人生や仕事、情熱を傾けていることはあるはずなのに。それを知ろうともしなかった。

「なんか考えさせられます」私はうなずいた。「そっか、そうですよね」

「ぱっと目を引くことはないかもしれない」ベニコさんはひとさし指を立てた。「けれど、それだけでアリかナシを決めるのはやめなさい。ほかの女もいないからガラ空きじゃない。彼らは経験も浅く、自分から女に近づくこともできない。独占できるわ」

「独占って。それって、どうするんです?」

「その群れのなかで恋愛認知学どおりやるだけよ。しかもフィッシュと打ち解けることで——さびしそうな男の相手をしてあげることで——会場の空気のためにアクションができる女だと思われる。あくまで副産物だけれど、合コンのような場ではエゴイスティックな行動をしてはいけないという〝ノン・エゴイスト・セオリー〟にもなるわ。つまり、その場での価値が上がる——さらにモテる女になる」

私は息をついた。探偵の推理でもきいてるみたいだった。「すごいテクニカルですね」

「なんでも細かく刻むと難しくできるってだけよ」ベニコさんはいった。「そして質問するの」

「質問? なにをですか?」

「なんでも」ベニコさんはいった。「めざしていること、人生についてどう感じているか、孤独を感じる瞬間、恋愛に必要だと思うこと、尊敬する人物、最高の休日の過ごしかた——もちろん上辺だけでなく相手の心の奥にせまる質問をすること」

「そっか」私はいった。「恋愛認知学の〝キラークエスチョン〟も使えそうですね」

「まさに。あなたには異性と心を近づけるためのメソッドを教えてきたはずよ。けれど技術は使えるだけでは意味がない。大事なのは使いどころ——なにがいいたいかわかる?」

私は考えたあとでうなずいた。「なんとなく、わかる気がします」

ベニコさんは京都の空をみあげた。夜と夕ぐれの境があった。なにかに思いをはせるような顔のあと、そっと私の肩に手をふれた。「そして、あなただけのトロピカルフィッシュをみつけなさい」

トロピカルフィッシュか。肩におかれた手をみながら、私は、ずっと昨日の合コンのことを考えていた。すると思い浮かぶのは、やっぱりテラサキさんの顔だった。トロピカルフィッシュじゃない。モテそうなイケメン男子。まさに強敵タイガーだった。恋愛認知学的に、相手にしてはいけないのかも。それなのに、いまでも胸の奥がドキドキする。

私の心は、いうことをきいてくれるだろうかと思った。

■今日の恋愛認知学メモ

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・【トロピカルフィッシュ戦略】モテる男であるタイガーでなく、モテない男であるフィッシュの群れのなかから光る男性を探すこと。

・【ノン・エゴイスト・セオリー】合コンのような場ではエゴイスティックな行動をしてはいけないという法則。おいしく映るのはいい。悪めだちはだめ。

・【キラークエスチョン】アメリカの心理学者による一時間で深い関係になる質問。※第9話「モテたいなら男と恋バナをすること」参照
「世界中のだれとでも飲みにいけるとしたら、だれにします?」
「電話をかけるまえに頭のなかでリハーサルってします? それって、どうしてです?」
「最高の週末ってどんな感じです?」
「最後に人前で泣いたのっていつです? それと一人で泣いたのも」
「いちばん大切な思い出をきかせてください」
・好きって気持ちはおさえることができるのものなの?

【エピソード】

第1話「黙って座りなさい、モテる女にしてあげるから」
第2話「モテたくない? だからあんたはパンケーキ女なのよ」
第3話「みつめるだけで男を口説き落とす方法」
第4話「この不公平な世界で女がモテるには?」
第5話「魔法のように男を釣りあげるLINEテクニック」
第6話「なぜモテる女は既読スルーを使いこなすのか?」
第7話「男に愛想をつかされないデートプランの作り方」
第8話「デートは5分遅刻する女が愛される?」
第9話「モテたいなら男と恋バナをすること」
第10話「ボディタッチを重ねても男は口説けない」
第11話「愛される女はさよならを知っている」
第12話「パンケーキ女、ひさしぶりの合コンで撃沈」
第13話「合コンでサラダをとりわける女子がモテない理由」
第14話「合コンに100回いっても愛されない女とは」
第15話「合コンのあとに男心を釣りあげるLINE術」
第16話「合コンにイケメンを呼びよせるLINE誘導術」
第17話「合コンには彼女持ちがまぎれているので要注意」
第18話「モテる女はグラスを近づけて男の本能をゆさぶる」
第19話「モテる女は自己紹介からデザインする」
第20話「顔をあわせて5秒で脈アリかをさぐる方法」
第21話「なぜ空気を読める女はモテないのか?」
第22話「ひとみしりを克服する方法」
第23話「友人がフラれた話をして恋愛観をさぐりだせ」
第24話「相手の好みのタイプになれなくても逆転するには?」
第25話「モテる女はさらりと男から共感をひきだせる」
第26話「場の空気にすら愛される女はここがちがう」
第27話「愛されたいなら二次会にいってはいけない」
第28話「合コンの夜にLINEを送るとモテない?」
第29話「私たちはモテそうな男ばかり好きになってしまう」
第30話「まだ男は浮気しないと信じてるの?」
第31話「モテる男に挑戦する? モテない男を捕獲する?」
第32話「恋愛の失敗は、自分がなにをしているか理解してないときにやってくる」
第33話「優秀で私だけを愛してくれるオスはどこにいる?」
第34話「私たちは想いを言葉にすることで愛される女になる」
第35話「モテない男を捕まえるためにメイクより大切なこと」
第36話「なぜあの女はハイスペック男子に選ばれたのか?」
第37話「男との会話を笑顔で逃げる女がモテない理由」
第38話「男の機嫌をとるためだけに笑ってない?」
第39話「恋愛対象外の男子に失礼にふるまってない?」
第40話「まだフラれてることに気づいてないの?」
第41話「モテる女はLINE1通目から男心を罠にかける」
第42話「暴走しがちな恋愛感情をおさえるマインドフルネス?」
第43話「いい男はよってこない、いいよってくる男はつまんない?」
第44話「LINEで絵文字を使うほどモテなくなる?」
第45話「LINEは疑問符をつければ返事がくると思ってない?」
第46話「男に未読スルーされないLINEを作ろう上級編」
第47話「男の誘いLINEに即答でのっかる女はモテない」
第48話「イケメンのLINEを既読スルーできる?」
第49話「愛される女は自分ばかりを愛さない」
第50話「モテる女のスリリングなLINEの作りかた」
第51話「彼と距離を縮めたいならLINEで〝悪口〟を共有する」
第52話「デートの約束は日にちまで決めてしまうこと」
第53話「最短でモテる男とのデートの日程を決めるには?」
番外編「モテる女は付き合う前にクリスマスプレゼントをわたすのか?」

■祝! 『わた愛』小説化・漫画化が決定

2018年10月23日公開
2019年12月20日更新

浅田悠介さんの連載『わたしは愛される実験をはじめた。』の小説化・漫画化が決定しました。
作品化を盛り上げていくべく、バックナンバーを1日2話、12時15分、22時に1話ずつ『DRESS』トップページに再掲します。

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